第20話 始まるハルゼー艦隊の『悪夢』

ー 戦艦『土佐』防空指揮所 ー


遠藤たちが見守る中、第二航空艦隊の空母4隻から次々と第二次攻撃隊が発艦していき、遠藤たちは帽子を振りながら第二次攻撃隊を見送った。


第二次攻撃隊を見送ったあと遠藤は村田たちに言った。

「さて・・・・、ブーツ、友永、江草、俺たちの方で予備の零戦、九九式艦爆、九七式艦攻を用意する。戦闘が出来るパイロットたちを選抜してくれ。」

「「「了解しましたっ!!」」」

そう言って、村田たちは乗組員たちの選抜に向かった。

「私も『蒼龍』に戻るよ。若大将、『エンタープライズ』と『レキシントン』を必ず叩こう!!」

山口もそう言って『蒼龍』に戻ることになった。


山口たちが『土佐』の防空指揮所から去った中で、鼓舞と久我は居心地の悪さを感じていた。

鼓舞の側には草鹿が、久我と淵田の側には源田がいたからだ。

「草鹿さんが、引き続き、作戦に参加するのは聞いていますが・・・・、何故、側に?」

鼓舞の質問に草鹿は、

「若大将から、鼓舞の参謀長としての振る舞いを教育してくれと言われたからな。」

意地の悪い笑みを浮かべながら、答えた。

実際、鼓舞は普段は赤レンガにいた頃は『昼行灯』と揶揄されていたが、いざとなると目上に対しても容赦しない所があった。

遠藤もそうだが、流石に鼓舞は参謀長としての振る舞いに気を付ける必要があった。


そして、久我もまた源田に聞いた。

「源田に航空参謀としての振る舞いで言われる覚えは無いが・・・・?」

こちらも久我の質問に対して源田が、

「確かにな・・・。だが淵田はともかく、お前の場合もストレート過ぎて相手と喧嘩になる事も何度かあっただろう?」

それに対して久我は、

「それは、お前だけだ。」と仏頂面しながら言い返した。

久我と源田、淵田は兵学校の同期だが、航空関係で久我と源田は討論の中で喧嘩になった事が何度もあったのだ。

「何なら、俺が航空甲参謀を変わってやろうか?」

源田の言葉に久我がカチンとなって、

「ふざけるなっ!!俺の方が若大将の役に立つっ!!」

久我と源田の一触即発に、鼓舞たちが呆れる中、遠藤が久我と源田に言った。

「喧嘩するのは良いが、後にしてくれ・・・・。喧嘩になった時は、俺が審判をやってやるよ。」

その言葉に久我と源田は毒気を抜かれて、「「申し訳ございませんでした・・・・。」」

と二人して謝罪した。

そんな久我と源田のやり取りに苦笑いしながら、遠藤は第二次攻撃隊が飛び去った方向を見た。

(ここが正念場だな・・・・。2隻の空母と真珠湾の基地施設と燃料タンクの破壊。この二つを成し遂げなければ、本作戦を実行した意味が無い・・・・。)


ー 空母『エンタープライズ』艦橋内 ー


第二航空艦隊指揮下の4隻の空母から第二次攻撃隊が出撃しているとは知らず、巡洋艦隊と駆逐艦隊に守られながら空母『エンタープライズ』と空母『レキシントン』の飛行甲板上では、艦載機の発艦準備が進められていた。

既に日本側の宣戦布告の直後に真珠湾が奇襲され、その後にキンメルとショートたちの反撃により、日本の空母2隻を沈めることに成功したという朗報が届いていた。

また同時に、カタリナ飛行艇隊による偵察で南方にいるもう一つの日本艦隊による航空攻撃を受けた結果、真珠湾の工場施設、燃料タンク、ホイラー飛行場、ヒッカム飛行場などが攻撃を受けたという凶報も彼等に届いていた・・・・。

