第7話 『トラ トラ トラ』
ー 1941年12月8日 戦艦『土佐』防空指揮所 ー
遠藤は戦艦『土佐』の防空指揮所にいて、風に当たっていた。
既に最終打ち合わせを終えて、第二航空艦隊では、第一次攻撃隊の発艦準備が進められていた。
(予定通りならば、南雲さんが真珠湾に先制攻撃を仕掛けているだろうな。あの人は『翔鶴』と『瑞鶴』を奪われた件で、俺を恨んでいるし俺に対抗心を強く抱いているからな・・・・。)
遠藤は、南雲が自分を恨んでいる事については自覚していた。
遠藤が山本達に自身の『真珠湾攻撃計画』を図上演習でお披露目して採用された。
その時に遠藤は、第二航空艦隊の戦力として第一航空艦隊に配備されていた第五航空戦隊の空母『翔鶴』と空母『瑞鶴』を希望した。
当然だが、南雲は激怒しながら猛反対した。
「俺の艦隊戦力を奪う気かっ!!!」
と言いながら、遠藤に掴み掛かろうとする事態になりかけた。
慌て周りの幕僚達が止めに入って大事にはならなかった。
結局、山本が南雲を説得したことで『翔鶴』と『瑞鶴』は第二航空艦隊に配属されることになった。
とはいえ、この件以降、南雲は遠藤に強い敵愾心を抱いていた。
自信を持って立案した『真珠湾奇襲計画』を遠藤によって否定された黒島も同じだ。
(今のところ、俺をギャフンと言わせたい気持ちが強いから、南雲さんの慎重過ぎる姿勢がないから意外と上手くいくだろうな・・・・。)
遠藤が懸念していたのは、南雲が被害を気にしすぎて真珠湾攻撃を1回で終わらせてしまうのではないかということだった・・・・
。
南雲の周りには、航空戦術に詳しい草鹿の他に源田、第二航空戦隊司令官 山口多聞(やまぐち たもん)少将がいる。
彼らが色々と南雲に助言してくれるだろうが、南雲は慎重過ぎると同時に頑固なところもあるから山口たちの意見を聞かないのではという懸念があった。
だからこそ、遠藤は第一報を待っていた・・・・。
少しして、鼓舞、風間、淵田が『土佐』の防空指揮所に現れた。
「南雲さんから報せが来たか。」
遠藤の言葉に鼓舞が答えた。
「はい。内容は『トラ トラ トラ』でした。」
「そうか、『ワレ奇襲ニ成功セリ』か。打電したのは、『ブーツ』だな。」
『ブーツ』とは、空母『赤城』の飛行隊長であり、『雷撃の神様』や『ブーツ』の呼び名を持っている村田重治(むらた しげはる)少佐だった。
遠藤と村田は、淵田と久我を通して知り合い航空戦術を話し合っていた。
その際、村田は遠藤と樋端から二人が考えた新たな航空戦術も教えて貰っていた。
遠藤と樋端の航空戦術には村田も驚き、南雲に「我々も新たな航空戦術を会得すべきです」と進言していた。
しかし、南雲によって却下されてしまっていた。
草鹿や源田だけでなく、第二航空戦隊の山口も賛同したが、南雲は「第一航空戦隊と第二航空戦隊の搭乗員達ならば、従来の戦術でも対応出来る」と言って聞き入れなかった。
また、第一航空戦隊と第二航空戦隊の一部の搭乗員達は遠藤を若輩者として反発していた事もあって、結局、村田の進言は却下されてしまった。
とにもかくにも、第一航空艦隊は真珠湾への奇襲攻撃開始に成功した。
ならば、次は自分達の番だと遠藤は拳を強く握りしめた。
(南雲さん、俺だってあなたに勝るとも劣らない『負けず嫌い』ですからね・・・・。)
____________________
遂に始まった真珠湾攻撃。
南雲に続く形で、遠藤が率いる第二航空艦隊の活躍は如何に・・・・・。
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