第26話 昭和天皇陛下との謁見

ー 帝都東京・皇居 ー


後の対応や手配を鼓舞達に頼んで、山本が手配してくれた航空機で帝都東京に向かった遠藤は、その日の夕方に到着して皇居にに赴いた。


皇居の敷地内に到着した遠藤を待っていたのは、嶋田海軍大臣と永野軍令部総長の二人だった。

二人に出会った遠藤は、二人に敬礼しながら言った。

「嶋田大臣、永野総長、先ほど、呉に帰航しました。」


嶋田と永野は、遠藤を労った。

「若大将、ご苦労だったな・・・。だが、君たちのお陰で、アメリカにそれなりの打撃を与える事が出来た。」

嶋田に続いて、永野も、

「君等の計画通り、少なくとも半年間は、アメリカ太平洋艦隊の稼働は厳しいだろうな。」

そう言って、永野は遠藤を労った。

永野と嶋田の言葉を聞いた遠藤は、

「有り難うございます。」と礼を言った。


そんな中、木戸内大臣が現れた。

「見事な戦果だったな、若大将。君の助言もあって、事前に大本営の連中に釘を刺す事が出来て良かったよ。さぁ、陛下がお待ちだ。」

木戸が先導して、嶋田と永野が後に続き、遠藤が三人の一歩後で付いて行った。


やがて、謁見の間の前にいたのは鈴木侍従長である。

「よく来てくれた、遠藤長官。この先で、陛下がお待ちだ。」

鈴木と木戸が扉を開けて、嶋田と永野に続いて遠藤が入室した。

そして、鈴木と木戸も入って扉が閉まった中、目の前には高台の座席に座っている今上天皇がいた。


今上天皇は、遠藤が無事に帰還したのか安堵した様子だった。

「泰雄よ、無事に作戦を成功させ帰還してくれて、朕は嬉しいぞ。」

今上天皇の言葉に気遣いや自分を心配してくれたのを感じながら、遠藤も頭を下げて答えた。

「勿体ないお言葉です、陛下。ですが、開戦前にお話しした様に、今作戦は、まだ序盤に過ぎません。」


普通ならば、無礼極まりない発言だが、昭和天皇だけでなく鈴木、木戸、嶋田、永野も、遠藤の真意を聞いていたから問題は無かった。

この謁見の間に彼等以外、誰もいないのも人払いしているからだ。


この後、遠藤は今上天皇に今回の戦闘報告をして、謁見の間から別室に移り、テーブルを挟んだ形で昭和天皇に今後の事を話した。


そこで嶋田が遠藤に尋ねた。

「若・・・、いや遠藤よ、今回の敵に与えた損害はかなりのダメージだと思うが、やはり、アメリカにとっては致命的ダメージでは無いのかね?」

「はい、残念ながら。アメリカも新造艦船を完成させてくる筈です。だから、アメリカ太平洋艦隊のダメージは半年から一年ですね・・・。」

遠藤の見解に、嶋田だけでなく永野も残念そうにしていた。

二人もアメリカの国力は理解しているから、尚更、落ち込んでいた。

それは、今上天皇だけでなく木戸と鈴木も同じだった。


そんな中で、遠藤は更なる爆弾発言をした。

「恐らく、アメリカは大博打を仕掛けて来るでしょう。例えば、帝都東京に爆撃を行うとか。」

遠藤の爆弾発言に、その場にいた皆が固まった・・・。


そんな遠藤の発言に、木戸が慌てて嗜めた。

「遠藤君っ!いくら何でも、それはっ!」

そんな木戸達に遠藤は、

「不快な発言をして、申し訳ございません。しかし、あのルーズベルト大統領が何の手も打たないでいるとは思えません。」


少しして、今上天皇が尋ねた。

「何故、泰雄はその様に考えるのか?」

遠藤は、その場にいた全員に見解を述べた。

「こちらは、ハル・ノートへの意趣返しをしてから、堂々の宣戦布告をしました。加えて、真珠湾、アメリカ太平洋艦隊の壊滅ですから、アメリカ国民達からのルーズベルト大統領への批判もあるはずです。」


