第48話 ネルソン級戦艦の最期

ー 戦艦『土佐』防空指揮所 ー


ロイヤル・サブリン級戦艦4隻、ブルックリン級軽巡洋艦3隻の撃沈を確認した遠藤は、この戦いが終局にきていることを感じていた。


遠藤は、すぐに電話で鼓舞たちに指示を出した。

「鼓舞、宇垣さんの第二戦隊、早川さんの第一巡洋戦隊、木村さんの第二巡洋戦隊、阿部さんの第三巡洋戦隊に伝えてくれ。宇垣さんたちには、撃沈したイギリス戦艦などの生存者の捜索及び救助活動をしてくれとな。」

「えっ!?救助活動ですか?」

「南雲さんたちのことで思うことがあるかもしれないが、ここまできたら助けることが出来るならば、可能な限り救助してほしい。」

鼓舞は少し戸惑ったが、遠藤の指示に賛成してくれた。


鼓舞はすぐに、宇垣たちにも連絡した。

かつて、南雲の部下だった草鹿や源田は思うところはあったが、遠藤の気持ちを尊重した。

宇垣たちも、すぐに遠藤の指示を受け入れて、イギリス兵の捜索及び救助活動を開始した。


そして、遠藤が率いる残りの艦隊は、フィリップス長官が率いるイギリス東洋艦隊との決着をつけるために砲撃を再開していた。


ー 戦艦『プリンス・オブ・ウェールズ』艦橋内 ー


一方、フィリップス長官の闘志は無くなるどころか、更に強くなっていた。

確かに、イギリス東洋艦隊の艦隊は戦艦4隻、駆逐艦5隻だけになってしまったが、遠藤が率いる戦艦3隻、駆逐艦9隻と比べたら決して不利とは言えなかった。


だからこそ、フィリップス長官は新たな指示を出した。

「パリサー参謀長。『アンソン』のテナント艦長に連絡してくれ。『プリンス・オブ・ウェールズ』がトサを叩くから、『ネルソン』と『ロドネイ』の援護に回ってくれと伝えてほしい。」

「我々だけでトサを!?」

「そうだ。『ロドネイ』と『ネルソン』は40cm砲だが、速力が遅い。『アンソン』を加えてナガトタイプ2隻を叩けば、勝利の可能性が高くなる。駆逐艦は、厳しいが敵の駆逐艦を牽制してほしい。」

戦艦『アンソン』の艦長を務めるウィリアム・テナント大佐は、以前は巡洋戦艦『レパルス』の艦長だったが、イギリス東洋艦隊増強決定直後に『アンソン』の艦長に抜擢されていた。


フィリップス長官の考えを聞いたパリサー参謀長は、すぐに各艦に通達を始めた。

(まだ、勝敗は決まっていない。可能性は低いが、諦めるつもりは無いっ!!)

内心で、フィリップス長官は新たに決意していた。


ー 駆逐艦『野分』艦橋内 ー


引き続き、イギリス東洋艦隊との艦隊戦に参加していた田中は、『野分』の艦長に指示を出した。

「艦長。我々は、ネルソン級戦艦2隻に対して雷撃を敢行する。ただし、沈めることに拘る必要は無い。ネルソン級戦艦2隻の砲撃能力を奪うぞっ!!」

田中の指示に、艦長たちは戸惑った。撃沈ではなく砲撃能力を奪えと言ってきていたからだ。


それに対して、田中は断言した。

「以前に若大将たちと研究していた戦術がある。それならば我々でネルソン級戦艦2隻の砲撃能力を奪うことは可能だ。艦長、魚雷射出準備と同時にネルソン級戦艦2隻に接近だっ!!」

