第66話 新生、第一航空艦隊が目指すは真珠湾

ー 第一航空艦隊 旗艦 空母『雲龍』艦橋内 ー


奇しくも、南雲が開戦直前に航行したルートを辿って真珠湾を目指す艦隊がいた。

新たに編成された第一航空艦隊だった。


マレー沖艦隊戦で戦死した南雲を偲んで、一度は解隊された第一航空艦隊の名を再び起用していた。

そして、第一航空艦隊の司令長官に抜擢されたのは、第一航空艦隊の旗艦である空母『雲龍』の艦橋内にいた小澤治三郎(おざわ じさぶろう)中将だった。


当時、海軍大学校の教官だった小澤は、樋端から空母の集中運用(航空機動艦隊の原案)を提示された。

これにより小澤は、海軍中央に主力戦艦部隊と前衛巡洋艦部隊に分けて配備されていた二つの航空戦隊を一丸とすべしと意見具申した。

しかし、大艦巨砲主義者たちによって反対されて、却下された。

しかし、小澤はへこたれることなく海軍の各関係者に書面を送り、更には遠藤だけでなく樋端や山口たち航空主兵派の後押しもあって、第一航空艦隊が編成された。


ただし、『軍令承行令』による弊害のために、小澤自身が第一航空艦隊の司令長官にはなれなかった。

海軍中央も、将校クラスの人事だけは、理不尽なほど融通が聞かなかった。

唯一の例外は、遠藤だけだった。

小澤の航空艦隊指揮官については、遠藤、山口、樋端も小澤を第五航空戦隊か第六航空戦隊の司令官に推薦したが、遠藤と樋端が生み出した航空戦術などを目の当たりにしたことから、小澤が『まだまだ、勉強不足だ。』と言って、辞退していた。


そして今、航空機動艦隊の司令長官となった小澤が率いる第一航空艦隊の編成は、以下の通りである。


第一航空艦隊(司令長官∶小澤治三郎中将)