永野も頷きながら、理解した。

「確かに・・・、ナチスドイツの打倒、中国経済市場の独占、ルーズベルト大統領自身の長期政権の確立を目論んでいても、現状では下手をしたら失脚だな・・・。」

永野だけでなく嶋田も同意した。

「そうですね・・・。しかし、帝都東京への爆撃は不可能では?」


「自分は不可能では無いと思います。我々日本人に『大和魂』があるように、アメリカ人にも『フロンティアスピリット(開拓者精神)』があります。不可能を可能にする事をすると考えています。」

遠藤の言葉に鈴木が聞いた。

「具体的には、どの様に?」

遠藤は少し考えてから、語った。

「例えば、アメリカ海軍の空母にアメリカ陸軍の双発爆撃機をクレーンなどで搭載します。また、少しでも航続距離や生還率を高める為に銃器などを外して機体の重量を軽減させて、関東海域から発艦します。」

ここまで皆が自分の話を理解しているのを確認してから、遠藤は続けた。

「爆撃場所は帝都東京の何処でも良いから、1回だけで爆撃を終えたら、友好関係がある蒋介石政権下の中国領土内に向かい着陸なり不時着なりして生還を果たして、国内外に大々的に報道する。そうすれば、世間に強烈なインパクトを与えるし、軍や国民達の士気を高める事が出来ます。」


遠藤の見解と予測に皆が固まる中、更に遠藤は述べた。

「対策としては、太平洋側の哨戒船の増加だけでなく、陸海軍共同で防空部隊の設置を早めに行う事です。」


一通りの話を遠藤が終えた中、今上天皇が告げた。

「嶋田と永野よ、陸軍にも通達するから対策を進めたまえ。泰雄の言う通り、出来る事は手をうつべきだ。」

今上天皇の言葉に嶋田と永野だけでなく、木戸と鈴木も頭を下げて了解した。


そして、一通りの話も終わった中で、今上天皇が遠藤に言った。

「さて、泰雄よ。この後、ささやかな戦勝を兼ねた食事はどうかね?勿論、木戸達も一緒にな。」

今上天皇の言葉に少し戸惑いつつも遠藤が

「有り難うございます。」

と答える中、木戸達は内心で苦笑いした・・・。


ー 深夜近く 皇居内 ー


今上天皇が遠藤たちとの食事会を終えて遠藤たちが皇居を後にした頃、木戸と鈴木は今上天皇に進言した。

「陛下、遠藤長官を信頼し支持をするのは良いのですが、あまり周りに贔屓を見せてはいけないかと思います・・・。」

「そうです。我々も彼を信頼していますが、それを快く思わない連中が何を仕出かすか分かりません。特に陸海軍の強硬派達や親独派達は・・・・。」

しかし、今上天皇は言った。

「二人の気持ちは分かるが、泰雄だけに負担は掛けたくない。朕も、覚悟を背負わなければいけないのだから・・・・。」

今上天皇の覚悟を前に、木戸と鈴木もそれ以上は言わなかった。

彼らも今上天皇と同じで、遠藤を支える事を決めていたからだ。

(自分達も、若大将を支えてやらないと・・・・。)


今上天皇は何故、ここまで遠藤を信頼して、強く支持しているのか。

切っ掛けは、今上天皇が即位して間もない頃に右翼に襲撃を受けた事件であった。

絶対絶命の危機だった今上天皇を、一人の男が救った。

その人物こそ、今上天皇の護衛をしていた一人である遠藤の祖父・遠藤宗泰(えんどう むねやす)であった。

だが、昭和天皇を庇って受けた傷が原因で、宗泰は数年後に亡くなり、更に遠藤の両親はその後の家督相続のトラブルに巻き込まれてしまい、相次いで亡くなってしまい彼は身寄りがなくなってしまった。


それを知った今上天皇は、急ぎ、命の恩人である宗泰の孫の遠藤を保護させた。

その時に、遠藤の保護&後見人になったのが、山本五十六だった。

その後、遠藤の学費等は、今上天皇が目に見えない形で援助していた。


やがて、海軍兵学校に入学した遠藤は、その才能を開花させて、海軍兵学校でも図上演習や討論でも、先輩達を凹ませるなど、既に軍人としてだけでなく、指揮官としての片鱗を見せていた。


