第33話 震え上がるルーズベルト大統領
ー 空母『大鳳』艦橋内 ー
零戦四二型隊に追い詰められつつあったB-25の様子は、『大鳳』の艦橋内からも確認出来る状態だった。
「しかし、あのB-25は中々、粘りますね。」
長谷川の感想に対して遠藤は、
「粘り強いだけでなく、パイロットが優秀なんだろうな・・・。」
ふと、ある事を遠藤は思い付いた。
「鹵獲したいな・・・、あの機体。」
遠藤の言葉に、思わず長谷川が「えっ!?」と返した。
「いや、無茶じゃあないぞ。『大鳳』の広い飛行甲板ならば、あのB-25のパイロットならば、着艦が出来るだろう。もし失敗して不時着水しても、今回、試作で用意した『浮きフロート』があるだろ。」
『浮きフロート』は、故障か被弾で不時着水をした中でもまだ修理すれば利用出来る機体を回収する為に考案されて開発された物である。
「それに、今回の帝都爆撃の為に、B-25をどの様に改造したのかも知る事が出来る。」
遠藤の話を聞いた樋端と長谷川も納得した中、遠藤は長谷川に言った。
「長谷川艦長、零戦四二型隊隊長に連絡してくれ。内容は・・・。」
そう言って、命令内容を長谷川に伝えた。
一方、ドーリットルのB-25はさながら獰猛なシャチの群れに囲まれた、クジラの感じだった。
(もはや、これまでか・・・。)
内心、ドーリットルが諦めを感じていた時に、隣の副操縦士が言ってきた。
「隊長、敵戦闘機のパイロットが発光信号をしていますっ!!」
ドーリットルも顔をそっちに向けると、零戦四二型隊の1機が携帯用の発光信号装置を使って、こちらにメッセージを伝えていた。
発光信号の内容は、
『投降セヨ、近クノ空母ニ着艦セヨ』だった。
発光信号の内容に驚愕するドーリットル達に、零戦四二型のパイロットは手のジェスチャーである方向を示した。
ドーリットル達がそちらに視線を向けた時には全員、言葉を失った。
何故ならば、空母『ホーネット』を一回り大きくした巨大空母がいたからだった。
「なんて、巨大な空母なんだ・・・。だが、あの広さならば、納得するな。」
そう言って、ドーリットルは乗組員達に告げた。
「私の判断だが、投降しよう。全責任は私が請け負う。今は生き延びる事を優先しよう・・・。」
彼の言葉に泣く乗組員もいたが、皆がドーリットルの決断に同意した。
そして、ドーリットルは近くにいた乗組員に伝えた。
「敵戦闘機に発光信号で伝えろ。『我、投降スル、空母ヘノ誘導ヲ頼ム』とな。」
こうして、アメリカ陸海軍共同の大博打な帝都爆撃計画は、失敗に終わったのだった・・・。
ー 空母『大鳳』飛行甲板上 ー
空母『大鳳』の飛行甲板前部辺りに、ドーリットル達のB-25がいた。
あの後、遠藤の言う通りドーリットルは二式艦偵の誘導があったとは言え、巧みな操縦で空母『大鳳』の飛行甲板に着艦して、飛行甲板前部辺りギリギリで機体は停止した。
ドーリットル達乗組員は、長谷川が通訳を通して話し合い、捕虜となった後に簡単な事情聴取が行われた。
勿論、遠藤は長谷川達に捕虜の扱いはジュネーブ条約に従うように言った。
長谷川は、遠藤が捕虜虐待をする非人道的行為を毛嫌いしているのを知っていた。
以前に陸軍で捕虜虐待をしていた陸軍将校に激怒した遠藤が自分の日本刀で、注意をしても捕虜虐待をやめなかった陸軍将校の首をその場で切り落とす事件があった。
もちろん、陸軍側は激怒した。
しかし、明らかに陸軍将校に非があり、遠藤が注意してもやめなかった結果に加えて、その事件を知った今上天皇が怒り陸軍上層部を呼び出し強く叱責した事で、遠藤は責任を問われなかった。
後に遠藤は、ドーリットルが初のアメリカ大陸横断を成し遂げたジミー・H・ドーリットル本人だと知って驚いたのだった・・・。
B-25を見ていた遠藤、樋端、長谷川の元にB-25を調べていた技術者達が来て報告をした。
「長官の推測していた通り、銃器は全て外されていました。銃器と思われていたのは、棒に黒く塗装した物でした。」
更に、技術者の報告によると、
「航続距離の為に燃料タンクを増設していましたが、爆弾倉庫の中の半分に取り付けただけでなく通信室の一部にも、燃料タンクを増設していましたね・・・。」
技術者達の報告を聞き終えた後も、遠藤はB-25を見ながらある事を考えていた。
(この戦術や燃料タンクの増設、上手くすればアメリカとの短期戦の決定打の一つとして活用出来るな・・・。)
皮肉にも、アメリカの行った大博打作戦が、
後にアメリカ側に衝撃を与えることになるのだった・・・。
ー 空母『ホーネット』艦橋内 ー
一方、空母『ホーネット』の艦橋内はさながらお通夜モードだった・・・。
B-25爆撃隊からの緊急伝で『日本の新型戦闘機の接近』を最後に、通信が途絶えてしまっていたからだ。
そんな中で、スプルーアンスは乗組員達に、
「残念ながら、作戦は失敗した。すぐに反転して、サンディエゴに帰航する。フレッチャーにも連絡してくれ・・・・。」
幕僚達や乗組員達が作業を再開する中、スプルーアンスは内心で思っていた。
(キンメル少将の言う通り、アドミラル・トーゴーの再来であるアドミラル・エンドウが予測して、我々の作戦を阻止したか・・・。だとすれば、今後の戦いも楽観視は論外だな・・・。)
ー アメリカ・ワシントンD.C. ホワイトハウス・大統領執務室 ー
【帝都爆撃任務のドーリットル隊との連絡が途絶、作戦は失敗】
サンディエゴの太平洋艦隊基地から届いた報せは、ルーズベルト大統領達を更なる苦悩のドン底に落としていた・・・。
この場には、ルーズベルト大統領の他にハル国務長官、ノックス海軍長官、陸軍航空アーノルド司令官、マーシャル陸軍参謀長、合衆国艦隊司令長官のキング大将がいた。
(ここにいるなんて、俺だけ場違いじゃあないのか?)