その為、『エンタープライズ』と『レキシントン』はタイミング良く合流した後、南方にいる日本艦隊を攻撃するつもりだった。


そんな中、この合流を考えたウィリアム・ハルゼー・ジュニア中将は、空母『エンタープライズ』の艦橋内で軍帽を床に叩き付けながら怒り狂っていた。

「ジャップの奴らめっ!!コソコソしやがって。必ず見つけて、全員皆殺しにしてやるわっ!!!」

一度怒りを爆発させたら、手に負えないことから幕僚達は少しハルゼーを遠巻きにしながら見ているだけだった。

そのハルゼーの決断により、『エンタープライズ』と『レキシントン』の艦載機で南方にいる日本艦隊を叩くことになった。

もちろん、反対する幕僚もいた。

「どちらも合わせて艦載機は、90機弱です。攻撃なんて自殺行為ですっ!!」と反論した。

しかし、ハルゼーは、

「そんな事は分かっているっ!!それでも、俺たちも南方にいる日本艦隊に一矢報いてやるんだっ!!」

ハルゼーが癇癪を巻き散らかしながら、周りの幕僚達に指示を出した。


加えて、先ほど日本の戦闘機に居場所が発見されてしまったことから、ハルゼーはワイルドキャット隊を送り戦闘機とあとから加わった水上偵察機を撃墜させようとしていた。

その為、空母『エンタープライズ』と空母『レキシントン』の艦橋内は慌ただしくなっていた。

「まだ、敵の偵察機は遠くには行っていない筈だ。何としても、撃墜しろっ!!」

そんな『レキシントン』の艦長に副艦長が懸念内容を話した。

「大丈夫でしょうか?もしかしたら、既に我々の位置は知らされているのでは・・・・。」

だが、そんな副長に艦長は鼻で笑いながら答えた。

「安心しろ。奴等の無線機は安定性が悪く故障しやすい。何しろ、『日本製』だからな。」

だが、見下し発言に『レキシントン』の艦長は後々に後悔する事になる・・・・。


一方、数機のワイルドキャットの追撃を躱しつつ、『摩耶』の偵察機は打電を続けていた。

やがて、2機のワイルドキャットが『摩耶』の偵察機を射程距離に収めようとしていた。

『摩耶』の偵察機のパイロット達も、ここまでかと諦め掛けた時、2機のワイルドキャットが別方向から機銃を受けて墜落していった。

何があったのか戸惑う『摩耶』のパイロット達は、すぐに理解した。

『摩耶』の水上偵察機からの打電を受けた第二航空艦隊から放たれた第二次攻撃隊が駆け付けてくれたのだ。

これにより、『摩耶』の偵察機を追撃していた残りのワイルドキャットは、零戦隊によって全て撃墜されてしまった。

危機を脱した『摩耶』の偵察機が誘導する形で、第二次攻撃隊をハルゼー艦隊がいる海域に導いた。


一方、第二航空艦隊から放たれた第二次攻撃隊の機影は、ハルゼーたちからも確認が出来た。

「くそっ、俺たちよりも早くジャップの攻撃隊が来るとは・・・・。」

「仕方ない、ワイルドキャット隊はジャップの攻撃隊を迎撃しろ。ドーントレス隊の発艦は中止しろ。急げっ!!」

慌てて幕僚達が動き出す中、ハルゼーは日本の攻撃隊を撃退する自信があった。

ハルゼーは、ワイルドキャット隊で敵戦闘機の数を減らして、敵艦爆隊や敵艦攻隊の護衛を減らした上で護衛艦隊の対空射撃で敵艦爆隊と敵艦攻隊を叩いて数を減らす算段だった。

確かに、ハルゼーの考えは間違っていなかった。『少し前の常識』ではだが・・・・。

やがて、多数の日本機群が目視でも確認が出来るくらいに近付いてきた。

ハルゼーは直ちに命じた。「迎撃を開始しろっ!!」

直ちに、空母『エンタープライズ』と空母『レキシントン』から出撃していたワイルドキャット隊が、迎撃に向かった。


だが、戦闘が始まって間もなくすると、ハルゼー達が呆然となる光景が広がり始めていた。

多数のワイルドキャットが次々と黒煙を噴きながら撃墜されていく光景になっていたからである・・・。



____________________


遂に第二航空艦隊が捉えたハルゼー艦隊。


これに対して、ハルゼーは迎撃を開始したが、彼等の目の前で展開されたのは悪夢の光景だった・・・・。

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