第43話 南雲が切り拓く反撃への道導
ー 重雷装巡洋艦『北上』艦橋内 ー
現海域に到着した時、南雲中将は表情を険しくしていた。
現在、日本側が厳しい状態であるからだ。
(状況は、完全に我々の方が厳しいな・・・。ならば俺が為べき事は・・・。)
南雲は、腹を括っていた・・・・。
南雲は、初戦の真珠湾攻撃時においてアメリカ側の反撃を受けた際に、ドーントレス艦爆隊による爆撃に巻き込まれてを重傷を負った。
日本に帰国後、海軍病院に入院していたのだが、自身の判断ミスで空母『赤城』と空母『加賀』を失い、多数の乗組員たちやパイロットたちを犠牲にしてしまったことで精神的なショックもあり状態は芳しくなかった・・・・。
そんな中、見舞いも兼ねて遠藤が訪ねて来た。
南雲は最初、遠藤に恨み辛みの罵詈雑言を打ちまけた。
「惨めな俺を嘲笑いに来たのかっ!!」
だが、遠藤は何も言わず、聞いているだけだった。
一通り、罵詈雑言を言い終えた南雲に遠藤は言った。
「それだけの勢いが有るならば、雪辱を果たすべきではないでしょうか?それが真珠湾で沈んでいった『赤城』と『加賀』だけでなく、乗組員たちやパイロットたちの供養にもなります。」
南雲は、遠藤が自分を嘲笑う事なく精神的に参っていた自分を叱咤激励しているのだと気付いた。
「八つ当たりして、済まない・・・・。」
そう言って、泣きながら遠藤に謝罪した。
その後、遠藤と南雲は腹を割ってとことん話し合った。
その中で来るべき艦隊戦で、南雲が提案したのが魚雷管を多数装備した重雷装艦だった。
日米開戦直前に、同じ発想があったが却下されていた艦を南雲は再提案したのだ。
当初の遠藤は、南雲の案について
「魚雷を使い果たしたら、貧弱な武装しか残らないから危険では?」
重雷装艦の弱点を指摘した。
だが、南雲は、
「深追いせずに、さっさと離脱すれば良い。」と答えた。
結果、南雲の熱意に根負けした遠藤は、球磨型軽巡洋艦の3番艦『北上』と4番艦『大井』を重雷装艦に改装した。
この改装によって、『北上』と『大井』は、
50口径14cm単装砲 4門
25mm連装機銃2基
61cm4連装魚雷発射管 10基40門の重雷装艦になった。
そして、南雲は2隻の第一艦隊指揮下の第九戦隊の司令官として現場復帰して、2隻の訓練を重ねていた。
当初、南雲の第九戦隊は、イギリス東洋艦隊との戦いには参加しない予定だった。
だが、南雲はイギリス東洋艦隊の戦力強化を聞いていたから、山本に直談判して今回の『マレー沖艦隊戦』に急遽参戦する形で駆け付けた。
そして、現在、日本側の分が悪い事から、南雲は決意した。
「まずは、我々日本側の戦艦隊突入してきている巡洋艦や駆逐艦達を黙らせよう!!」
南雲は、最初の雷撃で敵の巡洋艦や駆逐艦達を減らす事にした。
狙いを定めなくても、片舷側だけでも1隻20本の魚雷を発射出来る事から、合計で40本が発射出来る。
南雲は、狙いを定めずに敵側の巡洋艦や駆逐艦達へ距離を縮めつつ、一斉雷撃の準備を進めていった。
ー 戦艦『プリンス・オブ・ウェールズ』艦橋内 ー
巡洋艦や駆逐艦全ての決死による攻撃で、フィリップス長官たちは優勢な形を作り始めていた。
(これならば、ヤスオたちに勝利出来るか・・・・?)
