第26話 新人と一緒
「今日の講習が終わりましたら、活動を初めても良いのですよね?」
「うん。午前の講習が終わったら、午後からどんな依頼があるか依頼掲示板を見てみようね。短時間で出来そうな依頼が合ったら受けてみる?」
「ぜひ受けてみたいですわね!」
冒険者ギルドが管理する等級で受注できる依頼が決まっているのはユリアも知っているけど、新人向けの依頼でもそんなに楽しみなんだね。
綺麗な黒い瞳をキラッキラさせているユリアは、光の妖精かな?
講習で変なヤツが絡んでこないように、
新人講習なだけあって集まったのは、十代前半の少年が五人と少女が二人か。オレとユリアが入って受講者は九人。オレの場違い感がすげぇな。
少年少女が集合場所へ登場したユリアに、「なんでお姫様来たの!?」って感じで驚いている。わかる。オレだって同じ立場ならびっくりするよ。
そこの少女。口が
地味なローブでも美しさを隠し切れないなんて、ユリアは美の女神かな?
町の規模に対して九人は少し多いかな。
それと講師の現役冒険者。
三十才前後のくすんだ金髪を短く刈り上げた男性冒険者は、高い身長と鍛えた体の厚みでオレの
新人講習だから軽装なのかもしれないけど、本気の戦闘ならがっつり重装備で前衛……か?
「講習を担当する。冒険者のガンドルだ。全員いるな? っつうか、あんたと嬢ちゃんは昨日受付で会ったな」
やっぱり。昨日受付で後ろに並んでいた人だ。
「ども! 昨日は助かったよ。ロルフだ。こっちの女性はユリア。外国からこっちに拠点移したんで念のためにね。よろしく!」
「ガンドルさん。今日はよろしくお頼みいたしますわ」
ガンドルとはジェシカさんが受付を放り出そうとしたときに、オレと一緒に彼女を止めて互いに苦笑を交わしたな。
「受付のジェシカはたまにポンコツになるからなぁ。おれはロッセ周辺で十年以上やってる。ロルフ。ユリア。よろしくな。外国から来たんなら中堅クラスがここにいても不思議じゃねぇか。っと、すまん。講習始めるか」
ジェシカさん……ポンコツだったのか。
ガンドルはオレが新人講習を受ける理由も察したみたいだし、デキル男なんだろう。
「……ってことで、ギルドを通さない
新人講習が冒険者ギルドの各施設の紹介と、利用方法が主なのは王都と変わらないんだな。基本になる手順書みたいなのがありそうだ。
ガンドルは自分の冒険者ギルド内での経験談を交えた注意点を教えてくれるから、新人講習で一番助かっているのはオレじゃないか? もしかしてオレのためか? ありがてぇ。ありがてぇ。
「ロル。ガンドルさんは優秀な方ですわね。貴重な経験談はとても助かりますわ」
「そうだね。必要な説明と自分の経験を
ガンドル。ご覧よ。ユリアが君を認めているよ。
お? あいつ耳赤くなってんな。ねぇねぇユリア。なんか面白いから一緒にもっと
「ロルフ兄ちゃん。近所のばあちゃんの買い物手伝うのもダメなの?」
少年少女達とユリアのやる気はとても高く、ガンドルは彼ら彼女らから飛んでくる質問の解答に手が回りきらないようだ。
「ロルフ。助けてくれ……」って顔をしていたから講習の助手をしていたら、一人で参加していた赤髪の少年アルが
「ダメじゃないぞ。近所付き合い程度は問題にはならないよ。ガンドルが言ってんのは、そこそこ以上の金がからむならギルドを通せってことだな。
近所のばあちゃんでも他の親しい誰かでもさ。すっげぇ高価な薬を、『外国まで届けて!』って金貨何枚も出されたらアルは困るだろ?」
「それは困るよ。……あ。だからギルドに相談するのか。ありがと!」
「良いってことよ。ばあちゃんの手伝いしてるなんてアルは偉いなぁ」
少し誉めると頬を赤くして照れるから、アルは誉め
少年少女とユリアの質問や相談にガンドルと共に答えながら新人講習が進むけど、やっぱり冒険者ギルドでも細かいところで地域差があるなぁ。
生活基盤を整えつつユリアと一緒に
「……ってことで新人優先で訓練場は使えっから、新人のうちにしっかり鍛えとけよ。講習はこれで終わりだが……時間があるな。ロルフ。訓練場来たし模擬戦するぞ」
冒険者ギルドの裏手にある訓練場を回って新人講習が終わったけど、なぜに模擬戦?
「いいけど、急だね?」
「新人の質問の半分を受け持ってくれただろ? 助かったがマジで時間が余ってよ。ギルドに講習ちゃんとやったか
あー。それはあり得るな。
「早く終われば良いってもんでもないのな。どうせなら新人見てあげなよ」
「当たり前だ。新人放置したら無給にされるわ。新人は模擬戦の後にしっかり見るさ。ロルフは戦闘もやるだろ? おれらみたいな戦闘もやる中堅がどの程度か新人に見せるんだよ」
なるほどね。ここにいる少年少女がどういう冒険者を目指すかわからんけど、がんばれば届く目標になろうってことね。ガンドル。お前さん本当にいいやつだな。
「了解。恩恵無しね」
でも、どう見ても戦闘者のガンドルが恩恵使ったら、オレが戦いにならんから恩恵無しじゃないとやらねぇからな。
訓練用の木剣は基本のでいいか。ガンドルは木の棒ね。槍とか
「やるな。ロルフ。その年で、それだけ、やるのは、なかなか、いねぇぞ」
そう言いながらあんたは余裕じゃねぇか。
十八まで剣術も習っていたから、恩恵無しの対人戦なら冒険者歴の長いガンドルとも互角に戦えると思っていたけど、甘かった!
「ガン、ドル、も、強、いね! 素、なら、自信、あった、の、にぃ!」
くっそ強いな!? 本当に恩恵無しでの対人戦には自信あったんだけどな! 鍛練の年月の差か……
「ロルー! がんばって!」
ユリア!
「ウオオオオオオオ!」
ユリアの目の前で! 模擬戦だろうが負けるわけにはいかん!
「ロル!?」
斬りかかったら……ガンドルが飛び退いてしまった。これからなのに。
「バッカ! やめやめ! 恩恵使ってんじゃねぇよ!」
あ。ごめん。まだまだ「自己強化」の切り換えに慣れなくて。気合いが入ると自然に強化されちゃうんだよ。ごめんて。
ちょっとだけやらかしたけど、最後は少年少女とユリアも交えて戦闘訓練や鍛練方法の
「時間だな。新人講習はこれで終わりだ。受付に行って修了手続きを忘れんなよ。ロルフ助かったぜ。今度奢るわ。そんじゃ解散だ」
こっちこそ助かったよ。ガンドルはここ周辺で活動しているようだから、そのうち会うだろうな。
「ロルフ兄ちゃん。今日はありがと。またね」
「ああ。アルも
この町の冒険者じゃオレも新人みたいなもんだ。お互いに頑張ろうぜ。
「アルさん。ギルドでお会いしましたら、仲良くなさってね」
「う、うん。ユリアさんもまたね」
アルは最後までユリアに慣れなかったな。今も無難に返答しているけど頬が赤くなってんぞ。アル。
ユリアは美人でかわいいからな。初対面じゃしょうがないよな。わかるよ。
ユリアもオレとアルが話していると「ふふふ」って微笑んでいたし、楽しそうで何よりだ。
昼食後はお待ちかねの初仕事だよ。ユリア。手頃な依頼があるといいね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます