第20話 恩恵「ルーム」大解放

 とりあえず黒い巨岩のような魔石の集合体は、そのままにしてはおけない。どう見ても異常な物体だ。

 オレでもこれはわかるぞ。うっすらと陽炎かげろうのようにオーラのようなものが出ているぞ。


「ユリアすごいよ! こんなに沢山たくさんの魔石は初めて見た! そこにあると目立っちゃうから、とりあえずルームに入れよっか」


 ユリアが魔石回収魔法をいたのか、オレが見上げるほどだった黒い巨岩は崩れて、ユリアの背丈せたけほどの魔石の小山になった。


「わたくしもここまで大量の魔石が集まってくるとは思いませんでしたわぁ。びっくりですわねぇ。……ロル。ロルはどんどんルームに放り込んでくださる? わたくしは必要な量を魔石箱に入れておりますわね」


 ユリアも自分の行使した魔石回収魔法の結果にとても驚いているみたいだ。

 普段の大人びた表情を崩して、年齢相応のかわいらしい驚きの表情を浮かべている。おいおい。かわいいな?


「了解。周囲に警戒しながらやろうね。ユリアは箱詰めが終わったら警戒をお願い」


 ユリアに見とれていては時間がいくらあっても足りない。

 心で涙を流しながら、冒険者道具の穴堀あなほり用スコップを取り出して小山に突き刺す。

 眼前に「ルーム」の扉を開いて、周囲の警戒はおこたらずに魔石を扉の先へと放り込む。


 全て魔石でできた小山で、鉱山労働のようなことをするとは夢にも思わなかったよ。小石ほどの魔石でも、これを全部売ったら大金になるだろうなぁ。


 ユリアの魔法で一気に「ルーム」へ放り込んでもらえば良かった。と気が付くのは全部終わってから。

 うん。ユリアもオレも想像を越える魔石の量に冷静じゃなかったんだなぁ……


「魔石値が超過しました。機能を一部解放します」



 おや。「ルーム」さん数日ぶりだね。

 もう驚かないよ。前は過剰に警戒しちゃってごめんね。今は魔石がいっぱい残っているから、後で確認するね。



 見える範囲の魔石を片付けて、ユリアとお互いにねぎらいあい、今日はもう休もうか。と、道から逸れた人目のつかない場所で「ルーム」の扉を開き直して入る。


 そういや作業の途中で「ルーム」さんの声が聞こえたな。扉の内側の金属板を確認しないと……ん? んん?



 どういうことなの……



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 ルーム機能一覧


 ルーム追加   未解放  解放可能

 ルーム 小   解放済

 ルーム 中   未解放  解放可能

 ルーム 大   未解放  解放可能

 食料保存室   未解放  解放可能

 冷凍室     未解放  解放可能

 キッチン    未解放  解放可能

 浴室      未解放  解放可能

 トイレ     解放済

 一部権限貸出  未解放  魔石値不足

 貸出者 無 


 自己強化 残 七

 体力 十一

 腕力 十一

 耐久 十一

 器用 十一

 五感 三  ◇

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ええ……新設備までほとんど解放可能って……まだ「トイレ」と「ルーム 小」の二つしか解放していなかったのに……どういうことなの……


 自己強化の値も倍以上になっているし、作業が楽だったはずだわ。


 うん。無理。わかんない。


「ユ、ユリアー。ユリアー。ちょっと来てー。わけわかんないよー。助けてー」


 めっちゃ情けない声が出たと思うけど、しょうがないじゃないか。本当にわけがわかんない。


 これはユリアとの相談が必須の案件だ。


「ロル。そんなに慌ててどうなさったの? 何か問題でもありましたか?」


 狼狽うろたえるオレを心配してくれる優しさ。ユリアが聖女様では? ユリアはオレの聖女様だった?



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ルーム機能一覧


 ルーム追加   解放済

 ルーム 小   解放済

 ルーム 中   解放済

 ルーム 大   解放済

 食料保存室   解放済

 冷凍室     解放済

 キッチン    解放済

 浴室      解放済

 トイレ     解放済

 一部権限貸出  未解放  魔石値不足

 貸出者 無


 自己強化 残 無

 体力 十一 ◇◇

 腕力 十一 ◇

 耐久 十一 ◇◇

 器用 十一 ◇

 五感 三  ◇◇

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 聖女様のごとき優しさのユリアにより、一瞬で正気を取り戻した。


 ユリアとの相談の結果、「ルーム」の機能は「トイレ」と「ルーム 小」、「自己強化」を先日に解放しても害になることは一切なかったから、解放出来るものは全部解放することになった。


 それでも一気にやったら問題が起きるかもしれないから、一つ一つ順番に確認しながらやりましたけどね。



 上から順番に「ルーム追加」。説明は「ルームを追加する」。

 ルーム内に新たなルームの扉が現れて、今では懐かしい犬小屋のような狭い部屋が現れた。

 たぶんこの部屋が次から拡がっていくのだろうか?

