第44話 水雷屋たちによる突撃

ー マレー半島東岸のクアンタン沖 ー


南雲達が自分達の犠牲と引き換えに切り開いた突破口。

『北上』と『大井』が射出した40本の魚雷は、イギリス東洋艦隊に放たれていた。


結果、イギリス東洋艦隊のS級駆逐艦とマハン級駆逐艦に次々と命中していった。

これにより、イギリス東洋艦隊は9隻の駆逐艦が撃沈された。

これでイギリス東洋艦隊で健在なのは、戦艦8隻、巡洋艦3隻、駆逐艦5隻のみとなってしまった。

イギリス東洋艦隊の戦艦たちは、護衛していた艦船のほとんどが失われてしまい、丸裸に近かった。


ー 戦艦『土佐』防空指揮所 ー


南雲たちが自分たちの命と引き換えに、差し違える形でイギリス東洋艦隊の巡洋艦や駆逐艦たちを撃沈した。


遠藤は、悲しみを堪えながら、全艦に通達した。

「全艦に告げる。巡洋艦隊は残存する敵巡洋艦と駆逐艦を叩けっ!!駆逐艦隊は、ロイヤル・サブリン級戦艦を叩けっ!!」

「そして戦艦隊は、キング・ジョージ五世級戦艦、ネルソン級戦艦を叩く。以上だっ!!」

遠藤の通達を聞いて、靖田たちは再び、慌ただしく動いた。

(俺たちの危機を救うために、南雲さんたちが・・・・。だけど、これ以上将兵たちを失うわけにはいかないっ!!)

内心で、遠藤はそう決意していた。


一方、フィリップス長官は自分たちが丸裸に近い状況であることに愕然としていた。

(だが、まだ諦めるわけにはいかないっ!!)

内心でフィリップス長官は、気持ちを奮い立たせてリーチ艦長たちに指示を出した。

「艦長、引き続き『アンソン』と共にトサを叩くぞっ!!」

「そして、『ネルソン』と『ロドネイ』はナガトタイプを、『ロイヤル・サブリン』、『ロイヤル・オーク』、『リヴェンジ』、『レゾリューション』はイセタイプを叩いてくれ。残存する巡洋艦と駆逐艦は敵の巡洋艦と駆逐艦を牽制してくれっ!!」


そう言い終えたフィリップス長官は、その場にいた将兵たちに言った。

「今の状況は、我々には厳しい。だが、決して諦めるな。再び、我々の手で不利な状況を覆そうっ!!」

フィリップス長官の言うとおり、状況は厳しい。

でも、簡単に負けるつもりは彼等には無かったからこそ、彼等の闘志に再び火が付いたのだった。

(ヤスオ、私たちも負けるわけにはいかないのだ・・・・。)

フィリップス長官の闘志もまた、強くたぎっていた。


ー 戦艦『土佐』防空指揮所 ー


見張り員たちから、次々と報告が入った。

「報告します。先頭のキング・ジョージ5世級2隻は、我々の『土佐』に集中砲撃を始めていますっ!!」

「ネルソン級2隻は、『長門』と『陸奥』に集中砲撃を始めましたっ!!」

「残りのロイヤル・サブリン級4隻は、『伊勢』と『日向』に向けて集中砲撃を開始しましたっ!!」


報告を聞いた遠藤は、フィリップス長官の考えを即座に理解した。

(そういうことか・・・・。被害覚悟で、俺たちの戦艦を叩くつもりか・・・・。)

(ならば・・・・。)

遠藤は電話を手にして鼓舞に伝えた。

「鼓舞、作戦を一部、変更する。巡洋艦も駆逐艦と共にロイヤル・サブリン級への攻撃に参加してくれっ!!」

「イギリスの巡洋艦と駆逐艦は無視して良い。その時は、こちらが被害担当になってやるっ!!」

遠藤の通達内容に、鼓舞も驚愕した。

「若大将、危険ですっ!!」

「百も承知だっ!!『土佐』、『長門』、『陸奥』は、キング・ジョージ5世級2隻に集中砲撃する。そして、『伊勢』と『日向』は、ネルソン級2隻に集中砲撃をしてくれっ!!」

そう言って、遠藤は電話を切った。


遠藤の通達を聞いた鼓舞も一瞬、戸惑ったが、すぐに理解した。

(確かに、敵艦隊は刺し違えてでも我々を叩こうとしている。ならば、若大将の言うとおり、こちらも刺し違えてでもイギリス東洋艦隊を叩くしか無いな・・・・。)

鼓舞はすぐに、各艦隊の司令官に遠藤が言っていた、内容を通達した。


ー 重巡洋艦『鳥海』艦橋内 ー


第一巡洋戦隊旗艦である重巡洋艦『鳥海』の艦橋内で、鼓舞から遠藤が言っていた通達内容を聞いていた第一巡洋戦隊司令官を務める早川幹夫(はやかわ みきお)少将遠藤の考えを理解しては即座に動いた。


早川は水雷が専門で、勇猛果敢であると同時に冷静沈着に対応する人物だった事から、遠藤がスカウトして第一巡洋戦隊司令官として抜擢した。

(若大将の言うとおりだな・・・・。敵艦隊の巡洋艦と駆逐艦は無視して、ロイヤル・サブリン級戦艦を叩いて敵艦隊の大きな戦力を削ぐ方が重要だ。)

そして、早川は『鳥海』と『摩耶』を率いて、ロイヤル・サブリン級戦艦に向かった。


ー 重巡洋艦『利根』艦橋内 ー


重巡洋艦『利根』の艦橋内で、遠藤の通達を受けていた第八戦隊改め第三巡洋戦隊司令官である阿部弘毅(あべ ひろあき)少将もまた、南雲の仇討ちを果たそうと突撃を開始した。


