第35話 三人の先遣隊
「ねぇロル。なぜ地下からスケルトンが出てきたのでしょう」
ユリアとオレの二人でスケルトンが出現した家を見張り、マリオンさんとアルが呼びに行った衛兵を待っているのだけど、後続の魔物は出てこないな。
「オレもこんなことは初めてだからなぁ。閉じ込められていた? 突然発生した? 地下がどこかに繋がっている? 他にも色々考えられるね」
流石に再突入なんて危険過ぎて出来ないから、ユリアとお話をしている。
とても良い天気だからスケルトン問題がなかったら、このまま青空の下でユリアと一緒に簡単なお茶会をしたいところだ。
「ええ。伝記や神話、創作の世界でしたら、
ユリアに貸してもらいオレが今ハマっている創作物、「勇者の冒険」にもそんな
「わかるわかる。封じられた負の遺産! 太古の怨念! 邪神を崇める秘密結社!」
まさかユリアが冒険作品まで蔵書しているとは思わなかったけど、愛する人と共通の趣味で盛り上がれるって心の充実感がすごい。
「ふふふ。ロルはすっかり『勇者の冒険』シリーズにハマってしまいましたのね。事実は物語よりも奇妙なことがありますから、真相がわからないと不気味ですわ」
晴天の日の輝きすら、楽しそうなユリアの笑顔の輝きには遠く及ばない。光の女神かな?
「ユリアに紹介してもらったあの物語はオレの好みに直撃だよ。……本当に不気味だよね。魔力感知に反応はある?」
そんなユリアの笑顔を少しでも曇らせるなんて、あのスケルトンめ。投石で四肢から狙えば良かった。
「いいえ。常に発動しておりますが、あの家の中も地下からも特に反応はありませんわね」
ユリア? あれから常に感知を続けているの?
「ありがとう。ユリア。でも常に魔法を発動なんて
オレには恩恵による魔法のことがよくわからないから歯がゆい。
無理をしてほしくはないんだけど、気高いユリアは譲らないだろう。
「常に歩き続ける程度の疲労ですから、皆さんが来るまで何の問題もありませんわ。でも、心配してくれて嬉しい。ありがとう。わたくしのロル」
常に歩き続ける程度と言っても、普段の体力の消耗に加算されてであれば無視できるものではないだろうに。
「ユリア。……オレは薄情な男なのかもしれない。ユリアが無事であるのなら、他の全てを投げ出してしまいそうになる。今だって何があるかわからないこの場所から、ユリアを連れ去ってしまいたくなるんだ」
本当にオレは不出来でわがままな男だ。
物理的な警戒しか出来ずユリアの代わりが出来ないのに、彼女の負担や安全を考えるとすぐにでも「ルーム」で休んで欲しいと思ってしまう。
「そんな
ユリア。消耗しながらもオレを気遣う貴女は、優しく。気高く。美しい。
「こんな薄情なオレを優しいと言ってくれて、愛してくれてありがとう。ユリア。愛しているよ」
「ロル……」
「ユリア……」
ユリアの神秘的で黒い宝石のような瞳に吸い込まれるようだ。
「よろしいですか?」
「「はい! よろし
マリオンさん! あんた気配消すの上手いな!? ここで気配消す必要なくないっすか!?
「見てないよ!」
アル! 両手で目を隠しても、指の隙間からがっつり覗いているのはわかるぞ!
