第18話 第二航空艦隊に齎された『幸運』
ー 戦艦『土佐』作戦会議室 ー
戦艦『土佐』の会議室内の空気は、重苦しい雰囲気だった。
今し方、第二航空艦隊と合流した第二航空戦隊の山口司令官たちから、『赤城』と『加賀』の沈没を聞かされたからだった・・・・。
遠藤は会議室で鼓舞たちから第一航空艦隊の詳しい被害状況を聞いていた。
「そうか・・・・、『赤城』と『加賀』が・・・・。」
主力空母であり、親しみの長かった『赤城』と『加賀』が沈んだことに悲しいものを感じていた・・・・。
「2隻を失ったのは残念やけど、長谷川艦長や岡田艦長たちを始め多くのパイロットたちや乗組員たちが退艦したそうです。」
航空乙参謀に着任する前まで『赤城』に所属していた淵田も報告しながら、どこか悲しいのを感じていた・・・・。
「若大将、いつまでも悲しみに浸っている訳にはいきません。我々は、『赤城』と『加賀』だけでなく2隻と供に戦死したパイロットたちや乗組員たちの仇討ちをすべきです。」
鼓舞の言葉を聞かされた遠藤たちも、気持ちを切り替えることにした。
「そうだな、鼓舞の言う通りだ。俺たちは、第二次攻撃隊で再び、真珠湾を攻撃しよう。」
「鼓舞、少し弱気になっていた・・・・。お前の言葉に救われたよ。」
遠藤がそう言うと、鼓舞が笑みを浮かべながら言った。
「落ち込む若大将なんて、逆に怖いですよ。」
鼓舞の言葉を聞いた幕僚たちも、思わず吹き出してしまった。
雰囲気が和らいだ中で遠藤は久我と淵田に聞いた。
「それで、第二次攻撃隊の準備はどうだ?」
「はい、現時点で4隻の空母は第二次攻撃隊の発艦準備は、間もなく完了します。」
「第二次攻撃隊は、第一次攻撃隊と同じで零戦100機、九九式艦爆59機、九七式艦攻74機の合計233機や。」
「あと、前回と同じ九九式艦爆と九七式艦攻は、全て爆装にしています。」
次に遠藤は、風間と遠山に聞いた。
「風間と遠山、『飛龍』と『蒼龍』は?」
「2隻については、現在、『香取』と『鹿島』による修復作業中で、『飛龍』は30分くらいで完了します。」
「ですが、『蒼龍』は飛行甲板前部の穴を塞いでからの応急処置を行いますが、こちらは1時間くらい掛かります・・・・。」
風間と遠山の報告を聞いた遠藤は、少し考え込んだ。
(修復作業を終えた『飛龍』と『蒼龍』だが、山口さんたちも『赤城』と『加賀』の仇討ちをと意気込んでいるだろうからな・・・・。やはり、修復作業が完了したら第三次攻撃隊として出撃させるべきか・・・・。)
遠藤が考え込んでいた時、通信室に行っていた佐野が会議室内に慌ててやってきた。
「若大将、これを・・・・。周辺海域を偵察するために発艦していた水上偵察機隊の内の1機で重巡『摩耶』所属の水上偵察機からです・・・・。」
そう言って遠藤に電文を渡す佐野は、興奮を必死に抑えている感じだった・・・・。
鼓舞たちが注目する中、電文を読んだ遠藤は言った。
「・・・・、どうやら俺たち『蒼天の艦隊』に幸運の女神が微笑んでくれているようだぞ・・・・。」
ー 真珠湾 南方の海域上空 ー
真珠湾の南方から少し離れた空に1機の零戦が飛んでいた。
第六航空戦隊指揮下の改翔鶴型空母『舞鶴』所属の零戦パイロット羽田修二(はねだ しゅうじ)少尉は、途方に暮れていた。
何故ならば、彼は『迷子』になっていたからだ。
羽田は仲間の零戦隊と共に、第一次攻撃を終えて母艦である空母『舞鶴』に帰投しようとしていたが、アメリカのF4Fワイルドキャット隊の襲撃を受けて乱戦状態となった。
何とかワイルドキャット隊を撃退したが、羽田の零戦だけが乱戦の影響から仲間たちの機体とはぐれてしまい迷子になってしまった。
連絡を取ろうにも、無線機が壊れてしまい羽田は途方に暮れてしまって現在に至るのだった・・・。
暫くして、羽田は前方に複数の機影が見えた事から、友軍の零戦隊を見つけたと喜んだ。
しかし、羽田の喜びはすぐに絶望に変わった。
前方にいたのは、アメリカのF4Fワイルドキャットの編隊だったからだ。
