第39話 第一航空部隊と第六航空戦隊の協同攻撃
ー サイゴン 第一航空部隊 司令部 ー
サイゴンの第一航空部隊司令部に一本の電報が届いた。
その電報を受け取った松永は、全身が雷に打たれたような感じだった。
電報内容は、大規模な戦力増強をしたイギリス東洋艦隊を発見したことから、第六航空戦隊の航空戦力と共にイギリス東洋艦隊の空母部隊を叩くという内容だった。
そして、イギリス東洋艦隊撃破のチャンスが来たことは、すぐに第一航空部隊内にも話が広まった。
すぐに松永は、テンションが高まっている隊員たちを広場に集めて説明を始めた。
「既に皆には話しが広まっているが、改めて説明する。現在、第二航空艦隊と陸軍の第25軍がマレーシア攻略作戦を始めているが、その阻止をするために戦力強化されたイギリス東洋艦隊がマレーシアに向かっている。」
「我々の第一航空部隊は、第二航空艦隊所属の第六航空戦隊と共にイギリス東洋艦隊の空母部隊を叩くっ!!」
松永の言葉に更にテンションが上がる隊員たちを落ち着かせながら、松永は話を続けた。
「第六航空戦隊は空母部隊を護衛する巡洋艦や駆逐艦を撃破して、対空射撃の弾幕密度を下げる。そこを我々の第一航空部隊の陸攻部隊による雷撃で、空母部隊を叩く。」
隊員たちも遠藤や樋端たちが生み出した新たな航空戦術は知っていた。
既に、真珠湾奇襲攻撃で空母『エンタープライズ』と空母『レキシントン』の撃沈で証明していた。
最後に松永は隊員たちに告げた。
「若大将と同じく、俺も人材と人命を重要視している。無謀な行動で命を落とすなどは、絶対に許さない。以上だっ!!」
もちろん、これで被害はゼロにはならない。
それでも、出来る限り多くの隊員たちが生還してほしいことを松永も望んでいたのだった・・・・。
解散後、各自の陸攻に搭乗を始めようとしていた隊員の中に、一式陸攻改三四型のパイロットである帆足正音(ほあし まさね)少尉がいた。
帆足は、予科練(予科練習生の略で、徴兵前の民間人から徴募した下士官兵の候補者)出身で予科練修了後の飛行訓練生などの教育を受けてパイロットになっていた。
そして、当時の帆足の教官をしていたのが、霞ヶ浦航空隊で教官を務めていた久我だった。
その久我は現在、第二航空艦隊の航空甲参謀として活躍している。
(まさか、当時の教官だった久我さんが、今では若大将の元で航空参謀とはな・・・・。人生、何があるか分からないな・・・・。)
内心で帆足は、久我との腐れ縁に苦笑いしていた・・・・。
そして、松永の訓示が行われてから一時間後、サイゴン郊外の飛行場から第一航空部隊指揮下の陸攻隊88機が次々と出撃した。
編成は以下の通りである。
元山空(三個中隊) 25機
九六式陸攻(雷装) 第一、第二中隊
九六式陸攻(爆装) 第三中隊
美幌空(四個中隊) 33機
九六式陸攻(雷装) 第四中隊
九六式陸攻(爆装) 第一~第三中隊
鹿屋空(三個中隊) 30機
一式陸攻改三四型(雷装) 第一~第三中隊
総計88機である。
本来ならば、全てに一式陸攻改三四型を配備したかったが、生産の関係で全てに行き渡ることが出来なかった。
一方、遠藤の方は第六航空戦隊の『舞鶴』、『紅鶴』を、第一防空戦隊の『阿賀野』、『能代』と第一防空駆逐隊の『秋月』、『照月』、『涼月』、『初月』が護衛する形で同行させて空母部隊攻撃のために送り込んでいた。
そして、サイゴンから第一航空部隊が出撃したのに合わせて、『舞鶴』と『紅鶴』から攻撃隊が次々と発艦していった。
攻撃隊の編成内容は、
