第39話 話しちゃダメじゃないの?

 先遣隊の三人は用件を伝え終わり、改めて色々と謝罪のこもった礼をすると、長居することもなく帰っていった。


 先遣隊として関係者への事前連絡に加えて、経緯いきさつ的にもオレ達の様子確認が任務だったんだろうなぁ。

 おそらく明日以降は、責任者的なもっと上の立場の人が出てくるんだろう。


 緊急性も高く無いことから、マリオンさんは夕食がまだのユリアとオレを気遣い、三人での話し合いは明日に持ち越し。


 風呂と夕食を済ませ、ユリアと話し合っているんだけど……


「町長の指示と、お怒り……ねぇ」


 おそらく有力者であるマリオンさんと、彼女と懇意こんいにしているユリアとオレだったからだとは思うけど……もしくは、リーダーも何か思うところがあったのかもしれない。


 先遣隊のリーダーは、それ隠しといた方がいいんじゃないっすか? と思うほど、例の家と土地を買い上げるに至った経緯と、町長が何を指示し、何に怒ったのか説明してくれた。


 町長いわく、


「民家から魔物が出てくるとは、虚言きょげんがないと証明された以上、町を揺るがす問題であり、早期の解明と解決が望まれる」


 おそらく聴取を行う際に何かしらの方法で、嘘を見破れるようにはしていたんだろうね。

 関所と一緒で嘘は付かず、ユリアやオレの本当の素性など、隠すところは言葉に出さなかったから潔白となったんだろう。


「調査に進展が無いのなら、職人の協力だけではなく、魔物や魔術魔法関連の専門家を招聘しょうへいして調べろ」


 職人が協力してもわからなかったってことは、アルが発見した質感の違う石材は、地下にはなかったのだろうか。


「調査隊と衛兵隊で、なぜ別々に関係者を何度も呼び出している? 双方の報告書を合わせると、わずか十日で四回も同じことをしている。調査隊と衛兵隊で情報を共有しろ。時間と労力を無駄にするな」


 衛兵隊と調査隊で指揮系統が違ったのか。

 どおりで何度も呼び出されたはずだわ。


「被害にあった者は、『知人を頼り数日前に越してきたばかりの若い夫婦。善良で調査に協力的。虚言は一切無し。犯行の可能性は極めて低い』と、報告書にある」


 めっちゃ良い感じに報告されてたんだね。

 ってかリーダーさん。報告書の内容とか、当事者のオレ達に話しちゃダメじゃないの?


「協力的だからと何度も同じことで呼び出し、調査協力のために家も土地も無償で明け渡した善良な若者に、わずかばかりの宿代も出していない。

 衛兵隊と調査隊が、権力を振り回す強盗や侵略者のたぐいとは知らなかった。家を封鎖した日数分の宿代を被害者へ補填」


 し、辛辣しんらつぅ。

 衛兵隊も調査隊も横柄おうへいではなかったから、全く気にしていなかったんだけど、補填せよって法か規則があるのかもしれない。


「問題の家は解決まで封鎖。本件関係者以外は一切近付けるな。所有者に土地及び家屋かおくの買い上げを要請しろ」


 てな感じだったらしい。



「町長は、この町を含む一帯を治めていらっしゃる伯爵が、在野ざいやから任じた士爵でしたわね。代官と町長を兼任されておりますわ。任官して十五年。住民からの評判も良いようです」


「民間から授爵された方だから、住民目線で見ているのかもしれないね。今回のお達しも、とても貴族的とは思えないよ」


 この国の法や風潮なのか、または町長の個人的な方針や矜持きょうじなのか。


 名声のために被害者救済の声を上げる場当たり的なものではなく、ひとつの町の規則として被害への補填があるってのはすごいな。


 祖国の常識では、同じような事件があれば高い確率で土地ごと接収される。

 運が良ければ買い上げ、宿代の補填なんかあるはずもない。


 ユリアもオレもそれが当たり前だと思っていたし、越してきたばかりの余所者だから、接収は当然だとも諦めていたくらいだ。


 公爵閣下と親父殿がこの町を目指せと言ったのは、マリオンさん率いる諜報機関があるからだけではないのかもしれない。


「ロル。これであの家の問題から解放はされるのでしょうが、新たな拠点が必要ですわね。マリーのお店に住み着くわけにはいきませんもの」


 そうなんだよなぁ。

 あの家、スケルトンさえ出てこなければかなり条件に合っていたんだ。でも……


「家と土地は買い上げで補填もある。怪しくならない程度に上乗せして、普通の家を買ったほうがいいのかもね。掃除しても魔物の出ない怪しくない家を、ね?」


 ちょっとおどけて言うと、ユリアはクスクスと笑ってくれた。


「ふふふ。もうロルったら。そうですわね。アルもご存知でしたから、いくら改装をしても悪目立ちしていたかもしれませんわ」


 そう。ユリアも懸念けねんしたように、スケルトンが出なくても悪目立ちしていたかもしれないんだ。



 翌日にマリオンさんにあの家と土地は手放すことと、悪目立ちしない普通の一軒家の購入をユリアと一緒に相談したら、オレはその日の午後には新たに家を購入していた……え?


 いやいや。え? なんで? 買ったオレが言うのもなんですけどね? 購入までの流れ早すぎません?


 誰も悪くないのに、マリオンさんも、あの家を紹介した不動産屋も、魔物騒動に両者は責任を感じていたみたいで驚きの早さで希望物件を見繕みつくろってくれたのだ。


 大通りに面してはいないけど、町中で不便はない立地のすぐに住めそうな普通の一軒家を紹介され、金額も予算内でまかなえる良い家だ。


「ここがロルフ兄ちゃんとユリア姉ちゃんの、新しい家?」


「そうですわよ。アル。住めるようになるのはまだ先ですが、遊びに来てくださいね」


「アルなら大歓迎だ。空き部屋がいくつかあるから、一党パーティ用の部屋にしちゃおっか」


「まぁ! いい考えですわね。賛成いたします」


「え! いいの!? ありがとう! 絶対遊びに行くよ!」


「おお、来い来い。うまいもの食わせてやるぞ。ユリアが」


「もうロルったら。ふふふ。では、そのときにはマリーも呼んで、パーティーをしましょう」


「やったー!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る