第57話 バターン半島要塞、陥落する

ー 1942年11月下旬 フィリピン ー


マッカーサー将軍が要塞に篭もり続けてから一ヶ月が過ぎていた。


これに対して、本間は要塞の周囲を包囲して兵糧攻めを選択した。

物質、弾薬、食料は、日本からの補給船団が支援していることから問題は無かった。

逆に要塞に篭もり続けているマッカーサー将軍たちは問題だらけだった。


物質、食料、弾薬は、貯蓄していたが、中でも食料の消耗が激しかった。

加えて、要塞にはアメリカ軍の兵士だけでなく地元フィリピン人の兵士たちも篭もっている。

最初は平等に食料は配布されていたが、次第に食料の消耗が激しくなると、アメリカ兵とフィリピン兵の間に格差が出てくるようになった。


これに対して、フィリピン兵たちから不満や抗議が出始めていたが、マッカーサー将軍は「必ず増援が来る。今は耐えて欲しい。」

とフィリピン兵たちを説得して、落ち着かせていた。

マッカーサー将軍は定期的にラジオ放送を通して、アメリカ本国に救援を求める演説を放送をしている。


しかし、現実はアメリカ本国からの増援は無理で、唯一出来たのは潜水艦部隊による日本に対しての通商破壊だけだった。

その潜水艦部隊による通商破壊も、イギリスからの技術提供と兼ねてからの対潜策を作り上げた中で設立された海上護衛艦隊による活躍で通商破壊の成果は芳しくなかった。

最初の通商破壊から2~3回、通商破壊のために潜水艦部隊が派遣されたが、数隻の輸送船を雷撃で撃沈するのに成功したが、全体で見たら日本側にダメージを与える通商破壊としては失敗に終わっていた。


逆にアメリカ海軍が送り込んだ潜水艦部隊の損害は、8割~9割になっていて今では潜水艦の乗組員たちにとって通商破壊に参戦することは『死への片道切符』となっていて、中には退役を希望する兵士も出ていた。


そして、マッカーサー将軍が望む太平洋艦隊は戦力温存に加えて、戦力強化の最中で動かせない状態だった。


更に、日本陸軍が定期的に送り込む連山で編成された爆撃隊と護衛の役割で同行している零戦四二型隊によって、爆撃が行うことで精神面でもアメリカ兵やフィリピン兵に大きな負担を与え続けていた。

最初は迎撃を行っていたアメリカ側も、零戦四二型隊による攻撃で、いつしか航空戦力は壊滅状態になってしまった。


今のマッカーサー将軍が出来るのは、今では定期的に行うラジオ放送を通しての演説と、不満を高めているフィリピン兵たちを宥めることだけとなっていた。

同時に、要塞に篭もり続けて一ヶ月を過ぎた頃には、フィリピン兵たちが徐々に要塞を脱出して日本陸軍に投降し始めていた。

この事態に、本間は将兵たちにジュネーブ条約を尊重するように通達した。


中には、通達を無視して投降したフィリピン兵に虐待をした士官や兵が出たが、本間は遠藤に倣って虐待をした士官や兵たちを本国に強制送還した上で、軍事裁判の後に不名誉除隊を言い渡していた。

この本間の行った行動により、虐待をする士官や兵たちは現れることは無くなっていった。


ー フィリピン マニラ 日本陸軍拠点 ー


徐々に要塞に立て篭もり続けるマッカーサー将軍が率いるアメリカ兵とフィリピン兵に限界が来始めていた。


とは言え、肝心のマッカーサー将軍やアメリカ兵の心を折るには、これといった決め手が足りなかった。

マニラ内の施設を拠点としていた本間や幕僚たちも決定打がなかった。

「ここまで追い詰められているのに、マッカーサー将軍の精神はタフだな・・・・。」

「マッカーサー将軍のプライドの高さが、彼の心を維持させているのでしょうね・・・・。」

「彼の目の前で、これ以上の抵抗は無駄だとハッキリさせる『何か』が必要ですが、どんな方法ならば・・・・。」

本間と幕僚たちは話し合ったが、どんな決定打が良いか案が浮かばなかった。


やがて、本間が口を開いた。

「大本営に連絡してくれ。海軍の若大将に協力を仰ごう。」

この本間の一言が、後にマッカーサー将軍の心をへし折る展開に繋がるのだった・・・・。


ー 帝都東京 首相官邸 ー


執務室の二つのソファーに、二人の人物が座っていた。

一人は官邸の主である東條で、反対側のソファーに座っていたのは遠藤だった。


「本間さんも、マッカーサー将軍のプライドと誇りの高さには、手も足も出ない状態にされるとは・・・・。何が彼の心が折れないように駆り立てているんでしょうね・・・・。」

