第11話 真珠湾の『違和感』

ー 1941年12月8日 真珠湾上空 ー


(おかしい・・・・。)

空母『翔鶴』飛行隊長の高橋赫一(たかはし かくいち)少佐は、違和感を感じていた。

既に真珠湾内では、南雲が送り込んだ第一次攻撃隊により、艦船に多数の被害が出ていた。

そんな中で、自分達の攻撃隊が現れたのに迎撃戦闘機が現れる事は無かった。

また、対空砲は稼働出来る対空砲は自分達に対して砲撃していたが、『焼け石に水』状態だった・・・・・。

(気になるが、今は攻撃に集中しよう・・・・。)

作戦内容に変更は無い事から、高橋達は基地施設、工場施設、燃料タンク施設、飛行場への攻撃を開始した。

九九式艦爆隊や九七式艦攻隊による爆撃により、攻撃目標となっていた施設は次々と破壊または被害を出し始めていた。

遠藤が放った第一次攻撃隊は予定通り攻撃を行っていた。


だが、ホイラー飛行場とヒッカム飛行場に向かった攻撃隊は高橋が感じた『違和感』の正体に気付くことになる。

高橋と同じように『違和感』を感じたのは、空母『舞鶴』所属の零戦パイロット鬼丸武志(おにまる たけし)中尉だ。

鬼丸はホイラー飛行場上空で地上を確認すると、南雲が放った第一次攻撃隊による攻撃で破壊された機体を確認したが、それはごく少数だった。

だが、無事な機体はどこにも見当たらなかった。

(迎撃戦闘機がいない理由は納得したが、無事な機体はどこなんだ・・・・。)

直後、ヒッカム飛行場に向かっていた空母『紅鶴』所属の攻撃隊からも同じ状況であるという連絡がきた。

(まさか・・・・!?)

鬼丸は一つの答えに辿り着いた。

鬼丸は、攻撃を終えて近くにいた1機の九七式艦攻に近付き、無線で伝えた。

「若大将に打電しろっ!!ホイラー飛行場とヒッカム飛行場の航空戦力は、第一航空艦隊に向かっているとなっ!!!」


ー 戦艦『土佐』艦橋内 ー


鬼丸が依頼した九七式艦攻からの報せは、遠藤だけでなく鼓舞を始めとした幕僚達にも衝撃を与えた。

「迂闊だったな・・・・。役割分担をしていたとは言え、南雲さんの攻撃隊が艦船に集中し過ぎたな・・・・。」

「南雲さんは若大将にライバル意識を強く抱いていましたが、まさか、ここまで攻撃目標が偏り過ぎてしまうとは・・・・。」

遠藤と鼓舞が話し合っている中、久我が淵田に尋ねた。

「淵田、今現在、南雲さんは何をしていると思う?」

「そうやな・・・・、あの人のことだから第二次攻撃隊の発艦準備をしているだろうな・・・・。」

そこに、風間と遠山も加わった。

「だとしたら、今頃、4隻の空母の飛行甲板上は魚雷や爆弾を搭載した艦載機で一杯だ・・・・。」

「そこにアメリカの攻撃隊が現れたら・・・・。拙いですね、南雲さんの艦隊は我々と違って対空対策は悪いです!!」


久我達の意見はもっともだった。

遠藤は、敵からの攻撃に対する防空対策を南雲達にも伝えたが、南雲は聞き入れなかった。

「よし、平文で良いから今すぐ・・・・。」

遠藤が言い終わる前に、第一艦橋内に通信兵の一人が駆け込んできた。

「長官、第二航空戦隊の山口司令官から緊急伝ですっ!!」

通信兵が握っていた電文を佐野が受け取ったが、直後に佐野の顔は顔面蒼白になった。

佐野はすぐに遠藤に電文を渡し、それを読んだ遠藤だけでなく鼓舞達も言葉を失った・・・・。


電文には、

『敵航空勢力ノ攻撃ニヨリ【赤城】オヨビ【加賀】大破炎上【蒼龍】中破』

と記されていた・・・・。



____________________


南雲達による偏り過ぎた攻撃の結果、アメリカの反撃を受けた第一航空艦隊。


何故、南雲達はここまでの被害を許してしまったのか・・・・。


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