第45話 トンプソン艦長の決意と覚悟

ー 軽巡洋艦『ブルックリン』艦橋内 ー


軽巡洋艦『ブルックリン』の艦長は、屈辱を感じていた。

日本側の艦隊全てが、イギリス東洋艦隊で残存している巡洋艦や駆逐艦を全て無視している形で砲撃を始めていたからだ。


軽巡洋艦『ブルックリン』の艦長は決断した。

「残存している巡洋艦と駆逐艦の各艦長に連絡してくれ。我々は敵のナガトタイプ2隻への集中攻撃を仕掛けるっ!!」

「いくらナガトタイプ2隻でも、『ネルソン』と『ロドネイ』だけでなく巡洋艦3隻と駆逐艦5隻も加われば、2隻を沈めることも可能だ。我々を無視したことを後悔させてやれっ!!」

これにより、『ブルックリン』、『サバンナ』、『ナッシュビル』、S級駆逐艦とマハン級駆逐艦5隻を合わせた8隻は、『長門』と『陸奥』に向かっていった。


ー 戦艦『長門』艦橋内 ー


戦艦『長門』からもイギリス東洋艦隊の残存している巡洋艦と駆逐艦が、自分たちに向かっているのが確認されていた。


「流石に、巡洋艦と駆逐艦も相手にするのは厳しいな・・・・。」

「松田さん、こちらもネルソン級戦艦2隻を牽制しつつ、先に巡洋艦と駆逐艦を叩きましょうっ!!」

そう言って、矢野は松田に具申した。

「君の言う通りだな。ネルソン級戦艦2隻を牽制しつつ、先に巡洋艦と駆逐艦を叩くっ!!」

松田の決断で、『長門』と『陸奥』は、『ロドネイ』と『ネルソン』を牽制しつつ、巡洋艦と駆逐艦を叩くべき動いた。


ー 戦艦『伊勢』艦橋内 ー


戦艦『伊勢』からも、イギリス東洋艦隊の巡洋艦と駆逐艦が『長門』と『陸奥』に向かっているのが確認されていた。


「宇垣さん、我々も『長門』と『陸奥』の援護をっ!!」

「駄目だ。我々が松田たちの援護に向かったら、早川たちを援護することが出来ない。松田たちには、ここで踏ん張ってもらうっ!!」

宇垣の言葉に、戦艦『伊勢』艦長の武田勇(たけだ いさむ)大佐も同意せざる得なかった。

「状況は厳しいが、我々のすべきことは、ロイヤル・サブリン級4隻を牽制しつつ、早川たちを援護することだっ!!」

「了解しましたっ!!」

宇垣の確固たる決断により、第二戦隊は早川たちの援護に向かった。


日本艦隊とイギリス東洋艦隊の双方による凄まじい砲撃戦状態が続く中、動き出した者達がいた。

早川が率いる第一巡洋戦隊、木村が率いる第二巡洋戦隊、阿部が率いる第三巡洋戦隊がロイヤル・サブリン級戦艦である『ロイヤル・サブリン』、『ロイヤル・オーク』、『リヴェンジ』、『レゾリューション』に接近しつつあった。


宇垣のが率いる『伊勢』と『日向』に砲撃をしていたロイヤル・サブリン級戦艦4隻は、接近してきている早川たちの巡洋艦6隻が何をしようとしているのかに気付き、各艦は攻撃目標を切り替えて早川たちの巡洋艦たちに向けて砲撃を再開した。


しかし、ロイヤル・サブリン級戦艦4隻の中で1隻だけ、『伊勢』と『日向』への砲撃を続行していた。

『ロイヤル・オーク』艦長を務めるマイケル・トンプソン大佐は、他の3隻とは違って引き続き『伊勢』と『日向』に対して42口径38.1cm連装砲4基で砲撃を続ける選択を取った。