「我々も、決してマッカーサー将軍を過小評価せずに、連山隊や四式戦車隊で攻めていたのに・・・・。」

万全の対応で責めていたのに、肝心のマッカーサー将軍が徹底抗戦の姿勢を崩さないために、陸軍側も攻めあぐねていた。


本間から大本営に、遠藤の協力が必要という連絡がきた。

陸軍からしたら、陸軍の力で勝利したい気持ちがあったが、変な意地を張る場合ではなかった。

そこで東條が遠藤に連絡をしてきたことから、遠藤が首相官邸を訪ねていた。


「ならば『土佐』で趣いて、マッカーサー将軍の心をへし折りましょう。」

「確かに、今の『土佐』をマッカーサー将軍は知らないでしょうから・・・・。」 

遠藤が『土佐』でマッカーサー将軍の心をへし折る案を、東條も承諾した。


ー 1942年12月15日 フィリピン バターン半島 ー


フィリピンのバターン半島の要塞に立て篭もり続けていたマッカーサー将軍は、定期的に行っているラジオ演説をしていた。

「愛するアメリカ国民の皆さん、日本軍は、我々の倍以上の人員、兵力を持って攻めてきました。食料も兵器も弾薬も欠乏している我が軍の将兵たちは、自由主義陣営を守るために痩せさらばえた身体にムチを打って、遂に日本軍を撃退したっ!!」

「だが、このまま日本軍も黙っていないであろう・・・・。必ず日本軍は自らの威信を掛けて、再び、バターン半島を攻めてくるだろう。一日も早く増援を、フィリピンに兵を、武器を、食料を送ってもらうようにルーズベルト大統領を説得してほしい・・・・!!」 

マッカーサー将軍による演説は、最後は悲壮感を漂わせながら、時には涙を流しながらの演説をしながらラジオ演説は終了した。


ラジオ演説の内容に満足しているマッカーサー将軍に副官のリチャード・ケレンス・サザランド大佐が声を掛けた。

「この演説で、ルーズベルト大統領は我々に増援をしてくれますかね・・・・。」

「ルーズベルト大統領は必ず増援を送るよ。開戦以来、敗北続きでルーズベルト大統領の立場は危うくなっている。失われた太平洋艦隊の復興ばかりしている中で、私のラジオ演説によって国民からの批判も高まるとなれば、ルーズベルト大統領もなりふり構わずにはいられないだろう。」

自信たっぷりにマッカーサー将軍は、サザランド大佐の懸念を払拭した。


実際、マッカーサー将軍の考えは間違っていなかった。

マッカーサー将軍の定期的なラジオ演説が功を奏して、太平洋艦隊の戦力回復と温存を重視していたルーズベルト大統領と陸海軍上層には批判が高まっていた。

流石に、ルーズベルト大統領と陸海軍上層部も国民世論を無視出来なかった。


また、本間たちは撃退された訳ではなく、遠藤への協力を依頼したあとで、当の遠藤から、本間に無理をせずに包囲するだけにするように進言していた。

結果、マッカーサー将軍は本間たちが退いたと勘違いしていただけだった。


そんなこととは知らず、必ず増援が来ることを確信していたマッカーサー将軍たちの元に兵士の一人が慌てて駆け込んできた。

「どうした?」

「ほ、報告しますっ!!マニラ湾内に戦艦が現れましたっ!!」

兵士の報せを聞いたマッカーサー将軍たちは、見張り台へと向かった。


ー マニラ湾内 戦艦『土佐』防空指揮所 ー


2隻の駆逐艦に護衛されながらマニラ湾内に侵入する中、戦艦『土佐』の防空指揮所では遠藤がマッカーサー将軍たちが立て籠もるバターン半島の要塞を双眼鏡で確認していた。


「あれが、マッカーサー将軍が立て籠もっているバターン半島の要塞か・・・・。『土佐』の防空指揮所から見た感想は如何ですか?本間さん。」

遠藤は隣にいる本間に尋ねた。

「普段は地上から見上げる形だったから、『土佐』の防空指揮所から見ると印象が違うな・・・・。」

本間は苦笑いしながら答えた。


遠藤が東條や本間に提案した案とは、戦艦『土佐』によるバターン半島の要塞に対しての艦砲射撃だった。

そして、『土佐』が到着した時に本間自らが遠藤に申し出たことで『土佐』に乗艦していた。

「まぁ、マッカーサー将軍は『土佐』の主砲では届かないと思っているだろうね。」

「でも、今の『土佐』の主砲は違うのだろう?」

本間の言葉に、遠藤は不敵な笑みを浮かべた。


ー バターン半島 要塞 ー


マニラ湾内に現れた戦艦『土佐』の姿に、バターン半島の要塞に立て籠もっていたアメリカ兵やフィリピン兵たちに動揺が走っていた。


「将軍っ!!どうしましょうっ!!」

「落ち着くんだサザランド大佐っ!!確かに、トサタイプは日本海軍の新鋭艦だが、主砲は16インチ(41cm )だ。トサタイプに出来るのは、せいぜい威嚇砲撃だけだから気にすることではない。」

