第43話 「展望室」

 時は少しだけさかのぼり、石碑ダンジョンが存在するダンジョン村に到着する直前。


 早朝から昼前まで歩き、ダンジョン村へと足を踏み入れる前に、「ルーム」で昼食を済ませ休憩を取っていた時だ。


 もう完全に日課となった観葉植物へののような、「ルーム」への


「一定値に達しました。新たな機能を解放します。新たな機能を追加します」


 一月以上は聞いていなかった「ルーム」さんの声が久しぶりに聞こえ、今までと少し内容が違うことを言ってきた。


 ユリアは疲れを癒すための仮眠を取っているから、疲れた彼女を起こしてまで一緒に確認しなくても、夜にゆっくり見てもらおう。


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 ルーム機能一覧 △


 ルーム追加   解放済 △

 ルーム 小   解放済 △

 ルーム 中   解放済 △

 ルーム 大   解放済 △

 食料保存室   解放済 △

 冷凍室     解放済 △

 キッチン    解放済 △

 浴室      解放済 △

 トイレ     解放済 △

 展望室     未解放  解放可能

 「風景を観るための部屋」

 配置変更    未解放  解放可能

 「ルーム内に限り扉を移動できる」

 一部権限貸出  未解放  魔石値不足

 貸出者 無


 自己強化 残 無

 体力 十八 ◇◇

 腕力 十八 ◇◇

 耐久 十八 ◇◇

 器用 十八 ◇◇

 五感 四  ◇◇

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 金属板を確認すると、新しく「展望室」と「配置変更」が解放できるようになり、解放した部屋に「△」が表示されている。


 どうやら「△」に触れると解放した部屋の表示が金属板から消え、ひとつでも非表示にしていると「▼」が現れた。

 その「▼」に触れると、改めて表示されるようだ。


 表示が消えたときには焦ったけど、部屋そのものが消えることはなかったので一安心。


 なぁ「ルーム」さん。オレは、マジであんたの仕様書が欲しいよ……


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 ルーム機能一覧 ▼


 展望室     解放済 △


 一部権限貸出  未解放  魔石値不足

 貸出者 無


 配置変更


 自己強化 残 無

 体力 十八 ◇◇

 腕力 十八 ◇◇

 耐久 十八 ◇◇

 器用 十八 ◇◇

 五感 四  ◇◇

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 金属板の表示がすっきりしたところで、「展望室」と「配置変更」を解放。


「配置変更」は、「ルーム」内からトイレや風呂など他の部屋へと続くを、壁面であれば念じるだけで


 ユリアと相談して扉の位置を変更しよう。

 微妙に面倒なんだ、広くなった「ルーム」内をあっちへこっちへ移動するのがね。


「展望室」は、今までの各部屋とは方向性が大きく違った。

 今までの部屋は「トイレ」や「浴室」など、生活の質を大きく向上させる部屋だったけど、「展望室」では「ルーム」の中にいながら


 最初「展望室」へ入ったときには、外に出た!? と焦ったなぁ。


 目をらすほど凝視ぎょうししなくても、四人が生活できる「ルーム 小」程の面積の部屋の輪郭がうっすら見える。

 天井、壁面、床が全て外の景色をうつし、室内に外を模した幻影まで出現していた。


 床に映る地面に触れても、地面の感触はなく「ルーム」の床の硬い感触。

 壁面に映る木に触れようとしても、部屋の壁にはばまれ届かない。

 床から伸びる背の高い草にはさわれず、手が素通りしてしまう幻影で出来た背の高い草。


 天井は他の部屋の三倍以上は高くなっているのか、梯子はしごでも設置したら高所から周囲を確認できそうだ。


 めっちゃ便利じゃん! 最高かよ!


 配置変更で「展望室」は、出入口の扉のすぐそばに設置決定だ。

 これで「ルーム」から出るときに、先に周囲を確認できる。

 ユリアをかくまうようになってからは、「ルーム」秘匿のために施錠できる部屋か、野外の人の目の届かない場所でのみ扉を召喚してこなかった。


 これからも人通りの多い場所でははばかられるけれど、多少人がいようと時機じきさえはかれば、多くの場所で「ルーム」を使える!

