第6話 若大将の幕僚達

ー 1941年 12月 太平洋上 第二航空艦隊旗艦・戦艦『土佐』会議室 ー


日本大使館で発表されたアメリカに対しての宣戦布告と経緯や内容によって、世界中に大々的に報じられた頃・・・。


戦艦『土佐』の会議室では、遠藤を支える幕僚達が集まっていた。

「しかし、若大将が野村さん達に提示したハル・ノートに対しての強烈なカウンターパンチ。今頃、ルーズベルト大統領達はかなり悔しがっているだろうな。」

愉快に笑いながら、鼓舞は感想を述べた。

それに対して辛辣な発言をしたのは、第二航空艦隊 航空甲参謀 久我直樹(くが なおき)中佐だった。

「アメリカやイギリスが出来もしない提案を、軽々しく日本に提案した結果が今の状態ですからね・・・。」

久我は、南雲が率いる第一航空艦隊航空乙参謀 源田実(げんだ みのる)中佐とは海軍兵学校時代の同期で、彼も早い頃から航空主兵論を唱えていた。

しかし、ストレートに主張し過ぎる所があり、何度か出世を逃している経歴があった。


そして久我の言う通り、日本大使館の記者会見後はアメリカやイギリスなどは沈黙を貫いているが、アジア各国を中心にアメリカやイギリスなどに批判が集中するようになっていた。

勿論、今は沈黙しているが開戦後は日本を叩いて、今回の事を有耶無耶にしようと考えているのは、間違い無かった。


幕僚達が色々な感想を述べている中で、一人だけが仏頂面しながら黙っていた。

そんな彼に久我が声を掛けた。

「なんだ、まだ若大将によって前線から外された事を恨んでいるのか?淵田。」

仏頂面していた第二航空艦隊航空乙参謀 淵田美津夫(ふちだ みつお)中佐は答えた。

「当たり前やろっ!!一番で真珠湾に乗り込んで魚雷を敵艦にブチ込んでやると決意しておったのに、それを直前になってあの人はっ・・・!!」

これには、鼓舞達も淵田に対して苦笑いと同情しか無かった。

特に、久我にとって淵田は源田と同じで、海軍兵学校時代の同期であり友人でもあったから久我は淵田の悔しい気持ちは理解していた。


当初、淵田は少佐として空母『赤城』に乗り込んでいて、真珠湾攻撃時には九七式艦攻に搭乗して艦攻隊隊長として九七式艦攻隊を率いる予定だった。

それを出撃前の1ヶ月前に遠藤の強い希望と遠藤による淵田への説得で中佐に昇進の上で航空乙参謀に任命された経緯がある。

だから、時々、こんな感じで淵田は愚痴をこぼしていた。


そんな淵田に鼓舞は、尋ねた。

「しかし、若大将の熱望や説得が有ったからとは言え、今回の航空乙参謀をよく引き受けたな?」

すると仏頂面していた淵田は一転していたずらっ子みたいな笑みを浮かべた。

(淵田の奴、若大将に何か条件を提示したな・・・。)

同期であり友人の久我は、すぐに察した。


そして、淵田が鼓舞の疑問に答える前に会議室の扉が開くと同時に現れた遠藤が、鼓舞の疑問に答えた。

「もしも敵空母を発見した際に、九七式艦攻に搭乗しての出撃許可をくれるならば、航空乙参謀を引き受けますと言われたからな。」

遠藤の回答に鼓舞達は納得すると同時に、淵田の抜け目ない提案に苦笑いした。


そんな淵田の条件に呆れたのは、航海参謀である遠山宏明(とおやま ひろあき)中佐だ。

遠山は、航海士として優れていたが真面目過ぎて彼を快く思わない連中がいて、一時は予備役の話があったが遠藤が遠山を第二航空艦隊の航海参謀として抜擢した。

「淵田さん、忘れたんですか?『エンタープライズ』と『レキシントン』は、現在、真珠湾を離れてミッドウェー島とウェーク島に航空機の補充をする輸送任務で不在ですよ・・・。」


遠藤が現地で雇っている諜報員から、アメリカ太平洋艦隊に所属する空母『エンタープライズ』と空母『レキシントン』がミッドウェー島とウェーク島の基地へ航空機を補充する為に真珠湾を離れているという報告があった。

また、空母『サラトガ』は修復作業の為にサンディエゴに移っていて、こちらも不在だった。

既に遠藤は、鼓舞達にも話していた。

「そうやった・・・・。」

一転して淵田は、絶望的な顔になった。

そんな淵田に遠藤は、

「淵田、そんなに落ち込むなよ・・・・

。どこかでチャンスがあるかも知れない、諦めるなよ。」と言った。

遠藤の言葉を受けて、淵田は立ち直った。


淵田も立ち直った中、遠藤は集まっている幕僚達を見回しながら言った。

「皆、いよいよ真珠湾を攻撃する。南雲さんの第一航空艦隊と共にアメリカ太平洋艦隊の艦船だけでなく、飛行場、真珠湾の基地施設、燃料タンク施設を叩く。

「少なくとも、飛行場や基地施設は2~3年くらいは使用が出来ないくらい叩くから、皆も肝に銘じてくれ。」

遠藤の言葉に皆が頷く中、一人の男が手を上げて質問してきた。

「若大将、堂々の宣戦布告をして良かったのでしょうか?真珠湾への奇襲攻撃がし辛くなりましたが・・・・。」

そう言ったのは、通信参謀の佐野六郎(さの ろくろう)中佐だ。

佐野は、遠藤の亡き祖父・遠藤宗泰(えんどう むねやす)の友人である阿曇誠之進(あづみ とものしん)中佐の部下だった士官で、阿雲の推薦で起用した士官だ。

阿雲中佐曰く、「佐野は赤煉瓦(海軍省)勤めが多いが、実戦を積めばお前の力強い部下になるぞ。」との事だった。

阿雲は身内贔屓をしないから、直接、佐野と話し合った結果、まだ粗い部分があるけど、阿雲中佐の言う通りの人材だとして通信参謀として起用するに至った。


そんな中、細い体格をした男が話した。

「さっき、佐野が言っていたのはモールス信号でアメリカ側に宣戦布告した件だろ?」

「野村さん達が遅れた訳ではないが、念には念を入れた方が良い。」

佐野の質問に答えたのは、作戦参謀の風間俊介(かざま しゅんすけ)中佐だ。

風間は、鼓舞と樋端の海軍兵学校の同期かつ友人だった。

鼓舞と樋端の推薦があって、直接、風間と話し合い鼓舞と同じように優れた人物という事で作戦参謀に着任してもらう事になった。


そして、風間の言っていたモールス信号による宣戦布告は、野村達だけでなく後からアメリカから言い掛かりを受けないようする為に遠藤がアメリカ側にモールス信号による宣戦布告を行っていたのだった。


(少なくとも、アメリカ側に言い掛かりや言い訳をさせない状態に出来たな・・・・。)

鼓舞を始めとする第二航空艦隊の幕僚達を前に、遠藤は作戦決行を間近にしている真珠湾攻撃に強い意気込みを感じていた・・・・・。



____________________


いよいよ始まろうとしている真珠湾攻撃。


遠藤が山本達に提案した二正面作戦に、注目ですね・・・・・。



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