第31話 ドーリットル隊、緊急出撃っ!!
ー 大鳳型空母『大鳳』艦橋内 ー
やがて、『大鳳』の艦橋内からも視認出来るくらい複数の機影が接近してきた。
その機影の中に初めて見る機影があった。
一つ目の機体は、液冷エンジンを搭載した愛知航空機・『二式艦上偵察機一一型(D4Y1-C)』。
航空本部で石井達が開発していた、九九式艦爆の後継機である『彗星』の派生機でもある。
そして、二つ目の機体だが、液冷エンジンが搭載されてはいるものの、『二式艦偵』と姿が違っていた。
「あの機体は・・・・?」長谷川が首を傾げた。
それに対して、遠藤が答えた。
「あの機体は、零戦の後継機までの繋がりとして開発させた。言わば『仮初めの新型戦闘機』だよ。」
遠藤が言った『仮初めの新型戦闘機』と言う言葉に、その場の全員が更に首を傾げた・・・・。
そして、遠藤は長谷川達に説明した。
現在、海軍の主力戦闘機である零戦は、双発爆撃機の一式陸攻と同じく航続距離だけでなく速度を重視した結果、防御能力が酷く、問題だった。
しかし、後継機を開発したくても『零戦がいれば、後継機は必要無い』と豪語する性質の悪い輩達もいるから後継機開発がし辛かった。
そんな連中に遠藤は、『そんな事でせっかく育成したパイロット達を減らすのならば、死んで詫びる覚悟は有るのかっ!!』と一括して黙らせた上で、零戦を開発した堀越二郎(ほりこし じろう)技師に零戦の後継機である『烈風一一型(A7M2)』の開発を進行させていた。
とは言え、すぐに開発は出来ない為に臨時の新型戦闘機が必要だった。
その中で、遠藤が航空本部の石井と相談して開発される事になったのが、『二式艦偵』の液冷エンジンを搭載した三菱の『零式艦上戦闘機四二型(A6M4)』だった。
結果、イギリスのマーリンエンジンに匹敵する液冷エンジンを搭載した零戦四二型の速力は、零戦一一型の530kmと比べて50kmプラスの580kmになった。
また、武装は零戦一一型の九九式20mm機銃ではなく、ドイツから輸入して国産化させたマウザー砲20mm機銃を翼内に四丁を装備したのである。
他にも、主翼の長さや面積を広げて性能向上を行っていた。
しかし、防御能力は多少改善されてはいるがアメリカの戦闘機と比べると相変わらず低い事から、『烈風一一型』が登場するまでの『仮初めの新型戦闘機』なのであった。
一通りの経緯や説明を聞いた長谷川達も納得した。
「成る程・・・。確かに『仮初めの新型戦闘機』ですが、心強いですね。」
「今回は、『二式艦偵』と『零戦四二型』はある程度生産されたことで発着艦のテストを兼ねて『大鳳』と『白鳳』で訓練することになったんだ。」
そう言った遠藤は改めて、『大鳳』と『白鳳』に着艦を始めた『二式艦偵』と『零戦四二型』を見た。
他にも、『大鳳』と『白鳳』に配属となる九七式艦攻隊も着艦態勢の準備に入り始めていた。
しかし、この第七航空戦隊がアメリカによる帝都東京爆撃の危機を救う事になるとは、遠藤も予想していなかった・・・・。
ー 房総半島の東側太平洋上 ー
第16任務部隊と第18任務部隊が目的海域近辺に差し掛かって来ていた。
予定では、更に接近してから、ドーリットル中佐率いるB-25隊16機が空母『ホーネット』から発艦して、帝都東京に向かい場所に関係無く爆弾を投下した後に、日本本土を最短ルートで通過した後に蒋介石政権下の中国領土に着陸または不時着する手筈になっていた。
勿論、スプルーアンス提督は油断せず、慎重に作戦を進めていた。
だが、誤算が発生した。房総半島の東側太平洋上、600浬(1,100km)の海域でスプルーアンス艦隊とフレッチャー艦隊を、1隻の漁船である『第二十三日東丸』が発見したからだ。
遠藤は以前に、永野達に空襲に備えて哨戒船を増設して警戒すべきと進言していた。
これに対応する為に、海軍は漁船などを大幅に招集して哨戒船として活用した。
『第二十三日東丸』に乗り込んでいた士官は、急ぎ無線で『敵空母艦隊ヲ発見』を打電した。
しかし、スプルーアンス提督達も気付いた事で、護衛の巡洋艦や駆逐艦に砲撃開始を命じた。結果、日本本土に報せた直後に『第二十三日東丸』は集中砲火を浴びて撃沈された。
『第二十三日東丸』の生存者は、誰もいなかった・・・。
哨戒船を沈めたスプルーアンス提督は、すぐにフレッチャー提督と無線で打ち合わせをして、ドーリットル隊を急遽、発艦させる事になった。
しかし、スプルーアンス提督は迷っていた。
B-25の乗員達の生還率が五分五分になったからだ。
帝都東京に爆撃を成功させても乗員達が生き残らなければ、下手をしたらアメリカ政府に批判が出てしまう事になる・・・。
哨戒船に発見されたと聞いて艦橋内に来ていたドーリットル中佐は、スプルーアンス提督に言った。
「提督、今すぐ出撃します。我々の身を案じてくれるのは嬉しいですが、重要な任務をこなして生還しますっ!!」
