第29話 産声を上げた『世界最大の空母』

ー広島県 呉 海軍工廠ー


呉の海軍工廠近くには、1隻の艦船が浮かんでいた。

本来ならば、日本海軍最大の戦艦として産声を上げるはずだった『一号艦』改め大鳳型空母の1番艦である『大鳳』だった。


海に浮かぶ『大鳳』には電探や新たな対空兵装も装備されていた。

そして、長崎の長崎造船所で同じ頃に進水した大鳳型空母の2番艦である『白鳳』も同様に電探や新たな対空兵装が装備されている。

帝都東京から呉に戻っていた遠藤は『大鳳』を見ながら苦笑いを浮かべていた。

(当時、否定したあの『一号艦』と『二号艦』が、空母として産声を上げたのは、皮肉だな・・・。)

遠藤が内心で苦笑いしながら思ったのも、無理はなかった。


本来、『一号艦』は『大和』、『二号艦』は『武蔵』と命名されて46cm砲を装備した世界最大の戦艦になる筈だった。

だけど、五年前に遠藤が『一号艦』と『二号艦』の欠点等を指摘した事で、戦艦としての『一号艦』と『二号艦』の戦艦建造計画は白紙になった。


だが、遠藤は『一号艦』と『二号艦』の船体については、船体の改善をした上で空母として建造すべきだと上層部に進言して、各方面に奔走して掛け合うなどした事で2隻は空母として『一号艦』は広島の呉海軍工廠で、『二号艦』は長崎の長崎造船所で建造が行われた。

此により、川崎造船所で予定されていた初の装甲空母『大鳳』は中止となり、結果、2隻は大鳳型空母として『一号艦』は『大鳳』、『二号艦』は『白鳳』と命名された。


他にも、大鳳型空母にも新しい装備が施されていた。

艦橋は、完成間近の飛鷹型空母と同じ艦橋と煙突が一体化したアイランド型艦橋になっている。

また、火災防止・消火作業などのダメージコントロール面の強化が行われている。

他にも特徴としては、エレベーターは従来型のインボード式(飛行甲板の前後に設置)の他に、船体中央部の左舷側ににデッキサイド式のものを装備し、計3基となった。

これは、敵の攻撃で飛行甲板内にあるエレベーターが使えなくなった場合に備えての意味もあった。

更に、火災防止・消火作業などのダメージコントロール面のメリットから、格納庫は一部が開放式格納庫になっていた。

加えて新しい試みとして、艦首において中空に突き出た従来のような飛行甲板では巨大波に突っ込んだときに圧壊しやすくなるため、同時期のイギリスの空母『アークロイヤル』の様に艦首外板を飛行甲板まで延長するハリケーン・バウ(エンクローズド・バウ)という形式をとり、艦首部と甲板を一体化させた。


もう一つの最大の特徴は、搭載機数だ。

翔鶴型空母の搭載機数は、常用機で72機、補用機12機の計84機である。

しかし、大鳳型空母は『一号艦』と『二号艦』の船体がベースの為、格納庫が広く常用機が110機で捕用機が12機の合計122機となった。

そして、飛行甲板は建造が中止になった大鳳型空母みたいな装甲の案もあったが、搭載機数の減少や艦がトップヘヴィーとなって艦が転覆しやすくなる等の懸案事項によって見送られて、従来の木製飛行甲板案が採用された。

正に、大鳳型空母は『世界最大の空母』として誕生した。


現在、調整や度重なる訓練の準備に追われている『大鳳』を見ている遠藤だが、本来ならば側にいるはずだった鼓舞と草鹿の二人は今後の調達などで忙しいために不在だった。

そして、不在の鼓舞と草鹿の代わりにいたのは、

「どうですか二人とも、『大鳳』の感想は。」

「そうだな、世界最大の戦艦になるはずだった『一号艦』と『二号艦』が世界最大の空母として誕生したのは、私からしたら嬉しい限りだ。」

「確かに、『大鳳』を見たら、同じ大型艦でもかつて私が指揮していた『赤城』と印象が異なりますね・・・・。」

遠藤が声をかけた『赤城』と『加賀』の艦長だった長谷川と岡田は、素直に感想を述べた。


本来ならば、二人とも空母を失った責任を問われて予備役編入だったが、遠藤が山本だけでなく嶋田と永野に掛け合った。

「空母の艦長を務めて真珠湾で酸いも甘いも知り尽くしています。その二人を予備役編入にするのは、大きな過ちです。」

「だからこそ、二人には竣工した『大鳳』と『白鳳』の艦長に抜擢すべきです。」

遠藤の意見を聞いた山本、嶋田、永野も人命と人材の重要性を理解していたから、遠藤の意見が受け入れられて長谷川は『大鳳』の艦長に、そして岡田は『白鳳』の艦長として着任した。

また、『赤城』と『加賀』の部下や乗組員たちも2隻にそれぞれ配属となった。

二人とも遠藤の口添えがあったとはいえ、『大鳳』と『白鳳』の艦長に任命された時は涙を流して喜んだ。


そこで長谷川と岡田は、気になることを遠藤に尋ねた。

「しかし、エレベーターを外部に剥き出しにした形で設置とは・・・、斬新なアイディアですね・・・・。」

「そうだな、それによく見ると飛行甲板の下は一部が解放式にしているな・・・・。」

 そんな二人の感想と疑問に、遠藤が説明した。

「その理由は、格納庫内対策です。これまでの空母は所謂、密閉型。もし、格納庫内にガスなどが充満して、些細な火気が接したらどうなりますか?」

それを聞いた長谷川と岡田は、顔を青ざめた。

「そうなったら、大爆発を起こして、最悪、空母が沈むな・・・。」

「それを可能な限り、防ぐ為の左舷のエレベーターであり、一部の格納庫解放式です。」

二人にそう言って、遠藤は説明を終えた。


「以前にも話しましたが、日本には余裕が無いので、空母だけでなく戦艦・巡洋艦・駆逐艦・潜水艦・小型艦や補給などの艦船もフル活用します。勿論、航空機動艦隊としても暴れて貰いますよ。」