羽田は、絶望感から怒りに変わった。
「お前らのせいで、俺は迷子になってしまったっ!!この償いは、お前らを海の藻屑にする事で償って貰うぞっ!!」
そう言って羽田は機銃を撃とうとしたが、ある違和感に気付いて止めた。
その違和感は、自分の零戦や敵のワイルドキャット隊のいる位置だ。
太陽の位置と、ワイルドキャット隊が飛んでいる方角から、ワイルドキャット隊は真珠湾とは真逆に飛んでいた。
そこで羽田は、ある事を思い出した。
出撃前に空母『舞鶴』の格納庫内で、同僚達の話から直前まで真珠湾にいた空母『エンタープライズ』と空母『レキシントン』が真珠湾から離れて不在だという事だった。
(あの格納庫での話が本当ならば、ワイルドキャット隊が向かう先に空母『エンタープライズ』か空母『レキシントン』がいるかも知れない・・・・。)
そして、羽田はワイルドキャット隊に気付かない様にしながら、尾行する事にした。
羽田は付かず離れずの形で、ワイルドキャット隊を尾行していた。
間もなくしてワイルドキャット隊が降下し始めた事から、羽田も機体を降下すると雲の切れ端から空母艦隊を発見した。
それぞれ、巡洋艦1隻と駆逐艦5隻に守られている2隻の空母がいた。
シルエットから、空母『エンタープライズ』と空母『レキシントン』だった。
思わぬ敵空母2隻を発見した羽田は興奮覚めやらぬ中で、一旦、海域を離れて第二航空艦隊との合流を目指したが、羽田には欠点があった。
羽田は計算などが苦手で、速攻で方角を調べるのが出来なかったのだった。
だが、そんな羽田に救世主が現れた。
第二航空艦隊の周辺海域を偵察するために発艦していた偵察機の内の1機である重巡『摩耶』から発艦していた水上偵察機だった。
羽田は早速、『摩耶』所属の水上偵察機に接触する事が出来た。
通信機が使えない事から羽田は携帯用の黒板に『我、敵空母ヲ発見』と書いて、『摩耶』の偵察機のパイロット達に見せた。
偵察機のパイロット達もすぐに携帯用黒板で『敵空母ノ海域マデノ案内ヲ頼ム』と依頼した。
こうして、羽田の零戦が誘導する形で、『摩耶』の偵察機を案内する事になった。
やがて、海域に到着して空母『エンタープライズ』と空母『レキシントン』を含むアメリカ太平洋艦隊の航空艦隊を確認したことで『摩耶』の偵察機のパイロット達は第二航空艦隊に打電を開始した。
だが、アメリカ側も羽田達に気付き、ワイルドキャット隊を急遽、出撃させて迎撃を仕掛けてきた。
羽田はたった1機で、迎撃に現れたワイルドキャット隊10機で挑む形になった。
状況は不利だったが、零戦のスピードと旋回能力を発揮しながら、次々とワイルドキャット隊を翻弄させて4機を撃墜する事が出来た。
しかし、やがて羽田の零戦は銃弾が弾切れになってしまった。
そんな中、1機のワイルドキャットが『摩耶』の偵察機を攻撃しようとしていた。
弾切れの中、羽田は零戦でワイルドキャットに体当たりをして『摩耶』の偵察機を守った。
羽田の零戦がワイルドキャットに体当たりをして、自分達を守ってくれていたのを目撃した『摩耶』の偵察機のパイロット達は羽田の安否を気にしていた。
だが、羽田が体当たり直前にパラシュートで脱出したのをみて安堵した。
彼等はパラシュートで脱出した羽田に敬礼しながら、呟いた。
「後で必ず、助けに来ますので、どうか無事でいて下さい・・・。」
そうして、『摩耶』の偵察機は現場を離れつつも、打電を続けた・・・。
その打電内容が、今、第二航空艦隊に届いたのだった・・・・。
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思わぬ『棚からぼた餅』で真珠湾に不在だった空母『エンタープライズ』と空母『レキシントン』を発見した羽田少尉。
この発見は、若大将が言う通り第二航空艦隊に幸運を齎しましたね・・・・。
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