「何故ですかっ!?我々が叩くべきは、日本の巡洋艦と駆逐艦ですっ!!」

当直士官の一人であるであるジョン・カーター大尉は、トンプソン艦長に抗議した。


だが、トンプソン艦長はカーターの抗議を却下した。

「普通ならば、我々に突撃してくる日本の巡洋艦と駆逐艦を叩くべきだ。だが、それはイセタイプ2隻に反撃を与えてしまう機会を作ってしまうだけだ。」

「そう仕向けることが、ヤスオの考えと覚悟が覗える。」

トンプソン艦長の言葉に、カーターは驚いた。

「艦長は、アドミラル・エンドウをご存知ですかっ!?」

「そうだ。彼がイギリスに短期留学をしていた時に、我が家にホームステイしていたんだ。」


遠藤がイギリスに短期留学で滞在中に、ホームステイ先としてお世話になっていたのが、トンプソン艦長の家だった。

短い間だったがトンプソン艦長だけでなく、彼の家族とも交流を深めていた。

トンプソン艦長はフィリップス長官と同様、遠藤の先見の明と柔軟な発想から、遠藤を高く評価していた。

かつて、トンプソン艦長は遠藤に

「君が艦隊の司令官ならば、是非とも、君の旗艦の艦長を務めよう。」

と話したことがあった。


遠藤が日本に帰国した後も手紙のやり取りは行われていて、トンプソン艦長の一人娘が結婚した時も、祝福の手紙とお祝いの品が届けられた。

だが、日米関係の悪化に伴い、日英の関係も悪化したことから互いに手紙のやり取りを控えることになってしまい、交流が絶たれてしまっていた。


その後、日米開戦直後の真珠湾奇襲攻撃において、世界初の航空機動艦隊の一つを率いて遠藤が活躍しただけでなく、ドーリットル隊による帝都東京への爆撃を阻止した遠藤の活躍をトンプソン艦長は人伝えに聞いていた。

そして今、トンプソン艦長と遠藤は敵同士として戦うことになった。

(ヤスオ、我々も負ける訳にはいかないんだ・・・・。)

内心でトンプソン艦長は、強く決意をして『伊勢』と『日向』に挑んでいた。


そして、カーターはトンプソン艦長の決意と覚悟を前に、これ以上の反論はしなかった・・・・。


トンプソン艦長が指揮する『ロイヤル・オーク』が『伊勢』と『日向』に1隻で挑む中、他の3隻の艦長たちはトンプソン艦長の決意と覚悟を悟った。

だからこそ、彼等は日本の巡洋艦と駆逐艦を叩くことに専念して砲撃を続けていた。


やがて、トンプソン艦長の執念が実ったのか、『ロイヤル・オーク』の砲撃が『伊勢』の後方にいた『日向』の後部の三番砲塔付近に3発が命中した。

直後に、『日向』の三番砲塔辺りから黒煙が発生していた。

その黒煙を見て、『ロイヤル・オーク』の艦橋内だけでなく、甲板上にいた乗組員たちから歓声が上がった。


「命中!!命中しましたっ!!」見張り員の一人から報せが入った瞬間、カーターだけでなく艦橋内にいた乗組員たちも歓喜の声を上げた。

(これならば時間稼ぎどころか、もしかすると勝てるかもしれない。)

老朽艦とは言え、高速戦艦に改装された2隻の内1隻を撃沈するだけでなく、この戦いに勝利するが出来たら海軍省に栄転ということも・・・・。

カーターの脳裏に、そんな希望がよぎった。


だが、そんなカーターの希望は、瞬時に奪われた。

宇垣が旗艦にしていた『伊勢』が放った砲弾数発が『ロイヤル・オーク』に次々と命中した。

被害報告が届き、『ロイヤル・オーク』中央部に一弾が命中して火災が発生、もう一弾が後部の水線部近くに命中していた。

特に、後部の水線部近くに命中した被害が深刻だった。

機会室や缶室へ海水が流入して、『ロイヤル・オーク』の速力がみるみるうちに落ちていき、18ノットまで落ちてしまった。


被害報告を聞いたカーターは、唇を強く噛んだ。

(そう簡単には、いかないか・・・・。)

そんなカーターの気持ちを振り払わせるように、トンプソン艦長が叫んだ。

「諦めるなっ!!我々だけでなく日本側も苦しいんだ。もう一踏ん張りだ。あと何発か当てることが出来れば、こちらも勝機を得ることが出来るっ!!」


トンプソン艦長の言葉に、カーターは思い直した。

(そうだ。時間を稼いで他の『ロイヤル・サブリン』、『リヴェンジ』、『レゾリューション』が加われば、俺たちの勝機が高まるっ!!)


まだ、日英双方の凄まじい砲撃戦は、始まったばかりであった・・・・。



____________________


未だに、どちらも勝機が見出せない日英双方による凄絶な砲撃戦。


どちらも、刺し違える覚悟だから、どうなるのでしょうか・・・・😓

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