ドーリットル中佐の強い決意と覚悟を感じたスプルーアンス提督も、決断した。
「了解した。中佐、必ず生還してくれっ!」
そう言ってスプルーアンス提督とドーリットル中佐は、強い握手を交わした。
間もなくして、ドーリットル中佐率いる16機のB-25が次々と、空母『ホーネット』から発艦した。
更に、空母『ヨークタウン』からは、F4Fワイルドキャット隊が発艦して途中までドーリットル隊を護衛するだけでなく、周囲にいるであろう日本の哨戒船を発見次第、攻撃を始める事になった。
しかし、スプルーアンス提督達にとって最大の不幸は、遠藤が率いるいる第七航空戦隊が駿河湾内でテスト航行していた事であった・・・・。
ー 大鳳型空母『大鳳』艦橋内 ー
大体のテスト航行や艦載機の発着艦訓練を終えて、遠藤たちは横須賀に帰航しようとしていた。
そんな中、通信兵が艦橋内に駆け込み、緊急伝を伝えた。
「報告しますっ!『第二十三日東丸』から敵空母艦隊を発見したと緊急伝の直後に、連絡が途絶えましたっ!!」
この報せに艦橋内の雰囲気が凍りついた。
遠藤は以前に皇居で永野達にアメリカの反撃の予想内容を話していたが、予想よりも早く博打行動をとったアメリカ側の思惑を察した。
(予想以上に、アメリカは大博打を仕掛けてきたな・・・。真珠湾だけでなく清水さん達の潜水艦隊による、通商破壊もダメージとして来ているんだな・・・・。)
遠藤は通信兵に確認した。
「通信兵、他の哨戒船からの連絡はあったか?」
「いえ。今はまだ来ていません。」と通信兵が答えたので、遠藤は通信兵に引き続き、他の哨戒船からの続報があったかを確認する様に指示をして通信室に戻る様に伝えた。
遠藤は長谷川に顔を向けて言った。
「長谷川、済まないな。こっちで指示を出してしまった。」
長谷川も「大丈夫ですよ。」と答えてから、長谷川は今回のアメリカの狙いについて尋ねてきた。
長谷川達も、遠藤が永野達にアメリカの反撃を予想して哨戒船の増設提案をしているのを知っていたからである。
そこで遠藤は長谷川達に、アメリカ政府が国民からの批判を回避する為に、陸海軍共同で大博打な作戦を決行して国民や軍の士気を高めようとしている事や、空母に双発爆撃機を搭載して帝都東京を爆撃する可能性がある事を説明した。
遠藤から話を聞いた長谷川達も、最初は絶句した。
正直、アメリカの大博打な作戦や予想外な計画内容を聞かされたりしたから、無理も無かった。
そして長谷川は、
「アメリカは、かなりの博打を仕掛けてきましたね・・・。」と感想を述べた。
「長谷川の言いたい事も分かるけど、日本に『大和魂』があるようにアメリカも『フロンティアスピリット(開拓者精神)』があるから、不思議じゃあない。」
と遠藤は答えた。
長谷川達も納得した中、遠藤は告げた。
「緊急事態だが、まずは敵空母艦隊の探索と予想される帝都東京への爆撃を阻止する事だっ!」
そして、遠藤は長谷川達に指示を出していった。
「長谷川、他の哨戒船の連絡から敵空母艦隊のいる海域を割り出した上で、『二式艦偵』全機を発艦させて敵艦隊を発見させろっ!!」
長谷川が「了解しましたっ!」と言って、乗組員達に指示を出す中、遠藤は通信室に無線を全艦に繋げる様に言った。
今回の改装などで、近距離ならば無線を繋げての艦内放送が出来る様にしていた。
これにより、手旗信号を省いて早く連絡を伝える事が可能になった。
遠藤は、無線マイクで全艦に伝えた。
『第二航空艦隊司令長官の遠藤中将だ。緊急事態なので、第七航空戦隊を臨時で第二航空艦隊の指揮下に入れる事にした。』
更に遠藤は続けた。
『先ほど、哨戒船の一隻から敵空母艦隊を発見したと緊急伝があった。恐らく、敵の狙いは帝都東京に爆撃する可能性がある。これより敵空母艦隊を発見して、帝都東京への爆撃を全力で阻止するっ!皆の戦いに期待する!!』
そう言って、遠藤は無線マイクのスイッチをOFFにした。
そして、長谷川達に言った。
「長谷川達も頼むぞっ!それと、本土や海軍省にも連絡して、防衛態勢をして欲しいと伝えてくれ。」
長谷川もこれに答えた。
「了解しましたっ!すぐに対応します。」
そう言って、長谷川達も動き出した。
「若大将、俺も力を貸すぞ。」
「頼みます、樋端さん。」
遠藤と樋端も動いた。
(ルーズベルト大統領、あんた達の好き勝手にはさせないぞ・・・。)
内心で呟きながら、遠藤は発艦準備を進めている『二式艦偵』隊のいる飛行甲板に向かった・・・・。
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遂に発見されたアメリカ艦隊。
ドーリットル中佐率いる16機のB-25爆撃機隊と帝都東京の爆撃を阻止しようとしている第七航空戦隊。
勝敗は如何に・・・・😓
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