第17話 『赤城』と『加賀』の最期

ー 空母『加賀』艦橋内 ー


目の前で火災が続く『加賀』の惨状を岡田は、沈痛な面持ちで見ていた・・・・。

そこへ乗組員の一人が報告してきた。

「火災鎮火及び艦の復旧は見込みが有りませんっ!!」

報告を聞いた岡田は決断した。

「乗組員たちに総員退艦を告げろ・・・・。そして、御真影も艦から降ろすよう伝えろ・・・・。」

御真影とは、明治から太平洋戦争終戦までの天皇や皇后の肖像写真、または高貴な人物の肖像を指す言葉で、現時点では昭和天皇の肖像写真である。


「艦長、艦長も退艦を・・・・。」 

「いや、私は残る。陛下から賜った艦を失うことになったのだから、自分が生き恥を晒す訳には・・・・。」

そこで航海長があることに気付いた。

「艦長っ!!『飛龍』と『蒼龍』が針路を変えて動き出しましたっ!!」

岡田たちが見ると、確かに『飛龍』と『蒼龍』が針路を変えた上で2隻の駆逐艦と共に動き出した。

更に艦橋内に通信兵がきて報せた。

「山口司令官からの電文です。『第二航空戦隊ハ第二航空艦隊ト合流スル』と・・・・。」

通信兵は更に続けた。

「それと、第二航空艦隊の遠藤長官からの電文です。『艦ト死スコトハ犬死ト思エ』とのことです。山口司令官からも、『若大将ノ意見ヲ尊重セヨ』との電文が添えられました。」


岡田は、遠藤が人材や人命を重んじているのを知っていたし、山口が支持していることから自分や『赤城』の長谷川を死なせるつもりは無いという遠藤と山口の意志があるのを感じた。

「艦長、遠藤長官と山口司令官のお二人が仰る通りです。退艦を・・・・。」

周りの部下や乗組員たちの気持ちも遠藤や山口と同じだった。

「分かった・・・・。全員の退艦を確認したら、私も退艦しよう。さぁ、退艦を急ごうっ!!」

岡田の言葉を聞いて、皆が退艦に向けて動き出した。

(若大将、山口さん、貴方たちの言う通り生き恥を晒してでも、生き延びます。)

一方の『赤城』でも、負傷した南雲たちに続く形で遠藤と山口の電文を受け取った長谷川も『赤城』から最後に退艦していった。


その後、『赤城』と『加賀』はそれぞれ艦長も含めて乗組員たちが総員退艦したあとも駆逐艦隊による消火活動が行われていた。

だが、総員退艦してから30分後に空母『加賀』は数回の爆発を起こしながら、ハワイ諸島北方の海中に沈んでいき約12年の生涯を終えた。


一方、『赤城』は懸命の消火活動により火災は徐々に鎮火していったことから、金剛型戦艦『比叡』と『霧島』で牽引して日本に運ぶ準備が進んでいた。

だが、破局は突如、訪れた。

真珠湾から送り込まれたアメリカの潜水艦隊『ナーワル』、『カシャロット』、『トートグ』、『ドルフィン』による雷撃で数本が発射して、その内4本の魚雷が右舷に撃ち込まれた。

結果、傾斜角度が大きくなったことで牽引を断念して、アメリカの潜水艦隊を爆雷などで撃退した後に駆逐艦隊による雷撃での自沈処理が決定した。

その後、杉浦嘉十(すぎうら かじゅう)大佐が率いる第一七駆逐隊所属の駆逐艦『谷風』、『浦風』、『浜風』、『磯風』の4隻が、『赤城』に近付き魚雷を発射した。

4隻から放たれた魚雷が次々と『赤城』の右舷に命中して、杉浦たちが敬礼する中、空母『赤城』は『加賀』の沈没から40分後、右舷から海中に沈んでいき約13年の生涯を終えた。


かつて『八八艦隊』の一角を担う戦艦として生まれる筈だった『赤城』と『加賀』の2隻は、同じ海域でその生涯を終えた・・・・。



____________________


アメリカ側の反撃により、ハワイ諸島北方の海域に沈んでいった空母『赤城』と空母『加賀』の2隻。


当初は『八八艦隊』の一角を担う戦艦の予定だった2隻が、序盤の戦いで同じ海域に沈んだのは皮肉だったのではないでしょうか・・・・。

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