零式艦上戦闘機四二型:60機
彗星一一型:10機
九七式艦上攻撃機(雷装):10機
以上が、第六航空戦隊から発艦した攻撃隊だった。
また、攻撃隊より前に二式艦偵が6機、誘導役として発艦していた。
また、今回から戦闘機は零戦から零戦四二型に変わり、艦爆機は九九式から彗星に変わった。
ちなみに、九七式艦攻の後継機はエンジンの開発に遅れが生じていて、今作戦では従来の九七式艦攻のままだった。
先行している二式艦偵数機により、既にイギリス東洋艦隊の場所は特定されていた。
その際に新たに判明したのは、イギリス東洋艦隊の空母部隊の艦載機が、イギリスのスピットファイアやソードフィッシュも確認出来たが、他にもアメリカのワイルドキャット、ドーントレスだけでなく最新鋭の艦攻アヴェンジャーが確認されていた。
この辺りの理由も、対日戦に互角以上に戦って勝ってもらいたいアメリカの思惑があった。
ー 戦艦『プリンス・オブ・ウェールズ』艦橋内 ー
一方、イギリス東洋艦隊は臨戦態勢に入っていた。
数分前に、日本海軍の偵察機を発見した。
すぐに空母部隊から迎撃のためにスピットファイア隊やワイルドキャット隊が出撃したが、逃げられてしまった。
引き続き、警戒をしている中でフィリップス長官はパリサー参謀長に尋ねた。
「参謀長、先ほどの日本の偵察機は新型なのか?」
「はい。パイロットたちの話では、機首の特徴から液冷エンジン搭載の機体とのことでした。更に、その偵察機は我々の追撃を躱しながら速い速度で離脱したそうです。」
パリサー参謀長の話を聞いたフィリップス長官は考え込んだ。
(情報部によると、日本も新型戦闘機を開発しているが、その中に液冷エンジンを搭載した機体もあると聞く。いくらワイルドキャットも加勢しているとは言え、状況が厳しいのには変わりないか・・・・。)
改めて、フィリップス長官は戦力強化していても楽観視が出来ないことを痛感していた。
そんなフィリップス長官たちに、レーダー室から連絡が入った。
『北西に多数の機影を確認っ!!』
フィリップス長官たちは、双眼鏡で機影を確認した。
機影から艦載機だけでなく、双発爆撃機が確認された。
ー 一式陸攻改三四型 操縦席 ー
一式陸攻改三四型の操縦席にいた帆足は、目視で確認が出来つつあるイギリス東洋艦隊の規模に驚愕していた。
事前に聞かされていたとは言え、戦艦や空母も多数が確認されていたことから、目標は戦艦でも良いのではないかと思った。
しかし、遠藤や樋端たちが生み出した新たな航空戦術の内容や根拠を考えたら、それは愚策だと考え直した。
今の自分たちが成すべきことを優先する気持ちに切り替えた。
すぐに5隻の空母から、スピットファイア隊やワイルドキャット隊が迎撃のために飛び立った。
彼等からしたら護衛無しの爆撃隊は格好の的になるはずだった。
しかし、一方的な蹂躙が始まるはずが、逆に苦戦を強いられる展開になった。
九六式陸攻や一式陸攻改三四型に装備されている機銃による弾幕などで、簡単に撃墜出来ないばかりか逆に被弾か撃墜される状態だった。
「くそっ!!何で撃墜が出来ないんだっ!!」
「それに、こちらを確実に仕留めようとする射撃をしやがるっ!!」
スピットファイアやワイルドキャットのパイロットたちも愚痴をこぼしていた。
スピットファイアやワイルドキャットのパイロットたちが愚痴るのも無理はなかった。
今回の陸攻隊が行っていた射撃は、遠藤が第一戦隊の司令官松田千秋(まつだ ちあき)少将、第一防空戦隊の司令官野村留吉(のむら とめきち)少将、第一防空駆逐隊の司令官中瀬泝(なかせ のぼる)少将と共に考案した航空機相手の高角砲や機銃による新しい弾幕射撃法の応用だった。