彼の率いる第三巡洋戦隊は、開戦時では第一航空艦隊に配備されていた。

だが、アメリカ側の反撃を受けて必死に対抗したが、結果、空母『赤城』と空母『加賀』を失った。

日本に帰国後、第一航空艦隊が解体された時に遠藤から第二航空艦隊の元で『利根』と『筑摩』を率いて戦ってほしいと頼まれた。


真珠湾の戦いで、酸いも甘いも体験していた自分たちを遠藤が必要としてくれたことや、真珠湾の戦いで負傷した南雲、空母『赤城』と空母『加賀』と共に戦死したパイロットたちや乗組員たちの無念を晴らしたいと思った阿部は遠藤の申し出を受け入れた。


そして、今回のイギリス東洋艦隊との艦隊戦で苦境に立たされている中で、駆け付けた南雲たちのお陰で窮地を脱したが、それと引き換えに南雲たちが戦死した。

(南雲さん、貴方たちの仇討ちは必ず果たしますっ!!)

内心で強く決意した阿部は、『利根』と『筑摩』で突撃を開始していった。


ー 軽巡洋艦『最上』艦橋内 ー


一方、第二巡洋戦隊『最上』の艦橋内で同じく通達内容を聞いた第二巡洋戦隊司令官木村昌福(きむら まさとみ)少将も、早川と同じように遠藤の考えを理解した。


木村も早川と同じで水雷が専門だったが、士官学校時代の成績は決して高くはなかった。

また、水雷屋の要件である水雷学校高等科学生の履歴がなく、海軍士官としての専門を持たない『ノーマーク士官』と揶揄されていた。

だけど、勇猛果敢な上に豪放磊落な性格の人柄で知られ、部下をむやみやたらに叱ることもなく、常に沈着冷静な態度であったので将兵からの信頼は厚かった。


遠藤は、そんな木村を高く評価して第二巡洋戦隊司令官として抜擢した。

最初、木村は辞退しようとしていたが、自分を高く評価してくれた事や、木村も遠藤の人柄も含めて高く評価していた事から、今回の話を引き受けてくれた。

「そういうことならば、我々もやってやろうじゃあないか。艦長、我々の第二巡洋戦隊も敵戦艦に突撃だっ!!」

早川に負けじと、『最上』と『熊野』を率いて木村も突撃を始めた。


ー 駆逐艦『野分』艦橋内 ー


第四駆逐隊の、旗艦である『野分』艦橋内で司令官を務める田中頼三(たなか らいぞう)少将は5隻の駆逐艦を率いてロイヤル・サブリン級戦艦に突撃を始めようとしていた。


田中は木村とは違う形で、評価は低かった。

しかも、指揮官としての評価は『相応しくない』という散々な内容だ。

しかし、中には田中を高く評価する人達もいた。

正直、田中を低く評価しているのは、上層部が多かったのだ。

勿論、遠藤は、内面を見ないで評価をするだけの連中の言葉には耳を傾ける事はせずに、現場の人達の話を聞いた上で田中に会って、色々と議論を交わしたりして話をした。


結果、遠藤が考えていた通り、田中は見た目では『猛将』のイメージではないが、臨機応変に対応が出来る人物だった。

だからこそ、遠藤は改めて、田中に第四駆逐隊の司令官になって欲しい事を話した。


そんな遠藤に対して、田中は、

「申し出は嬉しいですが、貴方への反発が強くなってしまいますよ?」

と答えた。

実際、遠藤は鼓舞、木村などを抜擢していて、此れを快く思わない連中が多数いるのも事実だった。

だが、遠藤は田中の抜擢を諦めるつもりは、全く無かった。

「周りの戯れ言なんか、いちいち気にする必要は無いです。日米関係が悪化しつつある今、開戦になった時に必要なのは評価もあるでしょうが、実際に臨機応変に対応が出来る指揮官です。改めて、田中さん、第四駆逐隊の司令官の話、引き受けてくれますか?」

と再度、田中に話した。


遠藤の言葉を聞いた田中も、腹を括った。

「そこまで、私を評価して頂けて光栄です。第四駆逐隊の司令官のお話、引き受けます。」

そう言って、田中は引き受けてくれた。


そんな田中も、

「南雲さんたちの死は無駄にはしない。我々も水雷屋として、敵戦艦に突撃を開始する。他の仲間に遅れを取るなっ!!」

そう言って、部下たちを激励した。


ー 駆逐艦『谷風』艦橋内 ー


第四駆逐隊の司令官である有賀幸作(あるが こうさく)大佐も早川、木村、田中に負けじと敵戦艦への突入を開始していた。


有賀は、前任の杉浦から第一七駆逐隊司令官を引き継いで間もない形だった。

有賀は、豪放磊落な性格で家族思いの愛妻家だ。

第一七駆逐隊司令官に着任してから、有賀は連日の訓練で常に先頭に立ち、防寒コートも手袋も着用せずに艦橋に立つ有賀の姿は畏敬の念で見られた。


第一航空艦隊が解体された後、有賀の駆逐隊の新たな配属先が検討されている中、遠藤が今作戦への参加を打診した。

有賀も遠藤を高く評価していたから、遠藤の申し出を快く引き受けた。

「ここで活躍しなければ、若大将に会わせる顔が無い。南雲さんたちの仇討ちを行うぞっ!!」

有賀もまた、乗組員たちを激励しながら、敵戦艦に突撃していった。


遠藤とフィリップス長官、どちらも刺し違える覚悟で砲撃を再開していた・・・・。



____________________


どちらも『背水の陣』の構えで、砲撃を再開しました。


どちらに『勝利の女神』が微笑むのか・・・・😓

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