そう言って、サザランド大佐の不安を取り除こうとしていたマッカーサー将軍だったが、兵士の一人が叫んだ。

「敵艦、砲撃を開始しましたっ!!」

兵士が叫んでから少しして、バターン半島の要塞に次々と砲弾が着弾して、中には砲弾の直撃で要塞の一部が崩壊していた。

その光景に、マッカーサー将軍は言葉を失っていた・・・・。


ー 戦艦『土佐』防空指揮所 ー


戦艦『土佐』から放たれた砲弾が、次々とバターン半島の要塞に着弾していく光景を遠藤たちも確認していた。


「若大将っ!!通常弾全ての着弾を確認しましたっ!!敵要塞の一部は崩壊していますっ!!」

靖田の報告を聞いた遠藤は、軽く頷いた上で告げた。

「靖田、引き続き、焼夷弾で更に通常弾で砲撃を続けろっ!!高村砲術長にも、百発百中で命中させろと伝えてくれっ!!」


靖田たちが慌ただしく動く中、本間が遠藤に言った。

「マッカーサー将軍は知らないだろうな。『土佐』の砲身が換装されて、46cm砲になっていることに。」

本間の言葉に遠藤は軽く頷いた。

遠藤が旗艦にしている戦艦『土佐』は、マレー沖艦隊戦後に砲身を換装して45口径41cm砲から、50口径46cm砲に変わっていた。


元々、46cm砲は『一号艦』のために研究や開発が始まっていた。

『一号艦』と『二号艦』が大鳳型空母に生まれ変わることが決定してからも46cm砲の研究は続いていた。

結果、速射率を高めた50口径46cm砲の建造に成功していた。

マレー沖艦隊戦後、日本に帰国した『土佐』は50口径46cmの砲身への換装を行ったのだった。

これにより、『土佐』の最大速力は34ノットから32.5ノットに低下したが、空母の護衛としての役割は十分に果たしていたから支障は無かった。

「第二射、準備が完了しましたっ!!」

靖田の報告を聞いた遠藤は告げた。

「第二射、一斉砲撃開始せよっ!!」

遠藤の指示により、50口径46cm連装砲塔5基が次々と火を噴いた。


従来の41cm砲ならば、マッカーサー将軍が言う通り単なる威嚇砲撃だけだった。

しかし、46cm砲の射程距離は約42kmだから、マッカーサー将軍たちが立て籠もるバターン半島の要塞への艦砲射撃は可能だった。

数回に渡る『土佐』の艦砲射撃によって、バターン半島の要塞は全体の約6割が崩壊して被害が続出していた。

ちなみに、遠藤と本間は既に投降していたフィリピン兵たちの証言から、敢えてフィリピン兵たちが集中していたエリアは意図的に避けていたことから、フィリピン兵たちに被害は出ていなかった。


止めとして、陸軍の連山隊から爆弾ではなく大量の紙チラシが降り注いだ。

紙チラシには、いわゆる風評画が描かれていた。

風評画の内容は、アメリカ人が裕福なフィリピン人には優しく、片や裕福ではないフィリピン人には脅して従わせようとしている絵が描かれていた。

フィリピンはアメリカの植民地だが、数年後にはフィリピンは独立することになっていた。

しかし、アメリカが提案したフィリピン人による新たな国家システムや法律は、裕福なフィリピン人にだけ有利な内容だった。

風評画は、それを示唆していた。

このままアメリカの言いなりになったら、こうなってしまうということを示していた。

結果、崩壊したバターン半島の要塞から、我先にとフィリピン兵たちが次々と離脱していき、日本陸軍に投降していった。


偵察機からの状況報告に、遠藤と本間は軽く溜め息を付いた。

「もう、マッカーサー将軍を支持するフィリピン人は富裕層以外は、皆無だな・・・・。」

「そうですね・・・・。本間さん、フィリピン内で暴動が起きないようにお願いします。もちろん、非人道的な行為は・・・・。」

「分かっているよ。そこは任せてくれ。」

遠藤と本間は、今後のフィリピン対策を話し合った。


それから少しして1942年12月24日、フィリピンのバターン半島の要塞に立て籠もっていたマッカーサー将軍は、日本陸軍に降伏をした。

奇しくも、この日は議会や世論に動かされて、ルーズベルト大統領がアメリカ太平洋艦隊の一部をフィリピンに増援することを決定した日でもあった。


そして、この増援が無意味になった時、ルーズベルト大統領はショックのあまり倒れてしまい、数日間は寝込んでしまった・・・・。



____________________


遂に、陸軍による爆撃や兵糧攻めに加えて、46cm砲に換装した『土佐』による艦砲射撃により、マッカーサー将軍が日本陸軍に降伏しました。


これにより、ルーズベルト大統領の立場は、更に悪化します。


それにより、ルーズベルト大統領は何を仕掛けてくるのでしょうか・・・・?

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