第29話 魔法でやってもよろしくて?
「よ。さっきぶりだな。アル」
「ごきげんよう。アルさん。さっきぶりですわ」
改めてアルと対面すると、ちっちゃいな。
さっきの講習にいた他の少年少女は十二才前後って聞いた。
てっきりアルも彼らと同じくらいかと思ったら、十五才って知ってびっくりしたわ。
気にしているみたいだし、年齢とか体格には触れないでおかないと。
「ごきげんよう? ロルフ兄ちゃん。ユリアさん」
ユリアの挨拶に戸惑っているけど、慣れてくれ。
「まさかアルがギルド職員って可能性が?」
「ないよ。職員なわけないでしょ。整備の依頼を受けたの」
「では、わたくし達と一緒にお仕事ですわね。よろしくお願いしますわ」
「だね。アル、よろしくな」
「うん。よろしくね」
仕事内容が簡単なら、この町に住んでいるアルにいろいろ教えてもらおうかね。
よろしくな。アル先輩。
ユリア。オレ。アルの三人でしばらくこの町のことを話していたら訓練場整備の説明のための職員が来た。
仕事内容は
武具は汚れを落として手入れ用の油を塗るだけで数も多くないから、まぁ楽なもんだろう。
でも弓の練習が出来る程度に広い訓練場の整地は、なかなか大変だ。普通にやっていたら夜になる。
「魔法でやってもよろしくて?」
ユリア先生。よろしくお願いします! やっちゃってください!
「魔法ですか? 整地が出来るのであれば構いませんが……施設や設備を破損させると、
ユリアの「魔法でやります」発言に、
なんの実績もない新人がそんなこと言ったら、恩恵を過信して調子に乗っているんじゃないか? って心配だよな。
でも、元公爵令嬢に金関係の注意や警告はなんの意味もないんだ……
「わかりましたわ。では皆様。危険はありませんが念のために下がってくださいまし」
ね? なんの効果もないでしょう?
ユリアも「それがなにか?」って顔しているよ。かわいい。
「本当にやるんですか? ロルフさん。止めなくても?」
すまんな。職員のおっさん。
見てよ。あんな「やってやりますわよ!」って顔してるユリアを止めるなんてオレには出来ないよ。ま。大丈夫だって。
「大丈夫ですよ。すごいのが見れると思うから、オレたちは邪魔しないように訓練場の入り口まで下がりましょうか。アルも一緒に行くよー」
「お金が請求されるって、大丈夫なの?」
戸惑いながら一緒に移動するアルも心配そうだ。
今日初めて会った年上の冒険者を心配するなんて、アルは良いやつだな。
「いきますわよー!」
移動し終わったオレとアルと職員のおっさんを確認すると、早速とばかりにユリアが声をあげる。
普段は大声を出さないユリアが、楽しそうに手を振りながら大声をあげている……かわいい。元気な妖精かな?
「『
地面がユリアを中心に水面の
土が少し黒いから、下の方から混ぜながら掘り起こしたのかな?
畑仕事の依頼はユリア一人で全部終わりそう……オレは草むしりだろうねぇ。
腰まで上がったどう見ても柔らかい地面に、「やらかしやがったな!」と今にも言い出しそうな職員のおっさん。
アルも目をまんまるに見開いて驚いているけど、大丈夫だって。……たぶん。
「『
腰の高さまで掘り起こされた地面が、またユリアを中心に元の高さまで圧縮されていく。すごい光景だな……
「終わりましたわー!」
両手を振るユリアかわいすぎ問題。
かわいすぎて心臓がヤバイ。倒れそう。
「すごい! すごいよユリア!」
すごすぎて
さて、オレはまだ何にも仕事してないから、アルと一緒に貸し出し武具の整備を頑張りますか。
職員のおっさんは
ナンパしたらオハナシだよ? ワカッテイルネ?
「ユリアさん。すごかったなぁ。ロルフ兄ちゃんもあんなことできるの?」
「ユリアみたいなことを? オレが? ムリムリ。できないよ。オレは鍛えた体が武器だからな。見ろよ。この筋肉」
アル。すまん。「ルーム」はまだ極秘案件なんだ。
だから、この筋肉で許してくれ。すまん。
「あはは。なに言ってんの。……これで兄ちゃんまですごかったら泣くよ?」
以前なら「強力な恩恵っていいよなぁ」って、めっちゃ同意した。
でも恩恵「ルーム」が斜め上の急成長をしてからは、軽々しく恩恵の自虐ネタに乗れない。
なんかイヤなヤツになりそうなんだ。
そもそも冒険者に関わらず、他人の恩恵ってのは軽々しく
アルもわかっているから曖昧に
「泣くな泣くな。ほら、手が止まってんぞ。しっかり汚れ落としてから油塗らないと痛むぞー」
恩恵だけが全てじゃないんだ。気にするな。という気持ちを込めて深刻に接しない。
「はーい」
本当に素直だな。年齢より幼い外見も合わさって、悪い大人に
恩恵で悩んでいた過去のオレを見ているようだ。
素直で良いやつだし、なんかあったらできる範囲で助けになってあげたいな。
「あら。お二人共。すっかり仲良しですわね。わたくしもご一緒しますわ」
「ユリア。おかえり。それじゃこのブラシで武具の汚れを払ってもらおうかな。……職員になにか長いこと聞かれていたけど、ナンパ?」
オハナシか? おっさんにはオハナシが必要なのか?
「ユリアさん。おかえりなさい。……ロルフ兄ちゃん。目がヤバイよ?」
アル。人にはな。許しちゃいけない
「ふふふ。もう。ロルったら。ナンパではありませんわ。地面の確認ですわよ。他の場所でも同じように整地できるのか。あとは月に数回整地してほしい。定期的に指名依頼を受けることは可能か……でしたかしら。要はお仕事の相談をされましたの」
お仕事の話ね。良かったなおっさん。たった今、あんたは許されたぞ。
まぁ、あれだけの能力を見せたんだ。指名依頼出したくなるのはわかる。
町の中でも外でもあれだけの規模で整地できるなら、ユリアは
「新人の初依頼で指名依頼の確認かぁ。ユリアは受けるの?」
「そのままでは受けませんわ。わたくしたちは日付を指定されてしまうと困りますから、固定でなければとお答えしましたわ。準指名と言ったところですわね」
本来はもっと実績や信用を得て、冒険者等級が上がってから指名依頼が来るもんだ。
新人でいきなりギルドから指名されるなんて、さすがユリアだね。
「しっかり交渉して
「ふふふ。ロルったら。誉めすぎですわ。当然でしてよ」
「本当に二人は仲がいいよね。付き合ってるの?」
あれ? アルに言ってなかったか?
「「夫婦
ユリアと揃った。なんか微妙な恥ずかしさがあるなこれ。
「結婚してるの?」
「あら? アルさんに言っていなかったかしら?」
「うーん。積極的に言って回ったりはしてないからなぁ」
ユリアに変なのが寄ってこないように、夫婦アピールでもした方がいいかな。
アル。君は「もっと詳しく! すごく興味あるよ!」って顔してるぞ。お年頃だな少年。
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