だから、遠藤は『東郷平八郎元帥の生まれ変わり』と言う噂も、出たりしていた。


だが、当然だが、遠藤を妬んだり、疎んじる連中も現れて陰で陰湿な嫌がらせをしていた。

そんな時に、『ある事件』が起きた。

遠藤が海軍兵学校に入って一年くらいした時に、ある先輩が遠藤を疎んじて遠藤に嫌がらせをしていた。

だが、遠藤はどんな嫌がらせにも屈しないだけでなく、討論や図上演習でそんな連中を凹ませて黙らせたが、件の先輩は図上演習で凹ませられて逆ギレして、遠藤に言い掛かりを付けて所持していた刀で遠藤に斬り掛かった。

これに対して遠藤は、祖父の宗泰と同様に柳生心陰流を幼い頃から学び、免許皆伝を得ていたから難なく躱して逆に件の先輩を叩きのめした。


だが、この時に件の先輩は逆に大怪我を負ってしまい、その怪我で海軍兵学校を退学する事になった。

当然、先輩の親は激怒しただけでなく、先輩の家は海軍の大御所だった伏見宮博恭王元帥(ふしみのみや ひろやすおう)と繋がりがあったから、伏見宮元帥も激怒して遠藤を厳罰にしようとしていた。


だが、事の経緯を聞いた今上天皇が逆に激怒して、伏見宮元帥を呼び出し雷を落とした。

今上天皇の怒りは凄まじく、遠藤への厳罰をしようとしていた伏見宮元帥に対しても、厳罰を与えようとしていた。


流石に、周りの側近達が説得して伏見宮元帥の処分は逃れたが、今上天皇の信頼を失った彼は海軍の重要な決定事項に関しての権限は剥奪された。

更に、遠藤に斬り掛かった先輩だけでなく先輩の親や親族も、今回の件で今上天皇の逆鱗に触れてしまった結果、地位や財産を全て失う事になり先輩の家は没落してしまった・・・。


この事件から、海軍の中では遠藤を怒らせてはいけないという『暗黙の了承』が出来上がった。

ちなみに、伏見宮元帥もまた、遠藤に怯える様になってしまい、強気の発言がなくなってしまった・・・。


その後、遠藤は軍人になる為に勉学に励み、海軍兵学校在学中に短期留学であるが、アメリカやイギリスに渡った。

更には、海軍兵学校在学中に才能や知識を磨きあげるだけでなく、人脈も築き上げてきた。

そんな遠藤も冷静に世の中を分析して、日本が暴走し悪魔の手先であるナチスドイツと手を組むのには大反対だった。

しかし、三国軍事同盟が締結した事から、日本はアメリカやイギリスとの戦争は時間の問題だった・・・。


そして、遠藤はただ勝つのではなく、短期戦で終わらせるだけでなく、アメリカの面子を保ちながらの講和、すなわち『より良い負け』を導き出した。

そして、遠藤は山本達よりも先に今上天皇に謁見した中で、この事を打ち明けた。

その場にいた木戸と鈴木も驚愕したが、日本の破滅を避けるには『より良い負け』しかないと三人も腹を括ったのであった・・・。


遠藤が異例の速さで昇進したのも、今上天皇、山本等が全面的にバックアップしてくれていたからだった。


また、少数であるが陸軍にも、遠藤の考えを支持し、協力や連携を進める将校達がいたが、悪い方での『独断専行』や『強硬派』、『親独派』が多い為に現在は水面下で秘かに動いていた。


とは言え、遠藤にとっては頼もしい味方や仲間が皇族、一部の財界人、海軍、陸軍にいるのは、心強かったのであった。


その中でも、『より良い負け』による講和を目指す遠藤を支持してくれている今上天皇の存在は、一番大きいのであった・・・・。



____________________


今上天皇と遠藤の繋がりは意外な経緯でしたね・・・・。

※この辺りのツッコミやご指摘は、ご了承下さい<(_ _)>


今上天皇の存在は、確かに頼もしいですね。



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