第28話 鼓舞の元部下二人と、佐野の元上司と友人
ー 海軍省・通称赤レンガ内 ー
東條との話し合い後、遠藤は海軍省に来て早々に永野達と今作戦の報告やある程度の会話して、部屋を出た遠藤はある人物達に会いに行こうとしていたが、途中で別の連中に出くわした。
「これはこれは若大将殿、こちらにどの様な用件でいらしたのですか?」
ニヤニヤしながら言ってきたのは、軍令部第一部一課先任参謀の石島中佐と取り巻き連中だった。
彼は典型的なエリート意識が強いだけではなく、『ある理由』から遠藤に不快感を抱いていた。
それは、遠藤の元で参謀長を務める鼓舞の事だった。
鼓舞は普段、『昼行灯』と揶揄されるくらい、仕事面の実績が無かったことから石島は鼓舞を見下していた。
そんな中で、樋端の推薦があったとは言え、遠藤の率いる第二航空艦隊の参謀長だけではなく少将に昇進したから、エリート意識が強い石島には屈辱だった。
実際は、鼓舞が『昼行灯』と呼ばれていたのは、揉め事を嫌がる鼓舞が『能ある鷹は爪を隠す』をしていただけだったのだが・・・。
それを知らない石島に出来るのは、この様な嫌味程度だけだった。
石島の嫌味な言葉に呆れながら、遠藤は鬱陶しい石島達に鉄槌を下す事にした。
「石島、はっきり言うが、お前らの態度は良い年した大人の醜い嫉妬だっ!!」
遠藤の言葉に、石島と取り巻き連中はたじろいだ。
そんな連中に遠藤は追い討ちを掛けた。
「正直、典型的なマニュアル通りの仕事しか出来ないお前達の方が『無能中の無能』だ。今は戦時中だから、臨機応変な対応が出来る人材が必要だ。」
「臨機応変な対応も出来ずにただ嫌味を言っている暇があるのならば、前線で腐った性根と頭でっかちな脳みそも叩き直して貰ったらどうだ。役立たず共がっ!!」
遠藤から無能以下と言われて石島の顔は、最早、茹で蛸みたいに真っ赤になっていた。
しかし、石島が遠藤に怒りをぶつける前に石島と取り巻き連中は。ようやく周りの将校達や士官達の自分達を見る目が冷たい事に気が付いた。
石島と取り巻き連中は、慌てて立ち去ろうとしたが、
「おいっ!逃げる前にする事が有るんじゃあないか?」
遠藤の言葉を受けて、石島と取り巻き連中は
遠藤に頭を下げなから、「申し訳ございませんでした・・・・。」と言って逃げる様に立ち去った。
この出来事は、『自称エリートの無能が遠藤に喧嘩を売る事は、全てを失う』と言われるようになって、自称エリート達は遠藤に恐怖する様になった。
実際、石島と取り巻き連中は後に、重要な仕事を身勝手な先入観と些細なミスで大問題を起こしてしまい、失脚した上にそれぞれ最前線の激戦地に飛ばされてしまう事になった。
その後の、石島と取り巻き連中の行方は、誰も知らない・・・。
ー 赤レンガ 食堂室 ー
自称エリートの石島を撃退した遠藤は、赤レンガの食堂に来ていた。
そこには、4人の士官が遠藤を待っていた。
「済まない。馬鹿達を黙らせる為に時間を潰してしまった。」
遠藤に声を掛けられた4人は、立ち上がり一斉に敬礼をした。
「若大将、初戦の活躍と勝利、おめでとうございますっ!!しかし、聞きましたよ?赤レンガに来て早々、自称エリート連中を撃退とは相変わらずですね。」
そう言って笑ったのは、阿曇大佐だった。
阿雲は、現在、軍令部第二部四課に所属している。
阿雲は、後に発足する『海上護衛艦隊』や遠藤が真珠湾奇襲攻撃作戦で手配した後方支援艦隊などを研究&計画していた。
「佐野も若大将に鍛えて頂き、嬉しいですね。」
阿雲がそう言ったのに対して、隣にいた士官は呆れながら言った。
「私の所には、佐野からの愚痴が結構来ていますよ。」
そう言ったのは、佐野の兵学校同期の友人で、航空本部に所属している石井由吉(いしい よしきち)大尉だった。
石井は現在、九九式艦上爆撃機の後継機に関する開発に携わっている。
「それと、鼓舞からの伝言だ。『時間が出来たら、一緒に飲もう』とな。」
遠藤は、二人の士官に言った。
「あの人は、見た目に反してあまり飲めなかったような・・・・。」
「愚痴を言うかも・・・・。」
鼓舞に対して、そんな失礼な事を言ったのは、鼓舞の元部下だった長津田謙二(ながつだ けんじ)大尉と奥奈光太郎(おうな こうたろう)大尉だ。
鼓舞の隠れた才能を知っているために石島たちから疎まれていた。
その為に、逆恨みしていた石島たちの嫌がらせが無いように、遠藤の計らいで今は阿雲の部下になっている。
「久しぶりの日本食だ。食事をしながら、話そう。」
そう言って、遠藤達は食事をしながら話を始めた。
