第24話 砦を小さくまとめた一軒家

 町外れにとある一軒家。この家ゴツゴツしていて、なんかかっこいいな。


 マリオンさんは不動産屋があつかいに困っていた物件を格安で土地ごと買い取ったらしい。

 そのまま横流しでオレが購入させてもらうことになり、謝礼として少しばかりの利息は支払わせてもらった。

 

 土地の売り買いをできる程にマリオンさんの宝石商は信用を得ているのか。他国の諜報機関なのに……


 扱いに困っていただけあって、外からはかなりの年季をかさねているように見える。中も床板や壁がボロボロだ。

 でも、なんでこの家を作ったのか製作者に聞いてみたいほど、異常にに作られている。


 一階はボロボロの床板と壁を少しがしてみれば、床も壁も天井すらも全てが石材。

 まるで石牢せきろうのようだ。

 通気用と採光さいこう用の窓はいくつかあるけど、人が侵入できない程度にせまい。

 出入口は正面の一ヶ所のみ。

 出入口を強固にしたら、盗みや襲撃にはクソ面倒な家じゃなかろうか。逃げ場も無いけど。

 二階はオレの胴回り以上の丸太で基礎が組まれているけど、そのせいで室内を圧迫しているし……


 堅牢な砦を小さくまとめて一軒家にしたような、不思議な作りの家だな。

 定住するのは冒険者だってお断りだろうね。

 圧迫感や閉塞へいそく感がすさまじくて、牢に入れられたみたいだもんなぁ。

 等間隔とうかんかくに鉄の棒でも立てたら完全に牢屋だよ。


 基礎が頑丈過ぎて建て替えるにも完全に壊すにも、かなりの労力と金がかかるはずだ。

 一般の人には過剰で、裕福な者には価値がないと思う。こんなん不動産屋も困るよなぁ。


「ユリアーネ様。本当にこのような家でよろしいのですか? もっと大きくて綺麗な家をご用意できますよ? ね。そうしましょう?」


 マリオンさんの言うことにも納得だよ。

 こんなボロボロで異常に武骨な家に、お嬢様を住まわせるわけにはいかない! って思うのは普通だよね。


「何をおっしゃるのマリー。とても良いおうちではありませんか。ね。ロル?」


 ところがユリアはそこらの御令嬢ではないんだ。マリオンさん。

 なんせ国外脱出ついでに冒険者になろうなんて、かなり気合いの入った女の子だ。


「うん。ユリア。オレもとても良い家だと思うよ。思ったよりも大きいほどだ。作りは頑丈で侵入口も限定されているし、周囲はひらけて見透みとおしも良い。最高じゃないか。マリオンさん。本当にありがとう」


 現状望める中でも最高の家だと思う。

 基本的に恩恵「ルーム」で生活するから困ることなんて無いし、「ルーム」の扉を見られないような作りの家は本当に願ったり叶ったりだよ。


 でも、マリオンさんの「お前マジでこんな家にユリアーネ様を!?」って視線が突き刺さってくるなぁ。

 そりゃ「ルーム」を知らなければそうなるよね。


「マリオンさん。オレの『恩恵』は特殊でユリアを守るためにも、本当にこの家はちょうどいいんだ。せっかく用意してもらったのだけど……隠蔽いんぺいのためなんだよね」


 変ににごさず断言した方がいいかな。わからないと不安で心配だよね。

 オレだって「ルーム」が無かったら、絶対にユリアをこの家には住ませないからわかるよ。マリオンさん。


「隠蔽ですか。ロルフ様は戦闘系とばかり思っていました。では、この家で妥協だきょうするのではなく、むしろ都合が良い。ということですか?」


まさにそのとおり。マリオンさんにもオレの恩恵を見てもらいたいけれど、王国を出てから知っているのはオレとユリアだけなんだ。……機密案件だから詳細は控えて欲しい。時が来たら明かすから、それまでは特殊な恩恵であることも秘密でお願い」


 この国どころかこの町での立場すらも何もかもがふわふわしているオレとユリアの生命線を、まだ誰にも明かすわけにはいかないんだよ。ごめんね。


「承知しました。秘密を漏らさぬと誓います」


 わかってくれて良かった。協力者と不仲にならなくて本当に良かった!


「ユリアの安全のためにもお願いします」


 マジでお願いしますね!


