第45話 謎の女性
石碑ダンジョン攻略者に関する情報は、意図的に隠された可能性が高いなぁ。
ダンジョン攻略。それも難関ダンジョンの攻略ってのは、とてもひとつの町で収まる偉業や功績ではない。
一帯を治める伯爵領内には確実に拡がるはずだ。
この国でどのように評価されるかはわからないが……祖国基準で考えるとダンジョンの危険性や脅威の度合いによっては、国から功績を認められ授爵していてもおかしくはない。
当時の石碑ダンジョンの詳細な脅威判定はわからないけれど、難関ダンジョンであったのは間違いない。
大きな功績を挙げ偉業を成し、名声が領内を越えて国中へと轟いたかもしれない攻略者の情報を意図的に隠すなんて、かなり上位の貴族が……
……やめよ。考えるのはやめやめ。なんかすっげぇ面倒な内情がありそう。
「ってことで、下手に首を突っ込んだらやっと解放されたあの家の魔物騒動よりも、もっと面倒なことになりかねないんじゃないかな?」
「是非も無しですわね。隠された情報と言えど五十年も前のこと。謎を解き明かしたくはありますが……わたくし達に対する脅威の有無だけでも知ることが出来れば幸運、程度に考えましょうか」
ユリアと意見交換しながら、二日目石碑ダンジョン二階層の探索は足を止めること無く継続している。
やっぱり昨日の宝箱は運が良かったのか、午前中に宝箱はひとつも見付けられなかったなぁ。
宝箱の中身が面白いものだったら、アルへの良いお土産になったんだけど。
石碑ダンジョン浅層の正規攻略法は、「大草原に点在する低木に登り、高所から見下ろして地形で隠された岩を探す」というものだ。
岩というのは昨日「展望室」で見つけた、次の階層へと続く階段が内部にある岩のこと。
でも、オレ達に木登りは必要ない。ユリアの魔法で木登りよりも、もっと楽しいことが出来るからね。
ちょちょいとユリアがオレを
着地もユリアの魔法の補助付きで安心安全。めっちゃ楽しいよ!
「……ロル。わたくしはもういいですわ……」
もちろん好奇心旺盛なユリアも、楽しくてはしゃぐオレを見て自分を打ち上げたけど、想像よりも怖かったのか一回でやめたね。涙目だった。
今は魔法で飛行出来ないか考え中らしい。
ユリアなら簡単に飛べそう。と魔法をよく知らないオレは思うんだけど、そう簡単なことではないらしい。
瞬間的に打ち上げることは簡単でも、継続して飛行することはとても難しいみたいだ。
五度目の打ち上げで、三階層へ進むための岩を発見。
やっぱりここはダンジョンだわ。
普通の穏やかな大草原に見えるけど、魔物は外よりも多く発生するし、岩も地面の
ユリアの魔法のおかげで昼にはまだまだ早い時間に岩を発見出来たけど、無闇に広大な草原階層を動き回るだけでは発見は難しいと思う。
ただなぁ。階段の目の前で人が倒れてんだよなぁ。
「ユリア。岩を発見したよ。あそこの起伏に隠れてる。ここからすぐなんだけど、人が倒れているっぽいんだよね。感知でわかる?」
「ええ。反応はひとつ。他の反応は遠いので関係が薄いか、関係無いでしょう。盗賊の
魔法は継続しただけ疲労が蓄積されるらしいから、定期的に短時間発動にとどめてもらっていた。
ということはオレが打ち上がる数分前から打ち上げの瞬間までの間に、あの不審者は出現して岩の前で倒れたってことだ。うへぇ。怪しすぎるわ。
「うん。上から見た限り、岩の前で中へ続く階段を
ダンジョン内で怪しい者が怪しい行動をしている。先制攻撃を仕掛けるには十分な理由ではある。
「心情的にあまり好ましくない。ですわね? 安全を取るならやってしまいますか? そろそろ視界に入りますわよ」
どうするか。ただの行き倒れなら救助するけど……
「よし。ユリアとオレの安全が最優先。倒れている人が妙な行動を少しでもしたら攻撃を加えよう。浅層のしかも二階層で行き倒れなんて怪しいけど、本当に行き倒れなら、今は余裕もあるから救助してあげたいとも思うんだ。甘いと思うけど。っと見えたね」
「ロル。
こういうときの判断はオレに任せてもらっている。ユリアが判断出来ないわけでは無く、緊急時に判断が割れるのはよろしくない。
もちろん変な判断をしたときには、お互い遠慮無しで意見することにはしているけどね。
オレよりもユリアが優れている多くの場面では、ユリアに判断を
「ありがとう、ユリア。……反応を見るからフォローお願い。あいつがオレの指示以外で妙な動きをしたら、手でも足でも体でも問答無用で
さて、接触してみますか。ユリアの眼前で人を斬ることにならなきゃ良いんだけど、相手次第だな。
「わかりましたわ。『護れ』『遮れ』。感知は継続して常時警戒もしますわ。ロル。お気を付けて」
ユリアがオレの背中を護ってくれるだけでも心強いのに、魔法の補助付き。滅多なことにはならないはず。
「ありがとう。何かあれば派手にやっちゃって。……おーい。岩の前で倒れてる人。あんためっちゃ怪しいぞ。そのままなら攻撃するし、他の誰かにも攻撃されるぞ。なんか反応できるか? 敵対の意志が無いなら両手を上げてくれ。動かせるか?」
少しだけ声を張るオレの問いかけに、倒れている人物はわずかに反応したな。
敵対の意志は無さそうだ……って、おいおい! そのゴツイ筋肉の付いた腕はなんだよ!?