長谷川は、他の改装を始めた他の艦艇について遠藤に尋ねた。

「他の艦艇は、どうなっているのですか?」

遠藤は、手にしていた書類を確認してから答えた。

「現時点では、第二航空艦隊を優先する形になるけど、他の戦艦、空母、巡洋艦、駆逐艦なども電探や新しい対空兵装を設置する。」

「また、『翔鶴』、『瑞鶴』、『舞鶴』、『紅鶴』は、大鳳型空母や飛鷹型空母と同じようにアイランド型艦橋にするため現在は改装中です。」

遠藤の答えに、長谷川と岡田も納得した。


そこで、岡田は気になる事を遠藤に尋ねた。

「何故、第二航空艦隊を中心に改装を行っているのですか?」

「それに、『大鳳』と『白鳳』も優先しているな・・・・。」

岡田の言う通り、改装や最終艤装については第二航空艦隊以外では第七航空戦隊に配属予定の『大鳳』と『白鳳』だけだった。

そんな二人の疑問に遠藤は、

「用心に越した事はないですから。」

と答えるだけだった。


(そろそろ、アメリカが一発逆転の奇策を仕掛けてくるかもしれないからな・・・。)

遠藤は、内心で今後のアメリカの行動に懸念を抱いていた・・・・。


ー 1942年1月 アメリカ西海岸のとある海域 ー


アメリカ西海岸のとある海域に、清水が率いる第19潜水隊の巡潜乙型潜水艦『伊号第五十五潜水艦』、『伊号第五十六潜水艦』、『伊号第五十七潜水艦』、『伊号第五十八潜水艦』

の4隻が海中にて息を潜めていた。

第19潜水隊司令官の清水は、自分の時計を見ながら待機していた。

「そろそろだな・・・。」


清水達は、真珠湾作戦が終了した直後、遠藤の命を受けて補給を受けてから西海岸に向かい、アメリカ西海岸を航行する貨物船などを雷撃で仕掛けていた。

所謂、通商破壊だが、それだけでなく真珠湾と同様に、日本人に出来る訳が無いという事をやり遂げて、アメリカ国民達の心に揺さぶりを掛ける狙いがあった。

清水達が息を潜める中、潜望鏡で航行している貨物船3隻を発見し、清水は各艦に通達した。

「各艦、魚雷装填後に、魚雷を発射せよ。」

清水達に捕捉された貨物船3隻は、もはや、逃れる事は不可能だった・・・・。


ー アメリカのとある海軍施設 ー


アメリカ海軍・作戦部の作戦参謀フランシス・S・ロー大佐は、頭を抱えていた。

初戦で真珠湾が攻撃された結果、基地施設の壊滅、ハルゼー艦隊の壊滅、アメリカ太平洋艦隊の壊滅でもかなりのダメージだったが、最近、別の被害が続出していたからだった。


それは、アメリカ西海岸で多発しているタンカーや貨物船に被害が続出していた事だ。

清水光美中将率いる巡潜乙型潜水艦4隻による通商破壊で結果、タンカーや貨物船などを8隻撃沈、5隻大破されていた。

これにより、『日本にハワイやアメリカ本土を攻撃する事は不可能』という安全神話は崩壊してしまい、特にアメリカ西海岸に在住するアメリカ国民達は、いつ日本軍の攻撃を受けるか、怯える様になった。

そんなアメリカ西海岸のアメリカ国民達を中心に世論がザワつき始める中、ロー大佐は、アメリカ軍の反撃の狼煙を上げたかったが、これと言ったアイディアが出てこなかった・・・。


そんな中で、ロー大佐は一つの案を思い付いた。

「この案が成功すれば、軍や国民達の士気を高める事が出来る筈だっ!!しかし、この案は我々だけでは無理だ・・・・。」

だが、ロー大佐は『ある人物』ならば、可能だと確信した。

そして、ロー大佐は自分の案件を『ある人物』に提案しに行った。


ロー大佐が会いに行った『ある人物』、合衆国艦隊司令長官アーネスト・J・キング大将は、表情一つ変えずにロー大佐の提案を聞いていた。

ロー大佐は内心、震えていた。

何故ならば、キング長官の渾名は『ニトログリセリン(すぐに怒りやすい)』や『シャープ・エッジ(鋭い刃の様に冷徹)』があるからだ。

キング長官は、ロー大佐の提案内容を読み終えた後で、

「この案件は、私が預かって陸軍に相談する。下がって良いぞ。」

そう言われて、ロー大佐は退室した。


キング長官は、少し考え込んでから陸軍航空司令官ヘンリー・H・アーノルド中将に連絡してた。

「ヘンリー、ジャップに対しての画期的な反攻計画があるが、どうだ?」


ロー大佐が提案した計画内容は、

『帝都東京を爆撃する』だった。


遠藤が懸念していた事が、現実になりつつあった・・・・。



____________________


遠藤が懸念したとおり、アメリカは奇想天外の作戦で日本に反撃をしようとしています。


果たして、どのようになるのか・・・・😓

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