「マリー。ありがとう。いつかマリーにも話せると思うから、それまではお待ちになって」


 そうだね。ユリア。いつか「ルーム」に招待して身内だけのパーティーをしてみたいね。


「この家に合った家具を用意したいから家具店か製造元を教えてほしいな。マリオンさんに頼ってばかりだと町の人に不自然に思われるかも知れないし、オレもユリアも慣れたいから場所だけで構わないんだけど」


「心当たりがありますから当店に戻りましたら、住所と簡易かんい地図を用意しますね」



 ということで、家を見た翌日に家具屋にやって来たけど、見本しか並んでいないから家具屋というより木材加工の店なのかな。


「こんにちはー。家具を頼みに来たんだけどー。いますかー」


 店内に誰もいないとか不用心すぎない?


「へい、らっしゃい。っと旦那べっぴんさん連れてんなぁ。こんな綺麗な人、初めて見たぜ! 奥様ですかい? ……もしかしてお忍びの貴族様でしたか?」


 大将! 一目でユリアの美しさに気が付くなんて、あんたわかってるな!


「でしょ! ユリアは本当に綺麗なんだよ。しかもかわいいんだ。大将わかってるなぁ。彼女はちょっと良いとこのお嬢さんだったんだ。見てよ。隠しきれないひんがあるでしょ? でも安心して良いよ。オレも彼女もお貴族様じゃないんだ。マジでただのカッコイイ冒険者と、世界で一番素敵でかわいい奥さん」


 ちょっとどころか公爵家だけどな。

 こんだけ先制しておけば、ユリアが女神のように美しくて、天使のようにかわいくて、王妃のように品があるのも誤魔化せるだろ。


「もう! ロルがカッコイイのは否定しませんけれど、ロルも店主さんも大袈裟ですわ! 店主さん。わたくしと夫は、この町に移り住むことになりましたので家具を頼みに来ましたの」


 聞いたか大将! ユリアがオレをカッコイイ夫って言ったよ!


「あっはっはっは! 旦那、良い嫁さんつかまえたなぁ。いきなりノロケるなんて新婚かい? 祝い代わりだ。少し安く作ってやるよ」


 そうだよ。し、し、新婚だよ! やっべぇ顔がにやけるわ。


「マジで!? ありがとう大将! 家は買ったんだけど家具がなくてさぁ。全部大将にお願いしてもいい?」


 このわかっている大将に全部頼もう。

 ユリアを美しいと誉めているけど、この人は一切下卑げびた視線を寄越さない。


「おお。それならこっちが頼みてぇくらいだ。しっかし、いきなり大口おおぐち注文とは旦那稼いでるなぁ」


「子供の頃から冒険者やって長いんだ。ユリアと結婚するために頑張ったんだぜ?」


 国外に出るほど頑張ったんだぜ。


「良いね。旦那。あんたイイ男だ。奥さん。こんなイイ男は逃がしちゃ駄目だぜ?」


 大将。あんたもイイ男だよ。


「ふふ。店主さん、もちろんですわ。しがみついてでも逃がしませんわよ」


 ユリアがしがみついてくれるのか。そうか。うん。そうかそうか。イイね。


「あっはっはっは! 奥さんもイイ女だな! よし。おれに任せな。イイ女にはイイ家具が必要ってもんだ。最高の作ってやるぞ!」


 わかってるな。本当にわかってるな大将!


 ん?


「ちょちょっ。大将! 普通ので! 普通のでいいから! 派手なのは要らないから!」


「ふふ。ふふふ」


 やべっ勢いに任せて調子に乗った。

 いやマジで豪華なのは要らないからな。作っても買わねぇぞ。

 ユリアも楽しそうに笑ってないで止めてよ。ユリアの笑顔で大将が余計張り切ってるから。

 本当にかわいい笑顔だ。その笑顔が男を狂わせるんだね。

 笑顔で脳がやられるのはわかるよ。大将。でも本当に派手なのは要らないからな!



 大将に家具を頼んだ流れで、まだこの町に来たばかりで家しかないとか、改築を予定しているとか、家具の相談をしながら雑談をしていたら。


「旦那。それならよ。大工でもべっぴんな奥さんの周りに変な虫寄せたくねぇだろ。大工紹介しようか? 信頼できる大工だぜ。そいつならおれも気兼ねなく一緒に大工仕事できるしな」


 マリオンさんの紹介で、全く負の感情がない職人の大将。

 その大将が信頼している大工ならぜひと頼むと、なぜか嬉しそうに奥に引っ込んで、年齢が大将と同じくらいの中年女性を連れてきた。


「あら、いらっしゃい。あんた。お客さんいるじゃないの。どうしたの? 商談途中みたいだけど」


 大工は大将の奥さん。そりゃ信頼するよな。


 床板や壁の下見に後日来てもらうことになったけど、俺たちと大将の奥さんの予定を調整したら数日先だった。



 ユリアの正規の身元も手に入れたし、先に冒険者の登録に行っちゃおうか!

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