倒れていてよくわからないけど、この人なんかデカくないか?
浅層の二階層には合わない重装備で顔以外は装備で隠れているけど、それでもわかるほどの筋肉量ってなに?
「……? ……た。……い」
なんか言った?
「聞き取れないが、敵対の意志が無いのはわかった。今から会話できる距離までゆっくり近付く。こちらにも敵対の意志はない。悪いがあんたは怪しすぎるんだ。両手を頭の上に乗せてくれ。オレの指示以外で妙なことしたら、問答無用で複数人による攻撃を開始する。自分の動きに注意してほしい」
オレが告げると、彼女は頭の上に両手を重ねて微動だにせず、無抵抗を示した。
「……った。……い」
「『わかった。抵抗しない』でいいんだな? なぁ。こんな所でそんな重装備で一体なにしてんの? もしかして襲われた?」
本当になにしてんの?
「……ん。……ら、……た」
「『わからん。気が付いたら、ここにいた』ぁ? 自分の言ってることが怪しいってわかるよな?」
怪しすぎんだろ。そんな解答したら即座に斬られても文句言えなくなるぞ。
「
は? ダンジョン内にいることがわかっていない?
そうですか。それはそれは大変でしたね。とは流石にならんわ。
「ここがどこかわからない? 悪いが完全には信用できない。これからあんたの武装解除後に手当てをする。信用しろとは言わないが、不必要に女性の体には触れないと約束する。負傷していないかの確認と必要なら治療するつもりだ。どうする? もちろん拒否してくれていい。オレ達はあんたに干渉せず去るよ」
「
自暴自棄になっている感じは受けないけど、マジでなんなんだこの人?
謎の女性へ視線は向けたまま警戒は解かず、ユリアがいる方向に片手で警戒維持と待機の合図を送る。
謎の女性。後方のユリア。そしてオレ以外の気配は近くに無い。
何かあれば多少派手になろうと、必ずユリアがフォローしてくれる。安心感がすごいわ。ユリアは美を
武装解除のため謎の女性の
彼女の側にあったから普通の大剣かと思っていたけど、手に取るため近付いて気が付く異様な大きさ。
彼女の背が高くて遠近感がおかしくなっていたのか? 大剣があの大きさなら、立ち上がったらオレよりも頭ひとつ以上は背が高くない?
負傷確認のために武装を解除しているんだけど、どの装備も「歴戦」や「熟練」って言葉が当てはまるほど使い込まれている。
見た目三十前後の若い女性の装備がだ。
今さらだけど、女性の体を評するなど失礼なのは承知の上で思ってしまうが、身体も異常なほど鍛えられている。上腕の筋肉はアルの胴回りはあるんじゃないか?
太っている様子は全くないどころか、体は見事に引き締まっている。引き締まっていてこの筋肉量とかどうなってんの?
謎の女性の
三階層で何かあったのか? と聞いても「わからない」としか返答がないからなんとも煮え切らない。
嘘をついているようにも見えないし、どうしたものか。
幸いと言っていいかはわからないけど、謎の女性に大きな負傷は無い。
細かな傷は外傷用の回復ポーションを水で薄めて全体にかけたから、放って置いても傷跡すら残らないはずだ。
しかし、この
「細かな傷は多いが、大きな負傷は無くて良かったよ。ポーションかけたから傷跡も残らないはずだよ……なぁ。あんた
「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます