第9話 この問題やったことがある
「冒険者のロルフだな。王都からここまで来たのか。連れはいないのか?」
はい。遂に国境の
今は関所で
「途中で
うん。嘘は言ってないよ。
今ここにいるのはオレ一人なのは間違いないし、徒歩も護衛チームに参加したのも本当だ。半日くらいだけど。
「王都からここまで徒歩ってお前、そりゃ時間かかるわ。若いのにすごいな。いや若いから無茶したのか。目的は?」
国境の関所って全然人が通らないんだな。
商人とか旅人がどんどこ流れていると思ったけど、今はオレしか出国手続きしてる人がいない。
これが普通なのだろうか?
「それよく聞かれるんですよ。冒険したくて飛び出したってところでしょうか。ついでに行けるところまで行って、外国を見ようかなって。外国のうまい物を食べてみたいですね!」
これも本当だからなぁ。
ユリアを王国から遠ざけないといけないからね。最低でも隣国の一つ二つは間に挟んでおきたい。
なら行けるところまで行くしかないでしょうよ。
「おお。久しぶりに冒険する冒険者見たわ。やっぱりいるところにはいるんだな。これから行く国はクセはあったがチーズが旨かったぞ。恩恵はなんだ? 危険がなければ実演を頼めるか?」
おっと、やっぱり聞くよね。
強力な恩恵持ちを簡単に他国に出すのは危険だから、まぁしょうがないよね。
でも、神が非力な人間が強く生きていけるようにと授けてくれた恩恵を、人間の基準の強弱で優劣つけたり区別するのってハズレで長年悩んだ身としては複雑な気分なんだよね。
「冒険者も世知辛いですからね。チーズかぁ。クセがあるの苦手なんだよなぁ。あ、恩恵は身体能力がちょっと強くなるやつを授かってます。微々たるもんですけど、冒険者やるにはかなりいいもんですよ。実演はその辺走るとか、なんか重い物でも持ちましょうか?」
これも嘘じゃないからな。
身体能力の上昇は本当に微々たるものだけど、普通の人よりは明らかに体格に合わない腕力がある。
元々鍛えてきたんだ。実戦なら半端に恩恵に頼ってるヤツに負けるつもりはないぞ。
「おお。身体強化系か。いろんな所で生かせるから、お前のように冒険者らしい冒険者にはちょうどいいのかもな。よし。こっちに来て実演を頼む。おーい。実演だぞー。暇なやつ見に来るかー?」
なに人を見せ物にしてんだよ。金取るぞ。
本当に暇かよ。なんでぞろぞろと十人もついてくるんだよ。
ここ国境だよな? え? なに。こんなゆるい感じなの?
あー……そういう? なるほどね。なんかやらかしたときに全員で囲む感じなのか。
「本当に微々たるものだったな」
「だから言ったじゃないですか」
言い方に気をつけろよおっさん。
それは人によっちゃ号泣案件だぞ。
「すまんすまん。けっこう多いんだよ。恩恵を過剰に誇ったり謙遜するのがな。もう終わるぞ。これで最後だ。荷物検査だが、魔法鞄だけか?」
ふははは。ユリアに聞いてそれも知っているのだよ。
見てみろ。余計な物を「ルーム」に置いてきた十二才から使っている魔法鞄の中身を!
「魔法鞄だけですね。
「では確認する。予備の武装……問題なし。金銭。着替え。飲食物……問題なし。野営道具……問題なし。魔道具……問題なし。魔石は袋か。……よし。問題なし。返却する。使用者権限の再設定忘れるなよ」
中堅冒険者の無難な物しか入れていないから、問題なんてあるわけないんだよなぁ。
「お疲れ様です。……権限設定できました」
「みんなお前くらい素直に協力してくれたら楽なんだがなぁ。それにしても初出国なのに慣れているな?」
……すげぇなユリア。この質問まで予想していたのか。
「冒険者ですよオレ。出国は初めてですけど、開拓村巡ってますから。門番のおっちゃんたちと最初のうちはこんな感じでやり取りするんです。もっとゆるいですけど、知りませんでした?」
「ああ! 冒険者は開拓村のことがあったか。納得だ。手間を取らせたな。これで全て終了だ。通行料は始めに貰っていたから、これが通行許可証だ。あっちの国の関所で提出してくれ。今と同じような入国審査もあるが、まぁがんばれ。紛失するなよ。再発行は面倒だぞ。私が」
あんたが面倒なのかよ。
いやいや。これは入出国する人が少ないはずだわ。
出国するときに金取られて時間かけて審査して、またあっちで金も取られて似たようなことするんだろ。
もし複数人の団体で一人でも変なのがいたら、下手したら全員許可されないか捕縛されるんじゃないか?
国としちゃ簡単に出入りされて、国民の流出やら不審者や疫病の流入を防ぐとかいろんな意味がありそうだ。
オレを担当したおっさんも周りにいる職員も、暇そうにしたり自然な風を装っているけど絶対強いだろこの人達。
ここの何人か、もしかしたら全員が軍の精鋭なのかもしれないなぁ。
書物やユリアから聞いたことで知った気になっていたけど、実際に体験してみるとまた違ったことが見えるもんだな。
それにしてもユリアがすごい。
審議官のおっさんに質問されているときも「あ、これユリアの問題集でやったことがある」って質問ばかりだった。
関所で聞かれることの予想問題集を作ってくれて、模擬面接までしてくれたんだ。
彼女を対面に面接の練習をしたんだ。この意味がわかるかおっさん。
あの綺麗で、かわいいユリアと、「ルーム」の中に、二人っきりで、面接したんだぞ?
心臓が破裂するかと思ったわ。
それに比べたらいくら国境だろうが、軍の精鋭っぽいおっさんに根掘り葉掘り聞かれようが、開拓村のおっちゃんと話してんのと変わんないわ。
追放令嬢失踪計画も遂に出国段階に入った。
今頃王国内は、親父殿と公爵閣下が引っかき回しているんだろうなぁ。
あの二人ものすごい意気投合して、眼をギラギラさせながら計画練っていたからなぁ。
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