 

 あとは「自己強化」だなぁ。

 こつこつと魔石を吸収しているから、身体能力が急激に上がること無く、極わずかずつ上昇を続けている。


 毎日習熟訓練をおこなうことで、自身の力に振り回されるようなことは無くなった……と思う。

 でも、ロッセに到着する前に小山のような大量の魔石を吸収して急激に上がった身体能力は、慣れて自分のものに出来るまで一月もかかったんだよなぁ。

 慣れたのも最近のことだ。


 そして、一向に解放されない「一部権限貸出」は、字面から誰かに「ルーム」の機能の一部を貸せるのだろうと予想はできる。


 一気に大量の魔石を吸収しては? とも思うけど、身体能力に振り回され本気の全力戦闘が難しくなるってのは、逃亡中もロッセに到着してからも強い恐怖を感じていた。


 仮にオレと互角以上の相手や、その辺のチンピラでも多数の敵対者と遭遇したときに、自身の力に振り回されているようでは戦闘どころではない。


 全ての機能が解放されるまで魔石を吸収した場合を考えると、主にオレに問題が多すぎて踏み切れずにいる。

 もっとオレに戦闘の才があれば……と思うけれど、無い物ねだりにしかならんのよね。

 強化の度合いによっては、下手すりゃ一月以上は本気の全力戦闘が出来なくなるかもしれんのだ。


 でも、魔石吸収、習熟訓練、普段の修練は毎日こつこつ継続する。と、結論は出たけれど、習熟訓練にも慣れてきたから毎日の魔石吸収量を増やしてみようかなぁ。


 一部であろうと、機能をぜひユリアに使ってほしいからね。



「見てロル。あれが二階層へ続く階段ではありませんか?」


 ユリアと共に「展望室」に仮の物見台として積んだ三段の木箱の上で、暗闇に包まれた石碑ダンジョン一階層を見回す。


 完全に日が落ちて暗くなってから、ユリアと共に「ルーム」に入って今日はダンジョン泊。

 一階層でダンジョン泊をするような奇特な人もいない。一階層から三階層の浅層では、夜間はほぼ貸し切りみたいなもんだろうね。


「おお! あんな岩の中に階段があるんだなぁ」


 石碑ダンジョンの入り口には、衛兵が待機している見張りのための簡易な陣の魔力灯の光が見える。


 一階層の奥の方にはほのかに発光する、穴の空いた先に階段が確認出来る岩が見える。

 なだらかな地面の起伏に隠れるように存在する岩は、ある程度まで近付かないと気が付けないんだろうなぁ。


「ねぇロル。お願いがあるの」


 なんだろう。ユリアのお願いならなんでも聞くよ?


「オレに叶えられることならなんでも」


 そう告げるとユリアは少しもじもじとしながら、お願いをしてくれる。

 かわいすぎない? 恥じらう姿は年齢よりも幼く感じ、庇護欲が天元突破しそうだ。これが父性?


「わたくし。ダンジョンから出たらでいいの。展望室から星空を見てみたい」


 ああ。そうだ。そうだった。オレはバカか?

 ユリアは祖国を追放されてからは、落ち着いて星空を見上げることなんか出来なかった。

 なぜ、オレから提案することが出来なかった。

 なぜ、ユリアに「星空を見たい」だなんて、つつましく悲しい願いをさせてしまった。


「ああ。見よう! これからは何度だって見ることが出来るよ。満天の星空の下でお茶会をしよう」


 これからは星空だけじゃない。

 ユリアが望む景色を、オレが見せたい景色を、二人で見よう。


「まぁ! 素敵ですわ! 楽しみがまたひとつ出来ましたわ」


 だからユリア。落ち着いてほしい。

 木箱の上で抱き付かれると、いろんな意味で危ない。

 主にオレの頭と心臓が爆散してしまう。

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