第19話 敵艦隊の『牙』を奪えっ!!

ー 戦艦『土佐』会議室 ー


重巡『摩耶』の水上偵察機から齎された空母『エンタープライズ』と空母『レキシントン』発見の報せ・・・・。


遠藤の言う通り、幸運の女神が第二航空艦隊に微笑んでいた。

「若大将っ!!第二次攻撃目標は・・・!?」

久我の言葉に遠藤は満面に笑みを浮かべながら答えた。

「勿論だ。だが、俺たちが生み出した『新たな航空戦術』に倣って、最初に2隻を護衛する巡洋艦や駆逐艦の『牙』を奪うっ!!」

遠藤の言葉の意味を理解している鼓舞たちも、考えは同じだった。


そんな中、淵田が声を上げた。

「若大将っ!!約束、忘れてへんよなっ!?」

「忘れる訳ないだろう、淵田。」

「すぐに角田さんに連絡して予備機を手配する。」

遠藤の言葉を聞いて、淵田は出撃のチャンス到来に思わずガッツポーズをした。

「それを聞いて、安心したで。」

「ただし、淵田。お前の出撃は、第三次攻撃隊だ。その時に、『エンタープライズ』と『レキシントン』を攻撃する。」

「了解やっ!!」

淵田はすぐに会議室を飛び出して、第六航空戦隊所属の空母『舞鶴』に向かった。

皆が淵田の行動に苦笑いする中、遠藤は宣言した。

「我々、第二航空艦隊の第二次攻撃隊の目標は、敵空母を護衛する巡洋艦や駆逐艦だ。1時間後に第二次攻撃隊を発艦させよう。」

遠藤の言葉に、皆が頷いた。


第二次攻撃隊の発艦に向けて最終確認をしている中で、風間が遠藤に尋ねた。

「若大将、第二次攻撃隊の装備は現状のままで?」

「そうだ。爆弾だけでの撃沈は厳しいけど、少なくとも『牙』を奪えるし、敵の足止めになる。」

「分かりました。」

そんな中、遠山が素直に感想を述べた。

「しかし、敵空母艦隊はかなり迂回していましたね。」

第一航空艦隊と第二航空艦隊が真珠湾に向かう中、空母『エンタープライズ』はウェークの飛行基地に航空機の補充に向かい、空母『レキシントン』はミッドウェー島へ航空機の補充に向かっていて真珠湾には不在だった。

それぞれ、航空機の補充を終えた直後に真珠湾が日本の攻撃を受けた報せが届き、合流後に大きく迂回して日本の攻撃を回避して真珠湾に帰航するつもりだったみたいだ。

鼓舞が素直に感想を言った。

「羽田少尉が発見してくれなかったら、2隻の空母を逃してしまうところだったな・・・・。」

鼓舞の感想に皆が同意するように頷く中、会議室のドアがノックされた。

「入って良いぞ。」

遠藤の言葉を聞いて、若い士官が入室してきた。

「どうした、何があった?」

遠藤の問いに若い士官は、戸惑いながらも答えた。

「それが、第二航空戦隊の山口司令官たちが来艦してきました・・・・。」

若い士官の報せを聞いた遠藤たちは、思わず顔を見合わせた・・・・。


ー 戦艦『土佐』食堂室 ー


間もなく第二次攻撃隊が発艦するため、鼓舞たちに任せたあと、遠藤は一人で食堂室に向かった。

遠藤が食堂室内に入ると、そこには山口だけでなく、草鹿、源田、村田の他に空母『蒼龍』所属で『艦上爆撃機の神様』と呼ばれる飛行隊長の江草 隆繁(えぐさ たかしげ)大尉と空母『飛龍』所属で九七式艦攻パイロットで飛行隊長を務める友永 丈市(ともなが じょういち)大尉もいた。

見た目、草鹿、源田、村田は爆風を受けたりしたのか煤まみれだったが、それ以上に全員の精神的ダメージが酷いみたいだった。


遠藤は軽く敬礼をしながら、席に座った。

「わざわざお越し頂き、有り難うございます。草鹿さん、南雲さんは・・・・?」

「南雲さんは看護兵の手当てで命に別状はないが、安静が必要で軽巡『阿武隈』に移乗しました。また、他の幕僚たちも怪我が酷いので同じく『阿武隈』に移乗しました。」

「また、『赤城』と『加賀』の乗組員たちとパイロットたちは『比叡』と『霧島』などに収容された上で、『飛龍』、『蒼龍』の護衛で同行した『谷風』、『浦風』以外は本国に帰航することになりました・・・・。」