そんなフィリップス長官の元に、レーダー室から報せがきた。
「後方より我々と日本側の間に、2隻の巡洋艦が突撃してきましたっ!!」
フィリップス長官たちが後方を確認すると、2隻の巡洋艦が突撃をしてきていた。
現場にはいない筈だった2隻の巡洋艦による突撃に対して、フィリップス長官たちはすぐの対応が出来なかった。
それが南雲にとって僥倖だったし、フィリップス長官にとっては現場ミスとなってしまった。
イギリス東洋艦隊の巡洋艦や駆逐艦達に対して、右舷側の魚雷を使用しての有効射程距離に達した時、南雲が命じた。
「両艦、右舷側の全魚雷、発射だっ!!」
南雲の号令直後、『北上』と『大井』の右舷側の61cm4連装魚雷発射管 5基から20本、合計で40本の酸素魚雷が発射された。
酸素魚雷は、日本海軍が開発した有効射程距離は20km~25km、雷速は50ノット、加えて純粋酸素を使用している事から雷跡は残さない為に発見が厳しい兵器だ。
その40本の酸素魚雷が次々とイギリス東洋艦隊の巡洋艦や駆逐艦達に向けて、次々と放たれた。
雷跡を残さない酸素魚雷に捉えられた巡洋艦や駆逐艦たちには、逃れる術は皆無だった・・・・。
直後、40本の酸素魚雷は、イギリス東洋艦隊の巡洋艦や駆逐艦の半分以上に次々と命中して、爆発や水柱が相次いで発生した。
突然の出来事に『プリンス・オブ・ウェールズ』の艦橋内にいたフィリップス長官たちも愕然とした・・・・。
そこへ、兵士達からの被害状況が次々と報告された。
「報告しますっ!!今の雷撃と思われる攻撃で『ヨーク』、『ロンドン』、『デヴォンシャー』が撃沈されましたっ!!」
次々と報告された被害状況からイギリス東洋艦隊は、4隻の巡洋艦が失われた。
その出来事にフィリップス長官たちは戸惑っていた。
「一体、何が起きたんだ・・・?それに、雷撃ならば雷跡が確認されているはずなのに・・・・。」
フィリップス長官の言葉に、パリサー参謀長がある事を思い出した。
「そう言えば、日本海軍は純粋酸素を使用した魚雷を開発したと聞きました。有効射程距離が長く、速力は50ノット近く、酸素を使用している事から雷跡が殆ど無くて発見し辛いと聞きました。それに、先ほどの2隻の巡洋艦はかなりの魚雷発射管が有りました。もしかしたら・・・。」
それを聞いたフィリップス長官は、2隻の巡洋艦の狙いに気付いた
イギリス海軍もかつて酸素魚雷の研究や開発をしていた。
だが、扱いが難しく開発中に何度も爆発事故が発生して多数の技術者たちが犠牲になった。
そのために酸素魚雷の開発は、現時点では不可能と判断して開発は中止になった。
その酸素魚雷を日本海軍が開発に成功しているとなると・・・・。
直ぐさま、フィリップス長官は命じた。
「あの2隻の巡洋艦を砲撃しろっ!!今度は、我々の戦艦部隊に仕掛けてくるぞっ!!」
ー 重雷装巡洋艦『北上』艦橋内 ー
そんな中、取り舵一杯で反転した『北上』と『大井』は左舷側の魚雷でイギリス東洋艦隊の戦艦たちに向かっていた。
「まだだ・・・・。イギリス東洋艦隊の戦力を更に叩かなければ・・・・。」
本来ならば、南雲はイギリス東洋艦隊の巡洋艦と駆逐艦たちの戦力を大幅に削ったことで、離脱すれば良かった。
実際、イギリス東洋艦隊の戦力は、
戦力8隻、巡洋艦3隻、駆逐艦14隻に激減していた。
それでも巡洋艦3隻以上に、戦艦8隻と駆逐艦14隻がいるのが問題だった。
だからこそ、イギリス東洋艦隊の戦力を更に叩くべきだと考えていた。
そして、南雲は覚悟を決めた・・・・。
そして、隣にいる『北上』の艦長だけでなく、その場にいた乗組員たちに告げた。
「皆の命、俺に預けてくれ。」