「阿雲大佐、件の『海上護衛艦隊』の話は順調か?」
遠藤の質問に、阿雲は上機嫌で答えた。
「はい。駆逐艦は老朽艦をしばらくは使いますが、いずれは若大将が言っている建造期間を短縮した松型駆逐艦が揃ったら、そちらに護衛駆逐艦を担って貰います。」
遠藤と阿雲が言っていた松型駆逐艦は、戦時量産型駆逐艦で1隻の建造期間は5ヶ月~6ヶ月で完成出来る様に設計された駆逐艦である。
従来は、艦隊戦の為に魚雷管を設置するが、松型では魚雷管は撤去され、ある装備が取り付けられる。
その装備は老朽艦だけでなくテストを兼ねて、既に第二航空艦隊の一部の艦船に装備されていた。
そこで、奥奈と長津田が遠藤に報告した。
「若大将、例の装備だけではなく、改良型のソナーも試作は良好なので、量産化して装備します。」
「それと若大将。海上護衛艦隊に回す『大鷹型』護衛空母ですが、問題は油圧式カタパルトですね。現在、開発中ですが油圧系統に問題が有ります。」
『大鷹型』護衛空母は、客船をベースにした小型空母だが、従来の空母と違い飛行甲板が短いので艦載機の発艦が無理であった。
その為『大鷹型』は、艦載機の発艦が出来る様に油圧式カタパルトが組み込まれる事になった。
ただ、長津田が言うように油圧系統に問題があって、連続で使うには未だに難点があった。
遠藤は少し考えてから答えた。
「その件については、少し待ってくれ。もう少ししたら、必ず目処が立つよ。」
次に遠藤は、石井に聞いた。
「石井の方は、九九式艦爆の後継機開発だけど、特にエンジンは順調か?」
それに対して、石井は
「はい。初めての液冷エンジンだから、扱いが難しい部分も有りますが、その打開策については、油圧式カタパルトと関係が有りますね?」
石井の言いたい事に遠藤も気付いた。
「察しが良いな、石井。君の言う通り、その点は熟練のエンジニア達が必要だが、これまでは彼等も前線に徴兵されていたが、海軍だけではなく陸軍でも彼等の徴兵免除を行う様に先刻、東條さんにも進言した。」
遠藤の話を聞いて、4人も驚いた。
「東條首相も動かすとは・・・。確かに、陸海軍双方の熟練者達を含めたエンジニア達の徴兵免除は大きいですね。」
阿雲も素直に驚嘆した。
それは、長津田、奥奈、石井も同じだった。
そして、遠藤は石井に言った。
「とは言え、石井。液冷エンジンだけではなく空冷エンジンも派生機として開発するよう進言した方が良い。」
石井は首を傾げながら聞いた。
「何故ですか?液冷エンジンが上手く行けば、それで良いのでは?」
「石井の言い分は最もだが、液冷エンジンは場所によっては整備が難しい部分がある。だから、扱い慣れている空冷エンジンも用意した方が良い。」
遠藤の指摘を聞いて、石井も納得した。
「分かりました。上層部に進言します。」
そんな中で奥奈は、今後の戦艦改装計画について、遠藤に尋ねてきた。
そこで遠藤は、伊勢型戦艦の改装状況を話した。
そして、『山城』と『扶桑』は改装が厳しく、空母として改装が進んでいることをはなした。
「やはり、『山城』と『扶桑』は、空母として改装ですか・・・。」
元鉄砲屋だから、『山城』と『扶桑』の空母化は寂しかったらしい。
一方で長津田は、阿賀野型防空巡洋艦と秋月型防空駆逐艦について遠藤に尋ねた。
それに対して遠藤は、説明した。
「阿賀野型防空巡洋艦と秋月型防空駆逐艦は魚雷管を撤廃して、速射率の高い対空砲や対空機銃を搭載する。この二種類の防空艦は、艦隊の防空の要に必要だからな。」
更に遠藤は言った。
「今回、計画を前倒しにして阿賀野型防空巡洋艦2隻と秋月型防空駆逐艦4隻を建造して第二航空艦隊に配備したが、第一航空艦隊と違って敵襲が無かったからな・・・・。」
「こちらに関しては、数回の海上訓練でデータ収集が必要だな・・・・。」
やがて、食事をしに来た士官達が増え始めたので、遠藤たちは席を立った。
「詳しい続きは、別室で話そう。」
そう言って食事を終えた遠藤たちは食堂室を後にした。
____________________
史実では海上護衛に関しては、重要視されていませんでした・・・・。
物語の中では、阿雲大佐が『海上護衛艦隊』として計画を進めています。
また、真珠湾奇襲攻撃計画でも遠藤は第二航空艦隊の後方支援艦隊を編成していました。
『持てる戦力は全てを活用する』と考えている遠藤たちは海軍にとっては、逞しいですね。
そして、次回はいよいよ『あの船』が登場します。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます