第21話 出国。入国。到着。

 ユリアの恩恵「大魔導」の底知れなさに驚き。魔石の小山に驚き。恩恵「ルーム」の追加機能に驚き。


 驚き疲れたことや、「ルーム」に追加した各部屋の確認。風呂が余りにも気持ち良く、色々な風呂を試してみたこと。ユリアと一緒に料理をしたこと。などなど。


 国境を超える前に今までの疲れを癒すため、二泊ほど「ルーム」に閉じ籠って英気えいきやしなった。


 風呂にかる習慣はなかったけれど、あれはいいもんだなぁ。

 熱い湯に入ると、全身から疲労が流れ出ていくかのようだった。入浴後は眠りも深く、寝起きもここ数年で一番良かった。

 ユリアに「長湯は疲れてしまうからほどほどに」と注意を受けたので、長湯はしていない。公爵令嬢ともなると入浴の作法などもバッチリなんだね。


 それと……思い出すたびに赤面してしまうけれど、湯上がりのユリアは別人のようだった。


 しっとりとしたつややかな黒髪、上気してほのかに染まった美しい肌。

 入浴できることに歓喜する、向日葵ひまわりのように生き生きとして、薔薇ばらように美しい笑顔。


 ユリア。貴女あなたが女神だったのか……


 時と共に心臓が止まったかのような。脳が炸裂さくれつしたかのような衝撃しょうげき


 正気を取り戻すためにも、二泊必要だった。


 こんな集中できない状態では国境を超えるどころか、安全に怪我なく道を進むことさえ出来そうもなかったから。ユリア。ごめんね。


「ロル。休んでいいのよ。休むことはあくではないの。ロルはわたくしのために頑張りすぎですもの。数日休んだところで誰が責めましょう。責める者はわたくしの手でちりにいたします」


 やはり女神だった。

 慈愛の女神は、オレの眼前に顕現けんげんなさっていたんだ。


 ということで、国境の関所を抜けた。びっくりするほど普通に通してくれた。

 二回目で慣れたってこともあるかもしれない。


 絶好調だった。過去一番の絶好調だった。


「お前。そんなになるまで……道中大変だったんだな……次の国でも旅、頑張れよ。死ぬなよ。応援しているからな」


 って、関所の人に言われて、握手も求められた。

 張り切って全身を、ボロボロに汚しすぎたかもしれない……


 洗浄魔道具と温水で洗った旅装と、三日間風呂に入った姿では身綺麗過ぎたので、その辺を転がったのがいけなかったのだろうか。でも、絶好調のオレは気にしない。

 後で風呂に入れて、ユリアが食事を作ってくれて、さらにめてくれるんだぜ?


 最高じゃないか!


 といった感じで、二度目の出国と入国の関所を抜け、当初の目的地である祖国から隣国を挟んだ位置の国に入国した。


 あと、ユリアと約束をした。


 魔石回収魔法を広範囲で乱発しない。

 使うときも五歩から十歩以内の範囲におさえる。


 主な理由は二つ。


 一つは、に影響が大きいこと。

 魔石拾いを生業なりわいに生活している人は、どこにでもいる。

 広範囲で大量の魔石が一ヶ所に向かって動くことで、誰が何を思うのか。何が起きるのか。想像すらできない。


 一つは、オレが自己強化にこと。

 微々たるものだけど、鍛練していない身体能力の上昇に慣れず、不甲斐ないことに感覚が変になっている。

 体力が上昇したことで普段は疲れるところで疲れず、休憩の時がズレ、体力の配分に失敗し、後々に余計疲れてしまう。

 腕力が上昇したことで以前よりも力が入りすぎ、器用が上昇したことで繊細に動きすぎる。


 剣筋が明らかに歪んでいる。

 自身の力に振り回されている確かな実感がある。しかし悠長ゆうちょうに鍛練に時間をかけて、慣らしていくことが出来なかった。


 幼少から馴染なじんでいた力だったのなら慣れることも問題は無かっただろうけれど、ここ最近で降って湧いたような力だ。


 もちろん魔石は多ければ多いほどいい。あればあるだけ欲しい。

 魔道具に使える。売れば金になる。オレの恩恵の成長になる。ユリアの魔法の一助いちじょにもなる。


 回収した魔石は、一日に決まった数だけ「ルーム」に使い、残った大量の魔石は全てユリアの物としてユリアが使う。

 貯めてもいいし、売ってもいい。ユリアなら変なことには使わないはずだ。


 目的の国には到着した。これでユリアも「ルーム」から解放されて、ある程度は自由に動けるようにもなった。

 しかし、ユリアもオレもまだまだ派手に目立っていい身の上ではない。

 ユリアはこの国に正規の手続きを踏まずに入国した、密入国者でもあるから。


「ロル。わたくしに貴方あなたの力になるはずの魔石を託してくれて、ありがとう。わたくしを信じてくれて、ありがとう。わたくしは頑固がんこで優しい貴方の信頼に答えてみせますわ」


 そのユリアはと言えば、めっちゃ覚悟の決まった顔をしていらっしゃる。覚悟の精霊をその身に宿したのかな?


 いや、そんな重くとらえないでいいからね。ちょっと先々のことを考えて、魔石回収を手加減してね? って感じだったんだ。



 そんなこんなで関所を抜け、目的の国に入国。


 うーん。やっぱり道は全然整備されてないよなぁ。一人だから歩きにくいなんてことはないけど、整備された道と比べると死角も多いから気が抜けなくて困る。

 一先ひとまずは関所から離れたところまで進んで、人目につかない場所で「ルーム」内のユリアに入国を報告しよう。

 すでに日もかたむいてきたし、今日の移動は終わりかな。


「ロル。目的の国に入国致しましたし、お祝いに何か作りますわね。食べたいものはおありかしら?」


 カルァゲ! カルァゲがいいですね!


「ユリア。いつもありがとう。ユリアの作った物ならなんでも好きだけど、やっぱりカルァゲが食べたいな。一番好きなんだ」


 本当にいつもありがとう。感謝の想いが具現化するなら、天を貫く霊峰れいほうを超えるよ。


「っ。本当にロルは唐揚げが大好きね。そう言うと思って保管室で特製の調味液にお肉を漬け込んで準備していますわ」


 まさか、先回りして準備してくれていたなんて、ユリアは予知ができるの!?


「もう準備してくれていたの!? 嬉しいなぁ」


 本当に嬉しいなぁ。オレは何を手伝おうかな。

 あ、でもまずは風呂に入って身綺麗にしないと。


「ねぇロル。……


 っ! 嗚呼。ユリア。何度でも愛を捧げます。


「ユリア。貴女あなたを愛しています。ここまで。ここまで来ました。貴女を守ることができた。オレは自分をほこりたい。愛するユリアを守れたことを誇りたい。これからも貴女あなたを守れることを誇りたい」


 ユリア。

 オレは誇ってもいいだろうか。愛する貴女あなたをここまで守ることが出来た、不出来な自分を誇ってもいいだろうか。


「わたくしはロルを誇りに思っていますわ。わたくしのために命をかけてくれるロルを、ずっとずっと誇りに思っているわ。わたくしもロルを愛しているわ。これからもよろしくね。ロル」


 ありがとう。ユリア。


 にじんで見えるユリアも幻想げんそう的で、美しいよ。

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