第32話 地下へ続く階段

 超局所的なハリケーンが解除されてオレ達の眼前に現れたのは、石造りで堅牢な箱形の一階部分と二階の丸太の骨組みだけ残った我が家だ。


 ボロボロの外壁や内壁、壁板や床板やその他の雑多なゴミは取り除かれて家の横で廃材の小山を作っている。


 逆さにした水筒から一気に流れ落ちる水のように、唯一の出入り口から大量の廃材が吐き出されるのは、すごい光景だったなぁ。


「ユリア。お疲れ様。すごい魔法でびっくりしたよ」


 本当にびっくりした。

 ユリア。今日は一通り終わったら反省会だよ。

 オレも反省しなきゃいけないことがあるから、二人で考えていこうね。


「ユリアさん。お疲れ様でした。魔法すごかったよ! ……町外れのボロ家だとずっと思ってたけど、頑丈な家だったんだね」


 ロッセの町で育ったアルはこの家のことを知ってたんだな。

 どおりでここに住むって教えたときに、「マジで言ってんの?」みたいな顔をするわけだ。


「ありがとうございます。本当に頑丈でしたわ。わたくしのあれ『吹き荒れよ』では基礎がびくともしませんでしたもの。……ねぇ。ロル? 基礎はどーんとやっちゃダメなのよね?」


 ユリア。望みを叶えてあげたいけれど、今回ばかりはかわいくお願いしてもダメだよ。


 なぜなら。


「ユリア様。お話お説教がございますのでこちらへ」


 待っている間に心配と怒りが増して、真顔まがおになったマリオンさんがいるから。


 オレも下手なことは言えないんだ。

 アル。ユリアに向かって一緒に手を振ってあげよう。


「マリー。真顔でわたくしの腕を掴んでどうなさったの? あら? ロルとアルさんはなぜわたくしに手を振っているの? マリー? なぜわたくしを羽交い締めにしているの? あらあら? マリー貴女あなた意外と力強いですわね!?」


 マリオンさんは護身かなにかの格闘術を習得しているのかもしれないね。侍女を兼任した護衛だったのかもしれない。

 あっという間にユリアを拘束して、家の影まで引きずっていってしまった。


「行っちゃったね」


 ユリアとマリオンさんが見えなくなるまで手を振っていたアルは、なんだか「残念な人を見てしまった」みたいな雰囲気だな。


「行っちゃたな。よし! オレらは家の中の確認だ。大丈夫だとは思うが崩れたり何かが落ちてくるかもしれない。常に注意を怠るなよ。鉄兜と革手袋を貸すから装備するんだ」


 ま、まぁそんなこともあるって。完璧な人間なんていないんだぜ?

 それよりもここからはオレとアルの出番だぞ。

 ほれ。この鉄兜と革手袋使え。鉄兜は重いから足元に落とすなよ? めっちゃいってぇからな。 


「鉄兜被るの初めてだよ。おもっ!?……っと、これでいい?」


 鉄兜も革手袋もアルにはサイズが大きいがベルトを締めれば大丈夫だろう。

 何も防護しないより万倍マシだ。


「ああ。それで良い。それじゃ謎に頑丈な我が家を探検するぞ。冒険者アル」


 頭部の重さに若干ふらついているけどヨシ。

 では出発するぞ! アル隊員!


「了解!」


 アルの元気な返事が晴天に響く。

 本当に良い天気だよ。



 探検とは言ったものの、元々小さな一軒家だ。

 探検はすぐに終わった。なんにもない。


「探検だ! と意気込んではみたけど一軒家だからなぁ。ユリアの魔法の風でボロの内壁も床板も全部吹っ飛んでるし、なんにもねぇわ」


 石材で囲まれて昼間なのに薄暗い一階も、丸太の骨組みだけが残った二階も廃材が全部排出されているから、なんにもねぇや。


「二階もむき出しの丸太があるだけだったね。本当に兄ちゃんたちはここに……? ねぇ。この石なんか変じゃない? これだけ他とちょっと違うような?」


 マジで? 

 魔道具の灯りで照らしても薄暗い中で、石材のわずかな違いが判別出来んの?

 そういう恩恵なの? ……いや詮索はやめよう。


「どれどれ? お? おぉ。この暗闇でよく気が付いたもんだ。すごいぞアル。……この床石だけ変だな。なんだこれ?」


 アルの指し示す石材を改めて照らしてみれば、確かにわずかに質感が違う。


 サイズは床石だけにベッドの半分はありそうな大きさだが、アルにも手伝ってもらい「ルーム」の自己強化で上昇した腕力なら動かせるんじゃないか?

 やってみっか!


「「せーの!」」


 唸れ! オレの筋肉!


「んんんん! っが! 無理だこりゃ」


 はい。ダメですよね。

 そりゃちょこっと強化されただけの腕力で、がっちりはめ込まれた石材を動かせるわけねぇわ。


「手が痛い……ユリアさんの魔法でなんとかならない?」


 付き合わせてすまんな。

 お詫びに今日の報酬ちょびっと増額するよ。


「そうだな。聞いてみるか」


 一旦外に出てユリアとマリオンさんが消えていった家の影まで足を運ぶと、しょんぼりユリアとなぜか満足げなマリオンさんがいらっしゃる。


 二人に探索結果を伝えるとマリオンさんは考え込み、ユリアは、


「そうですの。わたくしを置いてお二人で探索ですの。楽しそうですわねぇ」


 と、ちょっとねてしまった。

 申し訳なくも思うのだけど、珍しく拗ねるユリアの年相応の態度がとてもかわいらしい。

 拗ねてもかわいらしいとか、童話の妖精かな?



 そんな一幕があったもののユリアとマリオンさんも加えて四人で再度突入。

 珍しげにキョロキョロと見回す鉄兜着用のユリアと、落ち着いて追従する鉄兜着用のマリオンさんの対比が面白い。


「確かにこの石だけ他と少し違いますわね。持ち上げてみればよろしいかしら。壊して……マ、マリー。冗談、冗談ですわ」


「わかっていただけたようで何よりです」


 石材を動かすことを事も無げに言うユリアだけど、ちらりとマリオンさんに視線を向けられたら慌てていてかわいらしいなぁ。


 っと、いかん。気を引き締めなければ。


「皆さん離れてくださいまし。いきますわ。……『浮かべ』」


 ユリアの声かけより間もなく、重い石材と石材がこすれる重厚な擦過音を鳴らしながら、床石がゆっくりと持ち上がり静かに横に置かれた。


 もうすごすぎて、どういう理屈で石材が浮かんだのか考えるのはあきらめた。

 ユリアだから出来るで良いじゃない。


 ってか、地下に続く階段? 地下室?


「地下? ……げっ! 退避!」


 まずいまずいまずい!

 場所が悪すぎる!


「ロル!?」「兄ちゃん!?」「ロルフ様!?」


 三人が叫ぶオレを心配するけど、今は退避行動が最優先だ!


「全員退避! 逃げろ! スケルトンだ!」


 なんで民家の地下からスケルトンが出てくるんだよ!


「「「スケルトン!?」」」

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