第42話 イギリス東洋艦隊の反撃

ー 戦艦『長門』艦橋内 ー


キング・ジョージ五世級の最新鋭艦『デューク・オブ・ヨーク』の撃沈を確認した瞬間に、船内の乗組員たちは歓喜に湧き上がった。


その中で、『長門』艦長の矢野英雄(やの ひでお)大佐が松田に声を掛けた。

「やりましたね、司令官っ!!」

矢野の言葉に、松田は笑みを浮かべた。

松田は、中瀬、野村と共に対空戦対策を研究していたが、彼等も『鉄砲屋』として艦隊戦に挑みたい気持ちもあった。

だからこそ、今回の艦隊戦に参戦出来たのが嬉しかった。

(防空艦隊の指揮官である野村と中瀬には、悪いことをしたな・・・・。)

松田は、内心で苦笑いをしながらも矢野たちに告げた。

「まだ浮かれている場合では無いぞっ!!まだ、他の敵戦艦は健在だ。今度は、撃沈したキング・ジョージ五世級の後方にいるレナウン級巡洋戦艦を『陸奥』と共に叩くぞっ!!」

松田の言葉に気を引き締め直した矢野たちは迅速に動き出した。


ー 戦艦『土佐』防空指揮所 ー


遠藤たちの方でも、『デューク・オブ・ヨーク』の撃沈が確認されて、『土佐』艦内でも歓喜に湧き上がっていた。

靖田に至っては、歓喜の涙を流していた。


そんな中で、遠藤が靖田たちを叱咤激励した。

「浮かれるなっ!!イギリス側も必死だ。喜ぶのは戦いが終わったあとだっ!!」

「全てが終わってからでも、遅くは無いだろう。」

そう言って、遠藤は不敵な笑みを浮かべた。

そんな遠藤を見て、靖田たちも気を引き締め直して、戦闘態勢に戻った。


ー 戦艦『プリンス・オブ・ウェールズ』艦橋内 ー


一方、『プリンス・オブ・ウェールズ』艦橋内のフィリップス長官たちの間には、未だに重苦しい雰囲気が漂っていた。


そこへ、通信室の兵士が駆け込んで来た。

「長官、巡洋艦『ヨーク』からの電文ですっ!!『我ラ巡洋艦全テノ艦デ敵戦艦二突撃シテ惹キ付ケル』とのことですっ!!」

電文の内容と彼等の真意を、フィリップス長官は即座に悟った。

巡洋艦の全戦力で、敵戦艦隊に突撃した上で日本の戦艦を牽制して自分たちの戦艦全てで敵戦艦を叩いて欲しいという考えだったのだ。

(日本の戦艦は性能の良いレーダー射撃を装備している。ならば、彼等の決意を受け入れよう・・・・!!)

決意したフィリップス長官は、通信兵に伝えた。

「巡洋艦『ヨーク』に返信してくれ。内容は、『了解シタ』とな。それで彼等には十分に伝わる。急げっ!!」


通信兵が慌てて艦橋を飛び出してから、フィリップス長官はリーチ艦長や幕僚たちに言った。

「我々、イギリス東洋艦隊は背水の陣だ。巡洋艦隊の決死の行動を無駄にするな。この戦い、我々の手で勝利を掴むんだっ!!」

一瞬の間をおいた直後に、艦橋内の幕僚や乗組員たちの雄叫びが次々と上がった。

「艦長、距離を更に縮める。確実に敵艦隊に直撃を与えるんだっ!!」

「了解しましたっ!!」


結果、『デューク・オブ・ヨーク』の撃沈が、逆にイギリス東洋艦隊の士気を更に高めることになってしまった・・・・。


ー 戦艦『土佐』防空指揮所 ー


防空指揮所にいる見張り員の一人が報告してきた。

「敵の巡洋艦全てが、我々の戦艦隊に対して距離を縮めながら、砲撃を仕掛けてきましたっ!!」

遠藤が双眼鏡で確認すると、確かにイギリス東洋艦隊の巡洋艦7隻全てが距離を縮めながら、自分たちの戦艦隊に砲撃を始めていた。

遠藤もすぐにイギリス東洋艦隊の狙いに気付いた。

すぐに第一艦橋内の鼓舞に連絡して伝えた。

「鼓舞、早川さんたちに連絡を頼む。敵の巡洋艦隊を牽制してくれとな。」

「それと、田中さんたちの駆逐艦隊にも、敵の駆逐艦隊を牽制してくれと連絡を頼むっ!!」


連絡を終えた遠藤に、靖田が聞いてきた。

「ど、どうなっているのですか?」

「イギリス東洋艦隊は、巡洋艦全てでこちらの戦艦全てを牽制しようとしている。撃沈は無理でも牽制や被害を与えることは可能だ。」 

「その間に戦艦隊が俺たちに砲撃を仕掛けて撃沈または撃破するつもりなんだろうな・・・・。」

遠藤の考察を聞いた靖田は、顔面蒼白になった。

「それじゃあ・・・・。」

「この戦いは、どちらに軍配が上がるか分からなくなってきたな・・・・。」


この時点で日本側は、戦艦5隻、巡洋艦6隻、駆逐艦9隻。

対してイギリス側は、戦艦8隻、巡洋艦6隻、駆逐艦14隻だ。

遠藤の作戦としては、『プリンス・オブ・ウェールズ』、『デューク・オブ・ヨーク』、『アンソン』を先に叩いてから残りの戦艦を叩き、巡洋艦は巡洋艦同士で、駆逐艦は駆逐艦同士で決着を考えていた。

また、巡洋艦と駆逐艦に速力の遅いネルソン級やロイヤル・サブリン級への雷撃を任せるつもりだった。

だけど、『デューク・オブ・ヨーク』の撃沈が、イギリス東洋艦隊の闘志に火を付けてしまった。


イギリスの巡洋艦7隻が捨て身の行動で、日本側の戦艦5隻に牽制を仕掛けている間にイギリス側の戦艦4隻が反撃をする形を取ろうとしていた。

また、日本側の巡洋艦と駆逐艦も阻止を目論んでいたが、イギリス側は駆逐艦14隻だけでなく、ロイヤル・サブリン級戦艦4隻の内2隻が日本側の巡洋艦と駆逐艦に砲撃をしていたために、イギリス側の巡洋艦を退けることが容易ではなかった。


結果、日本側の戦艦5隻はイギリス側の戦艦6隻だけでなく巡洋艦7隻も相手にしなければならなくなってしまった。

そのために、遠藤たちは苦戦を強いられることになっていた。

(最初の段階が上出来過ぎたか・・・・。いくら速力が遅い4隻の戦艦も含めると、こちらが更に厳しくなるな・・・・。)


遠藤が内心で苦悩していた時、第一艦橋内にいる鼓舞から電話があった。

「どうした、鼓舞。」

「若大将、たった今、電文が届きました。第一艦隊第九戦隊の司令官である南雲さんからです。」

「何だってっ!?」

「電文内容は、『我突入シテ突破口ヲ開ク』ですっ!!」

電文内容を聞き終えた遠藤が艦隊後方に顔を向けると、2隻の艦影が現れた。


南雲が率いる第一艦隊指揮下の第九戦隊所属の球磨型軽巡洋艦の3番艦『北上』と4番艦『大井』だった・・・・。



____________________


序盤の上出来過ぎた戦いでイギリス東洋艦隊の闘志に火を付けてしまった遠藤。


結果、日本側が厳しい状態になってしまう中で現れた南雲の艦隊。


これからの展開は、いかに・・・・!?

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