 すでに元となる「ルーム」は、長柄ながえ武器どころか投擲とうてき有りでも複数人の模擬戦闘が出来るほど広大だ。広過ぎて生活しづらい。



 次は「ルーム 中」と「ルーム 大」。説明はそれぞれ「適正人数十人の部屋」と「適正人数三十人の部屋」。

 うん。「ルーム 小」と同じようになにも無い空間が増えただけだ。でも広さがヤバイ。「ルーム 大」なんて元になる「ルーム」よりも広い。

 こんな広い部屋というか大広間どうするんだよ……

 鍛練たんれんで使う以外、中と大は封印だな。



 続きましては「食料保存室」。説明は「食料の保存に適した部屋」。

 広さは「ルーム 中」と同程度の、何もない広大な空間。

 室内は水が氷にならないけれど、鳥肌が立つほどに肌寒く説明どおりの食料の保存に適している部屋だ。



 さらに「冷凍室」。説明は「冷凍するための部屋」。

 広さは「食料保存室」と同じ、何もない広大な空間。

 室内は、ヤバイ。寒いと言うよりも痛い。

 一度だけ大雪が積もる大寒波を経験したけど、絶対にそのときよりもけた違いに室温が低い。

 しっかり防寒しないと数分でも滞在できない。

 ここも食料の保存に使うのだろうけど、ここまで寒くする必要ある? この部屋で凍死できるぞ。



 さらにさらに「キッチン」。説明は「調理に適した部屋」。

 広さはここも「ルーム 中」と同じ。

 室内には「ルーム」の壁面と同じような白くて硬い材質のテーブルが並び、部屋の天井には複数の穴。

 壁面には、大小の複数のつつから常に水が流れている。温水まで出ている。

 一部の調理台の天板には黒い金属製の板が複数並び、それぞれに対応するつまみを操作すると高熱を発して熱の調節までできる。

 他にも大小のかまや燻製部屋、炭などで直火調理できる場所などなど。鍋やナイフなどの調理器具はないけど、ここで出来ない料理はないんじゃなかろうか。

 天井の穴が熱気を取り込み、垂れ流しの温水や高熱の板があっても室内に熱気がこもることはないようだ。

 ユリアが喜んでいた。オレも調理を手伝うだけではなく、料理を教えてもらおうかな。


 

 最後に「浴室」。説明は「入浴できる部屋」。

 これ以上の驚きはないと思っていた「トイレ」を上回ってきた。

 入ると縦長たてながの広い部屋。左の壁面には特大の鏡と台が部屋の突き当たりまで続き、右の壁面には複数の扉がある。

 扉を開けて視界に飛び込むのは様々な浴場。

 一つの浴場には、常に適温の温水が出ている個別のシャワー室が六。

 一つの浴場には、十人でも泳げるほど広大な風呂が二つ。

 少し熱い湯と少しぬるい湯が、それぞれの風呂の壁面に空いた複数の穴から出続けている。

 さらに他の浴場には、一人でゆっくりとくつろげる個室風呂。三人ほどでくつろげる風呂。熱気が充満したサウナと水風呂。他にも様々な驚きの浴場が並んでいる。



 もう驚きすぎて疲れたよ……


 ユリアが特に「浴室」に歓喜している。

 普段は濡れた布や洗浄魔道具で身を清めていたけれど、やはり高貴な女性としては満足できていなかったのだろうなぁ。


 ユリア。気遣いの出来ない、不甲斐ない男でごめんなぁ。



 ついでの「自己強化」は「残 七」を均等に振った。

 やっぱり微々たる上がり幅で、まだまだ身体強化系の恩恵持ちに正面からぶつかることは出来そうにないな。

 鍛練していない一番弱い身体強化系に、なんとか食い付けたってところだろう。


 ま、自己強化はオマケだよ。オマケ。

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