第49話 戦艦『陸奥』の最期

ー 駆逐艦『谷風』艦橋内 ー


田中の率いる駆逐隊による雷撃と松田が率いる戦艦隊による砲撃で、『ネルソン』と『ロドネイ』の撃沈に成功した。


その様子を確認した有賀も駆逐隊を率いて、自分たちの目標に向かっていた。

(俺たちも、負けていられないな・・・・。)

内心で呟いた有賀が目指していた目標は、キング・ジョージ5世級戦艦『アンソン』だった。


ー 戦艦『アンソン』艦橋内 ー


『ネルソン』と『ロドネイ』の援護に駆け付けた直後にテナント艦長が目にしたのは、日本の駆逐隊と戦艦隊による砲雷撃による『ネルソン』と『ロドネイ』の撃沈されていく姿だった。


「そんな・・・・。『ネルソン』と『ロドネイ』が・・・・。」

愕然としているテナント艦長の元に、見張り員から報せが届いた。

「敵駆逐艦4隻が、接近中っ!!」

報せを受けたテナント艦長は、即座に命じた。

「全砲門、敵駆逐隊に砲撃を開始っ!!敵駆逐隊を決して、近付かせるなっ!!」

戦艦『アンソン』の35.6cm主砲10門が一斉に有賀が率いる駆逐隊に向けて火を噴いた。


戦艦『アンソン』の必死の砲撃を受けながらも、有賀が率いる駆逐隊は砲撃を掻い潜りながら接近しつつあった。

やがて、『アンソン』に対して有効射程距離に到達した有賀は、命じた。

「キング・ジョージ5世級戦艦に向けて、全魚雷、一斉射出だっ!!」

直後、有賀が率いる駆逐隊から61cm酸素魚雷16発が次々と射出された。


ー 戦艦『アンソン』艦橋内 ー


有賀の駆逐隊から魚雷が次々と射出されたのを確認したテナント艦長は、回避運動を命じた。

「取り舵一杯っ!!何としても回避するんだっ!!」

テナント艦長の号令により、『アンソン』は魚雷回避を行った。


しかし、『アンソン』が必死の回避運動をしても、日本海軍が開発酸素魚雷は有効射程距離は20km~25km、雷速は50ノット、加えて純粋酸素を使用している事から雷跡は残さない為に発見が厳しい兵器だ。

その酸素魚雷16本が次々とキング・ジョージ5世級戦艦『アンソン』に向けて雷跡を残さない状況で迫りつつあった・・・・。


必死の回避運動も叶わず、『アンソン』の左舷側に16本の内7本が命中した。

直後、『アンソン』の船体が凄まじい衝撃を受けた上に7つの水柱が高々と発生した。

テナント艦長はすぐさま立ち上がり、被害状況を各自に確認させた。

「被害状況はっ!?」

「一番砲塔及び二番砲塔付近が魚雷命中により火災が発生っ!!海水の注水で火災は鎮火しましたが、これにより一番砲塔と二番砲塔が使用不可になりましたっ!!」

「左舷中央、魚雷が複数命中したことで、大量の海水が流入していますっ!!」

「後部に魚雷が2本命中しましたっ!!特に、後部の水線部近くに命中した被害で、

機会室や缶室へ海水が流入して速力が19,5ノットまで落ちてしまいましたっ!!」


テナント艦長の元に届く報せは、全て最悪な内容ばかりだった。

しかし、テナント艦長は諦めてはいなかった。

「後部の三番砲塔で、後方にいるナガトタイプを砲撃しろっ!!両方は無理でも、1隻ならば叩くことは可能だっ!!」

「駆逐隊にも連絡してくれっ!!駆逐隊にも、後方のナガトタイプに砲撃を集中してくれとなっ!!」

テナント艦長の言葉を聞いて、部下の一人が駆逐隊に通達した。

(このまま、簡単に負ける訳にはいかないっ!!)