やましいことはしてないっての。
「「「……」」」
あ、衛兵の皆さん。お疲れ様です。
「ここ昔からある、あのボロ家だよな?」
「ええ。とてもきれいに掃除されています」
「外に廃材が積まれていた。頑張ったのだろう」
「掃除して魔物が出てくるなんて不運過ぎますね」
「だな。まだ昼間なのに薄暗い。足元に気を付けろ」
「はい。先輩、あれが通報にあった地下への階段ですね」
「そのようだ。……暗くて先が見えんな。
「はい。……どうですか?」
「少し心もとないが……自分が先行する。フォローを頼む。警戒を
「警戒を厳に。魔物が出たとのことです。お気を付けて」
「ああ、お前も……」
「了解です……」
家の入り口から衛兵さんの様子を
マリオンさんとアルの通報を受け、駆け付けた衛兵は三人の
後続として六人が本隊として合流予定らしい。
先遣隊の三人は一人がオレ達に事情聴取のため外に残り、二人が地下へと突入していった。
「……で、今に至るということですか。……なるほど。ご協力ありがとうございます」
事情聴取を受けたオレとマリオンさんで
本来であれば
有力者のマリオンさんが身元を保証したこと。
事情聴取に協力的だったこと。
無条件で家を衛兵隊に完全に明け渡したこと。
それらが重なって
もしくは、ユリアを身分を隠した貴族と見て、揉めたくないと思ったか。
「お疲れ様です。この町に引っ越してきたばかりなので不安でしたが、衛兵の皆さんの迅速な対応に安堵しました」
ユリアは魔法の継続行使で疲れが出たのか、先ほどのことが恥ずかしかったのか、少しふらついたので家の影で休んでもらっている。
アルはユリアの付き添いだ。
「いえ、これが我々の職務ですので。しかし購入された家がこうなってしまっては大変でしょう。調査がどの程度で終わるか……現段階ではなんとも言えず申し訳ない。越されてきたばかりとなると、今晩の宿泊先は大丈夫ですか?」
この衛兵さんも突入していった二人も、真面目で優しい人達だ。
祖国王都の衛兵は
「落ち着くまでは当店の
民家から魔物が出てきたんだ。
調査が長びけば、数ヶ月はこの家を使えないと想定した方がいいかぁ。
マリオンさんに宿を斡旋してもらえるのは、非常に助かる。
「ああ、マリオンさんのお知り合いでしたね。それならば心配はありませんか。ロルフさん。奥様のお加減はいかがですか?」
「体調に問題は無さそうです。先程の魔物騒ぎとここ数日の疲れが一気に出たようで」
そういうことにしてあげてください。
「引っ越して早々にこの騒ぎでは無理もないでしょう。ロルフさん。冒険者で体力に自信はあるでしょうが、あなたもマリオンさんと一緒に奥様の側で少しでも休んだ方が良い」
本当に優しい人だ。マジで祖国王都の衛兵は見習った方が良い。
「お気遣いありがとうございます」
「帰還しました」
「仮調査終了しました」
おっ。突入した二人が戻ってきた。
緊迫感もないし戦闘した感じでも無い。
「報告します。なにもありませんでした」
二人の内、オレと同年代くらいの若い衛兵さんは新人なんだろうか。
その報告の仕方は冒険者のオレでもヤバイってわかるぞ。
ほら、リーダー衛兵さんの額に怒りの血管浮いてるって。
「なにもない? それじゃわからん。詳細を報告しろ」
「報告を代わります。我々二名で階段を降り地下へ侵入。
地下は建物一階のおよそ半分ほどの面積。全方位を石材で囲まれた堅牢な地下室です。
空気は
視認出来る限りでは、人を含む生物
通報にあった魔物の残党も無し。
地下は完全な暗闇のため、強い灯りがなければ細部の調査活動は困難です。
我々の現装備では、これ以上の調査活動は困難と判断し帰還しました。以上です」
新人衛兵さんに先輩って呼ばれていた衛兵さんは、実直そうな人だ。
石材で囲まれた地下室ね……
「ご苦労。……地下に他の石材とは質の異なる石材がなかったか?」
やっぱりリーダーも気になった?
聴取で質の違う石材も伝えたから気になるよね。一階に実物もあるし。
「質の異なる、ですか? 見たか?」
「いえ。自分は視認していないですね」
「両名とも確認できておりません。私見ですが、本隊到着後の調査も、建築か石工の職人に随行依頼を出された方がよろしいかと」
光の一切届かない地下室で灯り頼りに調査するなら、専門の職人がいないと難しいよね。
「わかった。本隊に具申する。念のためお前達は今から本隊到着まで、建物入り口の見張りを頼む。動く際は必ず二名で動け」
「「了解しました」」
「お待たせしました。魔物が出たため建物は封鎖されるでしょう。封鎖日数は調査内容に左右されるため、現時点でお答えできません。
マリオンさん。ロルフさん。ユリアさん。アルさん。四名には追加の聴取が発生する可能性が非常に高い。
調査終了までは皆さんの所在を明らかにするため、私が案内しますので衛兵所で申請していただきたい」
申請が終われば解放されるだろうけど、今後どうしたもんかなぁ。
あ! 木材加工屋の大将に改装の延期を伝えないと……
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