第50話 イギリス東洋艦隊の終焉

ー 戦艦『土佐』防空指揮所 ー


敵駆逐隊の雷撃により、戦艦『陸奥』が爆沈していく光景は遠藤たちのいる戦艦『土佐』も確認されていた。


戦いにおいて被害が皆無なのはごく稀であることは分かっていたが、南雲が率いていた『大井』と『北上』だけでなく『陸奥』が犠牲になっしまった悔しさを遠藤は強く感じていた。


すぐに遠藤は、指示をした。

「駆逐艦『谷風』の有賀さんに連絡だっ!!敵駆逐艦5隻を叩いてくれと伝えてくれっ!!」

すぐに遠藤の指示は有賀に伝えられた。


ー 駆逐艦『谷風』艦橋内 ー


遠藤の指示を受けた有賀は、次の攻撃目標をS級駆逐艦2隻とマハン級駆逐艦3隻にした。


有賀はアメリカやイギリスの駆逐艦は日本の駆逐艦と違って予備の魚雷が無いのは知っていた。

そして、既にS級駆逐艦2隻は、『陸奥』への雷撃で魚雷を使い果たしていた。

残るは、マハン級駆逐艦3隻の魚雷が『長門』には脅威になるのは明らかだった。

今の『長門』は、キング・ジョージ5世級戦艦相手に手一杯だからこそ、有賀は敵駆逐艦5隻を叩かなければならないと理解していた。


幸いにも、敵駆逐艦5隻は『長門』への攻撃準備に集中していたことから、有賀が率いる駆逐隊を阻む敵はいなかった。

「各艦、急いで予備の魚雷を魚雷管に装填するんだ。我々の次の目標は、イギリスの駆逐艦5隻だっ!!」

各艦の乗組員たちは、雷撃準備に向けて慌ただしく動いていた。


魚雷管に予備の魚雷が装填された中、駆逐艦『谷風』を始めとした4隻は、S級駆逐艦2隻とマハン級駆逐艦3隻に接近しつつあった。

ここで、『長門』への雷撃を仕掛けようとした。

だが、ここにきてイギリスの駆逐隊も有賀が率いる駆逐隊の接近に気付いた。

「今更、遅いっ!!『陸奥』の仇を討つぞっ!!」

直後に有賀は、命じた。

「各艦、敵駆逐隊に向けて魚雷を一斉に射出しろっ!!」

有賀の号令により、再び、有賀が率いる駆逐隊から61cm酸素魚雷16発が次々と射出された。


有賀の率いる駆逐隊から放たれた魚雷を前に、イギリスの駆逐隊は『長門』への雷撃を中止して、急いで回避運動を図ったが手遅れだった。

イギリスの駆逐隊が回避運動を図った直後、有賀の駆逐隊が放った魚雷が次々と5隻の駆逐艦に命中した。


結果、マハン級駆逐艦3隻には2~3本の魚雷が命中した上にマハン級駆逐艦が用意していた魚雷の誘爆も重なり、マハン級駆逐艦3隻は次々と撃沈された。

一方、S級駆逐艦2隻は魚雷を使い果たしていたとは言え、少なくとも2本が命中した。

撃沈は逃れたが、2隻は大破となり戦線から離脱していった。


イギリスの駆逐艦5隻が撃沈または離脱したことで、イギリス東洋艦隊は旗艦である『プリンス・オブ・ウェールズ』と『アンソン』の2隻だけとなってしまった。

『プリンス・オブ・ウェールズ』は『土佐』との激しい砲撃戦により、中破状態となっていた。

また、『アンソン』は『長門』、『陸奥』との激しい砲撃戦により、『陸奥』が撃沈されても『長門』からの砲撃により唯一健在だった三番砲塔も破壊されて大破状態の状態となっていた。

この時点で勝敗は既に決していて、フィリップス長官は降伏するしかなかった。


しかし、フィリップス長官は苦悩していた。

チャーチル首相やイギリス海軍上層部に無理して掛け合って、戦力を強化したのに空母部隊は日本の陸上航空部隊と空母部隊の攻撃で大半が失われて、攻撃を逃れたのは2隻の空母『ヴィクトリアス』と『インドミタブル』、D級軽巡洋艦『ダナイー』、『ドラゴン』と4隻のS級駆逐艦だけだった。

そして今現在、戦艦部隊は『プリンス・オブ・ウェールズ』、『アンソン』の他は大破した2隻のS級駆逐艦だけとなっていて、事実上イギリス東洋艦隊は壊滅状態だった。


フィリップス長官が苦悩していた時、見張り員の一人から報せが入った。

「敵の戦艦から、探照灯が点滅していますっ!!」

報告を聞いたフィリップス長官たちが艦橋の窓から確認してみると、探照灯の点滅は発光信号だった。

士官の一人が、発光信号の内容をフィリップス長官たちに伝えた。

「敵艦からの発光信号は『コレ以上ノ残存艦ノ将兵達ノ命ハ何物ニモ代エ難イ』です・・・・。」


その言葉を聞いフィリップス長官は、遠藤が『降伏』という言葉を控えて自分達に降伏を促してきたのに気付いた。

やがて、フィリップス長官は決意してパリサー参謀長に告げた。

「パリサー参謀長、降伏旗を掲げろ。そして、ヤスオに発光信号をしてくれ。『我降伏スル』とな・・・・。」

フィリップス長官の決断に、異議を唱える者は誰もいなかった・・・・。


1942年8月9日、マレー半島東岸のクアンタン沖で始まった『マレー沖艦隊戦』は、数時間に渡る激しい砲撃戦の末にイギリス東洋艦隊が降伏することで終わりを告げた・・・・。




____________________


日本海軍とイギリス海軍の間で始まった『マレー沖艦隊戦』は、日本海軍の勝利で終わりました。


だけど、どちらも失った被害は大きかったです・・・・・。




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