テナント艦長は、強い決意と覚悟を抱いていた。


ー 戦艦『長門』艦橋内 ー


松田たちから見ても『アンソン』の被害状況は、かなりの状態でもう一撃を加えたら仕留めることが出来るのではと感じていた。


そこに見張り員たちから報せが入った。

「キング・ジョージ級戦艦が後部の主砲で、『陸奥』に向けて砲撃を再開しましたっ!!」

「敵駆逐艦5隻、『陸奥』に対して砲撃をしながら突進していきましたっ!!」

見張り員たちからの報告に松田は首を傾げたが、すぐに敵の意図に気付いた。

「拙いぞっ!!有賀さんに報せろ。今すぐ敵駆逐艦5隻を阻止しろっ!!」

松田の焦りに、矢野が尋ねた。

「何故ですか?」

「敵は、『長門』からの砲撃を受ける覚悟で、駆逐艦5隻と共に『陸奥』への集中砲撃を始めたんだ。いくら改装された『陸奥』でも集中砲撃を受けたら、ひとたまりもないぞっ!!」

松田の言葉を聞いた矢野たちも、敵の意図を知って顔面蒼白になった。

急ぎ、矢野たちは有賀にも連絡を取った。

同時に松田は命じた。

「我々の『長門』は引き続き、キング・ジョージ5世級戦艦への砲撃を続けろっ!!」


矢野からの連絡を受けて、有賀は駆逐隊で敵の目論見を阻止しようとした。

だが、敵の駆逐隊の方が早かった。

マハン級駆逐艦3隻が『陸奥』に対して牽制砲撃をする中、S級駆逐艦2隻から53.3cm4連装魚雷発射管2基から53.3cm魚雷が16発が、次々と『陸奥』に向けて射出された。

だけど、この大事な戦局の中で装備されていた魚雷の大半が欠陥魚雷だったために途中で誤爆したり、『陸奥』に命中しても信管の故障で不発だったりと16本の内9本が使い物にならないという事態になってしまった。


戦後、歴史研究者たちからは、

『もしも、イギリス東洋艦隊の駆逐隊に装備されていた魚雷の殆どが欠陥魚雷でなかったら、勝敗は違っていたかもしれない。』

と悔やまれる発言が多かった・・・・。


敵駆逐艦の欠陥魚雷のお陰で救われたところはあったが、それでも正常に稼働していた7本の内5本の魚雷が『陸奥』の右舷に次々と命中して、遠藤が率いる5隻の戦艦の中で初めて『陸奥』がイギリス東洋艦隊の攻撃で大きな被害を受けた。

そして、『陸奥』の被害は単なる魚雷命中では済まなかった。

5本の魚雷が命中するのと同時に、『アンソン』で唯一稼働が出来る三番砲塔から放たれた砲弾が、『陸奥』後部の三番砲塔と四番砲塔辺りに直撃した。


直後に、三番砲塔と四番砲塔の間に大規模な爆発と黒煙が立ち上がった。

更に中央部でも小規模ながらも爆発が相次ぎ、最後は中央の後部近くで再び爆発と黒煙が立ち上がり、『陸奥』は爆発を繰り返しながらマレー沖の海中に沈んでいった・・・・。


後にマレー沖艦隊戦後に行われた調査と証言から、『陸奥』の三番砲塔と四番砲塔の間に命中した2~3本の魚雷が命中するのと同時に戦艦『アンソン』の三番砲塔から放たれた砲弾が同じ箇所に直撃で命中した結果、弾薬庫の誘爆を引き起こした。

更に中央の後部に命中した魚雷の爆発が致命傷となり、結果、爆発を繰り返しながら『陸奥』が撃沈することに繋がってしまった。

遠藤が率いる『蒼天の艦隊』の1隻として戦っていた長門型戦艦2番艦であり、『長門』と共に国民に慕われた海軍の象徴である『陸奥』は『長門』と共に『ビッグセブン』の1隻でもあった。


その戦艦『陸奥』が、大改装されてから僅か数ヶ月で、同じ『ビッグセブン』である『ネルソン』、『ロドネイ』と同じ海域に沈んでいった・・・・。



____________________


史実でもミッドウェー海戦の終了後間もなくして、柱島で謎の爆発で沈んだ戦艦『陸奥』。


今回のマレー沖艦隊戦では、イギリス東洋艦隊との砲雷撃の中で凄絶な最期となりました・・・・😢

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