第33話 動く骨格標本
オレが
長距離を移動するわけじゃないからね。
ユリア、アル、マリオンさん。三人が慌てていても家外への退避は難しいことじゃなかった。
三人が家から距離を取ったら反転、反転の遠心力を乗せて抜剣。
オレだけ突出しているが、三人を後方に庇いスケルトンが出てくるはずの出入口を正面に見据える。
さてさて、スケルトンは家の外に出てくるかな?
スケルトンってのは移動速度がめっちゃ遅い。
これが足の速い魔物だったら、不意討ちで負傷していたかもしれない。不幸中の幸いだった。
いやぁ、それにしてもビビった。
そもそもだ。
いくら
あんなん反則だ。毛穴がぶわっと開いたわ。
スケルトンの見た目は人や動物の骨格を模した、動く骨格標本。今回のは
単体では強い魔物じゃない。
移動速度はとても遅いし、体の動きもぎこちなく
耐久力も低くとても
注意点は力が強いことと、消えて魔石を落とすまで油断しないこと。
スケルトンは全身の骨を何本折っても、頭を砕かないと消えないんだよね。頭さえ砕けば一撃で倒せる。
全身バラバラにしても残った頭に噛み付かれたり、手の骨に捕まれて負傷することもあり得る。
スケルトンが真価を発揮するのは、何かの指揮下に置かれたときだ。
大体は上位個体の指揮下に置かれるんだけど、くっそ面倒な戦いになる。
「って感じの魔物なんだぞ。アル」
「落ち着きすぎじゃない!?」
アル。どんなときでも冷静でいられるのが良い冒険者だ。って上位冒険者が言ってたよ。
「皆様お怪我はございませんか?」
マリオンさんの負傷確認に全員が無傷を伝える。
彼女は落ち着いている。公爵令嬢の元侍女で、今は他国で諜報機関の支部を任せられるだけあるなぁ。
「ロル。わたくし達に指示を」
流石ユリア。高貴な御令嬢なのにこんな突発的状況下でも肝が座っている。
「ユリア、マリオンさん、アルの三人は家に近付かずに回避行動優先。もし何かが飛んできても絶対に受けず
ユリア。余裕があれば魔力感知をお願い。最初は変な魔物じゃないか観察の時間が欲しい。その後オレの合図で
「わかりましたわ。『
ロル。観察は良いのですが、わたくしが危険だと判断したら合図を待たずに最悪は家ごと塵にしますわよ?」
おおっ? なんか全員の体が薄い白光に覆われちゃったよ。
「あ、あはは。本当にすごいなぁ。ありがとうユリア。とても心強いよ。マリオンさん、戦闘は?」
「棒術を
マリオンさんは自身の魔法鞄から身の
「わかりました。そのまま前に出ず、ユリアとアルの護衛をお願いします」
変異体だと接近は危険かもしれないからね。
「承知しました。ロルフ様、御武運を」
「ありがとうございます。スケルトン処理後に衛兵所に行きますが、マリオンさんの判断でいつでも衛兵所まで駆けてください。アル、戦闘は?」
町中での異常事態に対する判断は、ロッセの町の有力者の一人でもあるマリオンさんに任せた方が良いよな。
「ごめん。ロルフ兄ちゃん。魔物と戦ったことがないし武器もないよ。ごめんよぉ」
アル。怖いよな。
一人だけ足手まといだって思っているのか?
武器がないことが申し訳ないと思っているのか?
戦えないことが苦しいのか?
そんなもん全部気にするな。
お前は冒険者になったけど、まだ子供だ。
「謝らなくていいって。そんなこと気にするなよ。優秀な冒険者でも誰だって最初はそんなもんだ。オレなんか初めてゴブリンと戦う時はチビりそうになったわ。ゴブリン一匹にだぜ?」
その小さな体で頑張って冒険者になったんだ。依頼をこなして稼いだんだ。
それだけでとても
「ロルフ兄ちゃん……」
アル。胸を張るんだ。
「アル。戦闘だけが冒険者じゃない。戦闘が出来なくても戦闘をしたことがなくても、町で人のために依頼をこなすのも立派な冒険者だ。だからさ、オレは冒険者だぞ! って胸を張れ」
「うん。うん!」
これだけで立ち直れるお前は、やっぱり良い冒険者になるよ。
「その意気だ。アルもユリアとマリオンさんと一緒に回避行動。マリオンさんの判断で衛兵を呼ぶってなったら一緒に駆けてくれ」
「わかった! 兄ちゃん頑張って!」
「おう!」
まかせとけ。たかがスケルトンに、将来有望な新人を潰されてたまるかよ。
「ロル! 出てきますわよ! 後続はいません! 他の魔力反応もありません!」
来た!
やっぱ移動速度が遅いな。階段でつっかえたか?
おかげでこっちは態勢が整ったぜ。
「ありがとうユリア! そのまま後続の警戒と魔力感知を頼む! 異常な反応があったら知らせて!
さて、スケルトン。お前はなんなんだ? なんで民家の地下から出てきた?」
うーん。見た目も動きの鈍さもただのスケルトンだな。
他の魔物同様こちらに敵意を持って近寄って来るが……上位体でも変異体でもないっぽいか?
こちらと意思の疎通が出来るわけでも無さそうだ。
見た目普通の特殊な個体かもしれんから近付きたくねぇな。
投石には対処するか? ふんっ!
えっ。いやいや。お前、投石で頭砕けるのかよ!
消え始めたな。魔石落としたな。
……えっ。これで終わり?
「終わったの?」
「終わったっぽいな」
「スケルトンの反応は完全に消えましたわ。ねぇロル? 観察するって仰いましたわよね?」
「言いました。まさか石ころ一発で昇天すると思わなくて」
「ロルフ様。衛兵はいかがなさいますか?」
「呼びましょう。これ以上の何かが起きてからでは遅いです。もしもがあるといけませんからオレとユリアでここに残り警戒しますね。マリオンさんとアルで衛兵を呼んで来ていただけますか?」
「承知しました。アル様。参りましょう」
「うん! ロルフ兄ちゃん、ユリアさん。いってきます! ……ねぇマリオンさん。様なんて付けないでよ。なんだかむずむずする」
「ふふふ。わかりましたよ。アル」
仲良く衛兵を呼びに行ったマリオンさんとアルを見送りながら、
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