第44話 石碑ダンジョン攻略者の謎

 一夜明けて、二日目の石碑ダンジョン。

 今回の石碑ダンジョン探索は二泊三日の様子見なので、予定どおり明日ロッセの町に帰るためにも今日一日で出来る限りをしよう。


 目標は二階層で三階層への階段を見つける。見つけたら帰還だ。

 もう少し進みたい欲求はあるけれど、初回から滞在を延長することはあまりしたくないからね。


「二階層も一階層と変わらない大草原ですのね」


 昨晩「展望室」から発見した、二階層へと続く階段を上り二階層へと歩を進めたけど、ユリアの言うとおり一階層と何も変わらない広大な大草原が広がっている。


「うん。事前情報どおりだ。三階層も大草原が続くから、今回の様子見探索は最後まで大草原不可避だね」


 うろついている魔物も、変わらずスケルトンとゴブリンのみ。

 視界に入る人達の人数も、一階層とほとんど変わらない。大体の人達が一階層ではなく、二階層で夜営をしたっぽいね。


「そ、そうですわね? 四階層から七階層が下層。八から十一が上層。最上層が十二階層の全十二階層……ですか。少ない階層数だと思っておりましたが、一階層あたりがこれほど広いと、最上層まで一月かかる可能性も十分にありますわね」


 昨日と同じくスケルトンの頭を砕き、ゴブリンで剣筋を確かめながら二階層の探索を進める。


 ユリアはやっぱり強いわ。今もオレと会話しながら、近付いてきたスケルトンの頭を正確に魔法で撃ち抜いている。

 撃ち抜いているっていうか、何て言うの? 一口大ひとくとだいのパンを握り潰したみたいに、頭部がって潰れたんだよね。それどうなってるの?


「うん。ユリアの言うとおり。浅層は一階層に一日もかからないけど、下層からは次に進むだけでも一日じゃ無理っぽい。冒険者ガンドルから聞いたんだけど、石碑ダンジョンに慣れている熟練者一党パーティでも、一階層から最上層まで一月はかかるって」


 さすがにオレ達の一党パーティで、一月以上もダンジョンに潜るなんてことは出来ないなぁ。

 仮に潜るとしても、アルを置いていかなければいけない。才能はあるけど将来花開くものであって、今の即戦力には出来ない。

 驚異的な成長速度で追いかけて来ているんだけどね。


 アルとオレでは長所短所や得意不得意が違うけど、仮に総合的に評価するなら王都をユリアと出発した時点のオレ位なら、アルは三年で到達しそうなんだよなぁ。マジで優秀すぎん?

 

「まぁ。そんなに? ダンジョンに転移陣があってよかったですわ。往復二月以上も必要でしたら、何度も挑戦できませんわね」


 ね。四階層毎にある転移陣がなかったら、今のオレ達では行けても五階層までだと思う。

 実力的にはいい線まで行けると思うんだけど、いかんせん日数が問題なんだよね。

 ひとつの物事。今回は石碑ダンジョンだけど、ひとつの物事に一月以上も時間を取られたくない。


 マリオンさんにユリア関連で何か情報が入るかもしれないし、まだまだ例の魔物騒動でオレ達にかかる疑いが完全に無くなった訳じゃないんだ。「犯行の可能性は極めて低い」ってことは、わずかに疑われてもいるってことだよね。


 それが解放されたとたん一月も二月も関連しそうな石碑ダンジョンに潜った! なんて、なかなかに疑わしい行為だわ。


「だよね。石碑ダンジョンが攻略される五十年以上前は、もっと大変だったらしいよ。攻略されていないから転移陣は使えないし、魔物と罠も今よりも数が多く強力。十二階層しかないのに当時は難関ダンジョンのひとつに数えられて、攻略した人達は突入から攻略まで一年以上かかったって」


 当時の攻略情報を調べたけど、もうその情報から読み取れる部分だけでも冒険作品ができるほどの内容だった。

 難関ダンジョンのひとつに選出されるだけあって、一階層から指揮個体入りのスケルトン大集団とか悪夢だわ。


「一年以上も……攻略された方々に敬意を抱きますわ。その方々のおかげでわたくし達は余裕を持って探索できますし、ロッセでは町の財源にもなっておりますわ。ダンジョンの氾濫はんらんすらも防がれたのですから、さぞや攻略された方々の名声は高くなったことでしょう」


 ユリアは為政者いせいしゃ目線で見ることも出来るから、為政者としても冒険者としても、攻略した人達がどれ程の偉業を成し遂げたのかを理解してくれて本当に嬉しい。

 冒険者ってのはなんだかんだ言おうが、武装した集団であることに間違いはない。

 為政者によっては反乱分子と見られて、煙たがられることもあるからなぁ。


 でも、その石碑ダンジョンを攻略した人達が冒険者だったのか、軍や騎士団みたいな公的組織だったのか、はたまた組織の垣根を越えた有志の集まりだったのか……何もわからない。


「それが……攻略者が気になって調べてみたんだけど、ロッセの冒険者ギルドの資料室では見つけられなかったんだ。各階層の攻略情報はあるのにね。ダンジョン村のギルド出張所には、そもそも資料室が無かったから攻略者がどんな人か全然わからないんだ」


 謎。マジで謎。攻略情報を含めてどこの資料にも、攻略者達の名前どころか人物像すら載っていない。


「五十年も昔のことですから、五十年の間に資料の整理がされたのかもしれませんわ。ですが、今もロッセに大きく貢献する、偉業と言っても過言ではない石碑ダンジョン攻略者の情報が無いのは不自然ですわね? 帰ったらマリーに聞いてみましょう」


 ロッセでは「ダンジョン村の冒険者ギルド出張所で調べればいいか」程度にしか思っていなかった。

 ユリアと同じように「五十年も昔のことだもんな」とも思っていたから、情報の無い攻略者はちょっと気になる位だったけど、ここまで情報が無いってのは謎って言うか怪しすぎない?

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