田中の言葉を聞いて、艦長たちも慌ただしく動き始めた。


遠藤は、松田たちと対空戦術を研究しているだけでなく、艦隊戦についても研究していた。

その中で、駆逐隊だけで戦艦の撃沈ではなく砲撃能力を奪って他の艦船で止めを刺す戦術を研究していて、田中と有賀も参加していて遠藤と議論を交わしていた。


田中の率いる駆逐隊の動きに対して、イギリス東洋艦隊に残っている駆逐隊5隻は必死に牽制をしようとしていたが、上手くはいっていなかった。

田中が何をしようとしているか気付いた松田が、『長門』と『陸奥』でイギリス東洋艦隊の駆逐艦5隻に対して牽制砲撃をしていたからだ。


松田が指揮する第二戦隊の援護砲撃により、田中の駆逐隊は、『ネルソン』と『ロドネイ』に接近しつつあった。

やがて、田中は命じた。

「ネルソン級戦艦2隻に、全魚雷を一斉射出だっ!!」

田中の号令直後、5隻の駆逐艦から61cm酸素魚雷20本が次々と射出されて、『ネルソン』と『ロドネイ』に向かった。


一方、『ネルソン』と『ロドネイ』の2隻は、速力が遅いが艦長たちの的確な指揮の中で『長門』と『陸奥』を相手に奮戦していた。

そこへ、田中が率いる駆逐隊が魚雷を次々と射出してきたことにより、『ネルソン』と『ロドネイ』は急ぎ、魚雷の回避運動を始めた。

だが、遅い速力が足かせになってしまった。

結果、20本の内12が『ネルソン』と『ロドネイ』に次々と命中して盛大な衝撃音と爆発に加えて、水柱が複数発生した。


雷撃を受けた『ネルソン』と『ロドネイ』は撃沈にはならなかったが、傾斜角度が酷くなっていた。


『ネルソン』と『ロドネイ』の被害状況を確認していた松田は、すかさず矢野に告げた。

「矢野艦長。『陸奥』にも連絡しろ!!今がネルソン級2隻を叩く絶好の機会だとなっ!!」

松田の指示を受けて矢野が『陸奥』にも連絡した後で松田に尋ねた。

「この状況は一体・・・・。」


矢野の疑問に松田は答えた。

「田中さんが狙ったのは、ネルソン級2隻の砲撃能力を奪う事だ。」

戦艦は傾斜角度が10度を超えると弾薬庫から砲弾を上げる揚弾器の使用が不可能になってしまう為に砲撃が出来なくなるからだ。

遠藤が松田たちと研究していた戦術の一つで、相手の砲撃能力を奪って戦艦で止めを刺す方法だった。


実際、『ネルソン』と『ロドネイ』の2隻は、今の雷撃により傾斜角度が10度を超えている状態で、ダメージコントロール(修復作業)が優れていても砲撃再開はすぐには出来ない。

田中が率いる駆逐隊が仕掛けた雷撃により、『ネルソン』と『ロドネイ』の砲撃能力を奪った今、『長門』と『陸奥』は止めを刺す絶好の機会になっていた。


松田の説明に矢野も納得した。

「分かりました。直ちに砲撃を再開して、ネルソン級2隻に砲撃を行いますっ!!」

そう言って、持ち場に戻った。

そんな矢野に苦笑いしつつも、松田は呟いた。

「若大将の言っていたフル活用は、もしかしたら、この事も踏まえて考えていたのかも知れないな・・・。」


直後、『長門』と『陸奥』は『ネルソン』と『ロドネイ』への一斉砲撃を開始した。

『長門』と『陸奥』による凄まじい砲撃の中、何とか『ネルソン』と『ロドネイ』は注水作業などで傾斜復旧をして砲撃を再開したが、砲撃再開をするまでの間に『長門』と『陸奥』の砲撃によってかなりのダメージを受け続けていた。

その後も、『ネルソン』と『ロドネイ』の2隻は『長門』と『陸奥』による砲撃を受け続け、遂にはどちらの艦も主砲全てが破壊された上に砲弾の直撃でどちらの艦橋も原型を留めてはいなかった・・・・。

むしろ、浮いている事自体が奇跡だった2隻だったが、1時間後には『ロドネイ』が沈んでいき、更には『ロドネイ』が沈んだ30分後には後を追う様に『ネルソン』も沈んでいった。


『ネルソン』と『ロドネイ』、かつて『ビッグセブン』に名を連ねていた姉妹艦の最期であった・・・・。



____________________


田中の率いる駆逐隊の雷撃と、松田たちの戦艦隊による砲撃で撃沈された『ネルソン』と『ロドネイ』の2隻。


有賀が率いる駆逐隊も『目標』に向けて突進していきます・・・・。

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