第三戦隊∶金剛型戦艦『金剛』、金剛型戦艦『比叡』

第四戦隊∶金剛型戦艦『榛名』、金剛型戦艦『霧島』

第三巡洋戦隊∶利根型重巡洋艦『利根』、利根型重巡洋艦『筑摩』

第四巡洋戦隊∶最上型軽巡洋艦『三隈』、最上型軽巡洋艦『鈴谷』

第一航空戦隊∶改大鳳型装甲航空母艦『雲龍』、改大鳳型装甲航空母艦『海龍』

第二航空戦隊∶隼鷹型航空母艦『隼鷹』、隼鷹型航空母艦『飛鷹』

第一護衛航空戦隊∶千代田型護衛航空母艦『千代田』、千代田型護衛航空母艦『千歳』

第二防空索敵艦隊∶大淀型迎撃巡洋艦『雲仙』、大淀型迎撃巡洋艦『六甲』

第四防空戦隊∶阿賀野防空巡洋艦『矢矧』、阿賀野型防空巡洋艦『酒匂』

第五防空戦隊∶多摩型防空巡洋艦『由良』、多摩型防空巡洋艦『川内』

第二水雷駆逐隊∶陽炎型駆逐艦『陽炎』、『不知火』、『雪風』、『舞風』

第二防空駆逐隊∶秋月型駆逐艦『新月』、『若月』、『冬月』、『宵月』

第二潜水戦隊∶伊号第一九潜水艦、伊号第二十一潜水艦、伊号第二十三潜水艦

高速給油船(タンカー)団:6隻

補給艦:2隻

工作艦『香椎』、工作艦『橿原』

護衛駆逐艦8隻

以上が、第一航空艦隊の編成である。


今回、新たに加わった艦船について説明する。

小澤が旗艦としている空母『雲龍』と同型艦『海龍』の2隻は、戦艦『山城』と戦艦『扶桑』の船体を延長して改装した空母だ。

初の装甲空母として予定されていた大鳳型空母を元にして問題点を改善し設計された空母でもある。

また、飛行甲板の装甲化については75ミリ装甲甲板を施したことで、500kg爆弾の直撃にも耐えられる日本海軍初の装甲空母として建造された。


但し、良いことずくめ訳でもない。

装甲甲板を施した影響で、船体バランス関係から格納庫が二段から一段へと変更された。

結果、木製飛行甲板ならば約90機前後だったが、格納庫が減ったことで65機前後に減った。

また、大鳳型空母の船体延長をしたことで改大鳳型空母の対空兵装もある程度、増設された。

また、改大鳳型空母もカタパルトが1基、大鳳型空母、翔鶴型空母、改翔鶴型空母と同じく左舷の側面にデッキサイド式エレベーターが設置された。


次に、隼鷹型航空母艦についてはサンフランシスコ航路のために日本郵船が1938年(昭和13年)に計画、1939年(昭和14年)に起工した大型高速客船をベースに改装した空母だ。

大型高速客船として『橿原丸』と『出雲丸』は、商船としてはそれまでの日本船舶で最大で、建造にあたり大型優秀船建造助成施設を適用され、有事の際に航空母艦に改造できる設計をとることを条件として、日本海軍から建造費用の6割の補助を受けていた。


対米関係が悪化した1940年(昭和15年)に、両客船は、空母への改造が決定され、1941年(昭和16年)に、海軍が日本郵船より建造中の2隻を買収。『橿原丸』は『隼鷹(じゅんよう)』、『出雲丸』は『飛鷹(ひよう)』と新たに命名された。

隼鷹型空母の艦橋は、大鳳型空母、翔鶴型空母よりも先に、艦橋と煙突が一体化したアイランド型艦橋になっている。

他にも、カタパルトが1基が装備された。

また、速力も当初の動力機関とは別の最新鋭の動力機関にしたことで、速力は25.5ノットから28.5ノットにアップした。


また、搭載機数は機体の最新鋭機に変更したことや機体の大型化により、補助機を含めると合計で45機となった。

正規である中型空母の『飛龍』や『蒼龍』より、若干、劣るが戦力としては十分だった。


そして今回、第一護衛航空隊として配備された千代田型護衛空母については、元々、水上偵察機の母艦だった千代田型と瑞穂型の4隻を空母に改装した空母だった。

当初は、艦爆機や艦攻機も搭載する小型空母の予定になっていた。

しかし、艦爆機や艦攻機も搭載すると搭載機数が少なくなる事から、最初から爆弾や魚雷を収納する部屋を省いたりして戦闘機だけを搭載する護衛空母として改装する事になった。


兵装については、舷側には六〇口径・長8cm連装高角砲が4基が設置された他、25mm3連装機銃を8基や飛行甲板後部の舷側に対空噴進砲が6基、設置された。

また、艦橋は空母『蒼龍』と同じ形を小型化した艦橋を右舷に設置して、油圧式カタパルトを1基、設置した。

また、搭載機数は約30機を搭載出来る様になった。

これにより、千代田型空母2隻の航空戦力は、第一航空艦隊の上空を護る『牙』として心強い存在となった。


旗艦である空母『雲龍』の艦橋内で、小澤の胸の高鳴りは止まらなかった。

(いよいよ、機動艦隊司令長官としての初陣だ。相手が誰であろうと、不足はないし、全力で挑むのみだっ!!)

小澤が指揮する新生第一航空艦隊によって『第二次真珠湾戦』が、間もなく始まろうとしていた・・・・。



_______________________


大淀型迎撃巡洋艦の艦名として名付けている『雲仙』と『六甲』については、幾つかの山名を選んで大淀型の3番艦と4番艦の艦名として名付けました。


なので、その辺りのご指摘やツッコミに関しては、ご了承下さい・・・・m(_ _)m


いよいよ、小澤が率いる第一航空艦隊が、真珠湾に迫りつつあります。


そして、第一航空艦隊の搭載する航空戦力は、如何なる戦力か・・・・?

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