内心、キング大将の補佐官を務めるマット・A・フリードマン中佐は、息苦しい気持ちだった。
正直、陸軍や海軍のトップだけでなく大統領もいるのだから尚更だった。
今のフリードマンは、正に『針の筵』状態である・・・。
そんな中で、ルーズベルト大統領はノックスに聞いた。
「ノックス海軍長官、先ほどの報告に間違いは無いのかね?」
報告とは、日本が真珠湾やアメリカ太平洋艦隊の壊滅や今回のドーリットル隊についても、国民だけでなく軍にも必要最低限しか報道していなかったのだ。
これは、遠藤が軍や国民が傲慢にならない為にした事だが、アメリカ側からしたら理解が出来なかった。
ノックスもルーズベルト大統領達と同様に理解が出来ないと答えるしか無かった。
そんな中で、キング長官が口を開いた。
「推測ですが、ジャップの狙いは見当がつきます。」
彼の言葉にルーズベルト大統領達は、その真意を知りたかったが、ここでキング長官は補佐官のフリードマン中佐に説明をさせた。
緊張しつつも腹を括ったフリードマン中佐は、皆に説明した。
「今回の戦いにおいて、日本は短期決戦を考えています。」
それを聞いていたルーズベルト大統領達だったが、中でもルーズベルト大統領は顔を引き攣らせていた。
それでも引き続き、フリードマン中佐は説明した。
「開戦直前のミスターノムラ達がしたハル・ノートへのカウンターも、アドミラル・エンドウが入れ知恵したと考えられます。」
驚愕するルーズベルト大統領達に構わず、フリードマン中佐は続けた。
「現在、日本の陸軍は他国の侵攻をしないばかりか、中国から撤退の上で放置しています。これは、日本のエンペラー・ヒロヒトの指示と言われていますが、エンペラーから絶大な信頼と支持を受けているアドミラル・エンドウの進言があったそうです。」
一通り説明をフリードマン中佐が終えた中で、キング長官が引き継ぐ形で締めくくった。
「ジャップの狙いは、我々の面子を保ちながら、ジャップの必要最低限の保障を得ての講和に持ち込む事が狙いだと思われます。」
キング長官とフリードマン中佐の推測や説明を聞き終えたルーズベルト大統領は、完全に言葉を失っていた。
特に、ルーズベルト大統領とハル国務長官の表情は、顔面蒼白だった。
ハル国務長官は、キング長官に尋ねた。
「アドミラル・エンドウは何者だ・・・?」
これに対してキング長官は、
「詳しい事は分かりませんが20代半ばの若者で、日本のエンペラー・ヒロヒトから強い信頼を得ています。日本の海軍兵学校では『アドミラル・エンドウは、アドミラル・トーゴーの生まれ変わりと言っても過言ではないくらい、軍人としてだけでなく軍政家としても優れている。』と言われています。」
キング長官の話に皆が沈黙した中で、ルーズベルト大統領はハル国務長官に指示した。
「すぐにアドミラル・エンドウに関する更なる情報を徹底的に調べてくれ。」
ハル国務長官に指示を出したルーズベルト大統領だったが、彼は恐怖に震えながら呟いた。
「一体、アドミラル・エンドウは何者なのだ・・・。我々は、敵にしてはいけない男を敵にしてしまったのか・・・?」
そんな恐怖に震えるルーズベルト大統領に答える者は、誰一人、いなかった・・・。
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アメリカの目論んでいた『帝都東京爆撃計画』は頓挫しました。
そして、遠藤の存在に震え上がるルーズベルト大統領。
今後、どんな展開になるのか・・・・。
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