草鹿が報告を終えると、ここで山口が尋ねてきた。

「こちらに来た時、乗組員たちが慌ただしい状態だったが、何があったんだ?」

「実は、先ほど偶然にも零戦パイロットが迂回しながら真珠湾に向かっていた空母『エンタープライズ』と空母『レキシントン』を発見しました。」

「我々の第二次攻撃隊は、当初の攻撃目標は真珠湾の基地施設だったので全機が爆装ですが、そのままで出撃させて敵艦隊に打撃を与えて足止めをすることにしました。」

遠藤の話を聞いた山口たちは全員、驚きを隠せなかった。


敵空母2隻の発見と敵艦隊への攻撃を行う話を聞いていた村田が口を開いた。

「若大将、お願いしますっ!!予備の九七式艦攻で良いので敵艦隊攻撃に参加させて下さいっ!!」

「元はと言えば、我々がアメリカの戦艦に集中してしまった結果、アメリカの航空隊による反撃を受けました。ホイラー飛行場とヒッカム飛行場も徹底的に攻撃していれば、『赤城』と『加賀』を失うことは無かった・・・・。」

村田は自責の念にかられているようだった・・・・。

すると、江草と友永も直談判してきた。

「我々からもお願いします!!戦死した仲間たちの弔い合戦をさせて下さい!!」

「例え生還が不可能になっても、機体ごと敵艦にっ・・・!!」


友永の言った言葉に、普段は怒らない遠藤が、語気を強めながら友永に言った。

「軽々しく、その言葉を口にするなっ!!」

そんな遠藤の言葉に友永だけでなく、その場にいた全員が息を呑んだ・・・。

「最後は敵艦に突っ込んで少しでも敵艦隊にダメージなんて・・・、機体はまた作り直せば良いが、『人の命』そして鍛えられた『人材』は二度と戻らない。仲間たちの弔い合戦をするならば生きて何度も戦場で戦うことこそが戦死した乗組員たちやパイロットたちの弔い合戦となるんだ!!」

「そんな自分の命を犠牲にすることで仲間たちの仇討ちをしたとする自己満足を持つパイロット達や乗組員達は、我が艦隊には必要無いっ!!!」

遠藤の言葉を聞いた中、友永は項垂れながら「申し訳ございませんでした・・・・。」

と謝罪した。


一旦、落ち着いた遠藤は山口たちに言った。

「それに勘違いしないで欲しいのは、第二航空艦隊だけで決着は付かせるつもりはありません。」

「今度は、『飛龍』と『蒼龍』も参加した第三次攻撃隊で敵空母2隻に止めを刺します」

遠藤の言葉に再び、山口たちはハッとした。

「もちろん、ブーツ、友永、江草たちだけでなく、使える予備機を用意して他のパイロットたちにも出来る限り参加してもらう。」

更に遠藤は続けた。

「草鹿さんには、鼓舞の補佐について貰います。また、源田は久我の補佐をしてもらう事にした。」

最後に、遠藤は全員に言った。

「鼓舞達にも言ったが、俺は人使いが荒いからな。命を粗末にしないで、引き続き、戦ってくれ。」

そう言われた村田たちは立ち上がって、遠藤に敬礼した。

山口もまた、遠藤に軽く頭を下げて感謝した。


そこへ伝令兵が来て報告してきた。 

「第二次攻撃隊、発艦準備が完了しました!!」

報告を聞いた遠藤は立ち上がり山口たちに言った。

「さぁ、彼等の出撃を見送りましょう。」

そう言って遠藤たちは、『土佐』の防空指揮所に向かった・・・・。



____________________


自分の命を犠牲にしてでもと言う友永たちを叱責した若大将。


これから、『蒼天の艦隊』による反撃が始まろうとしています。


また、史実では江草 隆繁と友永 丈市の階級や配属先が真珠湾奇襲時と違うかもしれませんが、その点のツッコミはご了承下さい・・・・<(_ _)>



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