皆は一瞬、戸惑ったが、南雲の言葉をすぐに理解した。
そして、『北上』の艦長が皆を代表して答えた。
「南雲さん、我々は最初から覚悟しています。勿論、『大井』の艦長や乗組員達も、覚悟しています。」
『北上』の艦長の言葉を聞いた南雲は頭を下げて、礼を言った。
「皆、有り難う・・・・。」
そう言って、南雲は通達した。
「両艦、敵艦隊にギリギリまで接近しろっ!!射程距離に到達次第、左舷の魚雷全てを発射しろっ!!」
南雲の決断により、『北上』と『大井』の2隻は、敵艦隊に向けて肉迫攻撃を開始した。
『北上』と『大井』の動きに気付いた遠藤は、南雲が何をしようとしているのか、すぐに理解した。
「いかんっ!!南雲さん達を止めろっ!!」
戦艦『土佐』の第一艦橋にいた草鹿と源田も南雲の意図に気付いた。
「南雲さん、駄目だっ!!」
「もう十分ですっ!!早く離脱をっ!!」
だが、彼等の叫びも虚しく『北上』と『大井』はイギリス東洋艦隊に再度、突撃していった・・・・。
一方、フィリップス長官も『北上』と『大井』が何をしようとしているのか気付いているから、即座に全艦に通達した。
「あの2隻の巡洋艦を何としてでも止めろっ!!」
命中したら、自分達がどうなるか分かるからこそ、フィリップス長官は焦り、恐怖したのだ。
『北上』と『大井』は反抗戦という形で、イギリス東洋艦隊に肉迫攻撃を仕掛けようとしていた。
だが、フィリップス長官たちも阻止しようと必死で、3隻の巡洋艦と14隻の駆逐艦の主砲砲撃を『北上』と『大井』に集中させて多数の砲弾を2隻の周囲に降り注いだ。
それでも、2隻の進撃は止まらなかった。
だが、次第に『北上』と『大井』に至近弾が出始めてきた。
直撃を受けるのは、時間の問題だった・・・・。
(若大将、どうやら再び君と酒を酌み交わす約束は果たせそうにないな・・・。だが、俺に雪辱を果たす機会を与えてくれた事には、本当に感謝している・・・・。)
遠藤は、南雲に「生きて帰る事を重視して下さい。」と、何度も念を押した。
そして、マレーシア攻略作戦に向かう遠藤に
「この戦いが終わったら、酒を飲み交わそう。」
南雲は、笑いながら言った。
(真珠湾で沈んだ『赤城』と『加賀』、そして真珠湾で散っていった乗組員たちやパイロットたちの元にいくことが出来る・・・・。)
やがて、『北上』と『大井』は目標の射程距離に達した。
南雲は、両艦に命じた。
「左舷側の魚雷、全て発射だっ!!」
直後に、『北上』と『大井』の左舷の魚雷発射管から合計40本の魚雷が射出されて、イギリス東洋艦隊に向けて一斉に放たれた。
直後、『北上』と『大井』にイギリス東洋艦隊の巡洋艦や駆逐艦たちから放たれた砲弾が命中しようとしていた。
「若大将っ!!後は任せたぞっ!!!」
南雲が叫んだ直後、イギリス東洋艦隊が発射した砲弾の一部が『北上』の艦橋を直撃して、南雲たちの身体と意識を消滅させた・・・・。
やがて、『北上』だけでなく『大井』も直撃弾を次々と受けて、結果、2隻とも船体を真っ二つにしながらマレー沖の海中に没していった・・・・。
だか、南雲たちの執念が宿った40本の酸素魚雷が、イギリス東洋艦隊に次々と向かっていた・・・・。
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窮地に陥るところだった遠藤の艦隊を救った南雲。
しかし、それと引き換えに南雲たちが戦死した。
だが、南雲たちが放った酸素魚雷が、イギリス東洋艦隊に向かいつつあった・・・・。
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