松田、野村、中瀬は真珠湾作戦後に海軍内部に『戦艦は無用の長物』という風潮が出始めていた時に戦艦が航空部隊相手に爆弾や魚雷を回避する対応の研究やシミュレーションをしていた。
そこで遠藤が松田たちに提案したのが、高角砲や機銃による弾幕射撃法だった。
高角砲要員達や機銃要員達に、予め持ち場の攻撃範囲を与え、1機の撃墜に拘らずに与えられた範囲内に飛び込んで来た機体だけを高角砲や機銃で攻撃する方法だ。
今回の陸攻隊が行った新しい弾幕射撃法の応用により、スピットファイアやワイルドキャットは一方的な蹂躙が出来なかった。
しかし、弾幕射撃で善戦していたが九六式陸攻は一式陸攻改三四型と違って防御力が低いために、約8機の九六式陸攻が被弾または撃墜されてしまった。
そこに、第六戦隊から出撃した航空隊が到着して、反撃を開始した零戦四二型隊によってスピットファイアやワイルドキャットの多数が被弾か撃墜される展開になった。
やがて、飛行隊長からの突撃指令で陸攻隊、艦爆隊、艦攻隊が、攻撃に入った。
一方、5隻の空母を護るイギリス東洋艦隊の戦艦、巡洋艦、駆逐艦が対空砲や対空機銃で空母を護ろうとしていた。
各艦から対空射撃が展開する中を掻い潜り、空母を護る戦艦、巡洋艦、駆逐艦を狙い定めた。
激しい弾幕射撃の中、帆足の操縦する一式陸攻改三四型の左主翼に対空射撃が命中した。
部下から報告を受けた帆足は、搭乗員たちを落ち着かせた。
「落ち着けっ!!この三四型は、これまでの一式陸攻と違ってちょっとやそっとでは炎上することは無いっ!!このまま、目標の巡洋艦を攻撃するぞっ!!」
弾幕を掻い潜った帆足たちを始めとする一式陸攻改三四型3機は、海面スレスレを飛行しながらヨーク級重巡洋艦 『エクセター』に狙いを定めて照準に捉えた直後、各機が計3本の800kg魚雷を次々と投下した。
帆足たちの三四型に捉えられた『エクセター』の艦橋内が慌ただしくなっていた。
「艦長、3機の双発爆撃機が魚雷を投下しましたっ!!」
「くそっ!!取り舵一杯だ、急げっ!!」
『エクセター』の艦長たちは、自分たちの艦に放たれた3本の魚雷を躱そうと必死だった。
だが回避が間に合わず、結果、3本中2本の800kg魚雷が『エクセター』左舷に相次いで命中した。
直後、3機の彗星が500kg爆弾を投下して、反跳爆撃によって『エクセター』の艦橋及び第一砲塔に命中させることに成功。
艦長を始めとする艦橋内の乗組員が全滅したことで指揮系統を失った『エクセター』は、一時間後には左舷から海中に沈んでいった・・・・。
重巡洋艦『エクセター』を撃沈したことを切っ掛けにして、『エクセター』がいた周辺海域にいた巡洋艦や駆逐艦が集中的に狙われた。
狙われた巡洋艦や駆逐艦は必死に抵抗して高角砲や機銃で数機の九六式陸攻、九七式艦攻などを撃墜した。
そして、友軍数機が撃墜される中をくぐり抜けた他の九六式陸攻、一式陸攻改三四型、彗星、九七式艦攻が爆弾や魚雷を次々と投下していった。
結果、『エクセター』の近辺にいたブルックリン級軽巡洋艦『フィラデルフィア』、マハン級駆逐艦2隻、エメラルド級軽巡洋艦『エメラルド』、『エンタープライズ』、S級駆逐艦2隻が撃沈または大破炎上して航行不能になってしまった。
これにより、5隻の空母を護っていた防御の壁が崩れた。
そこへ一式陸攻改三四型15機が、5隻の空母の内『ハーミズ』、『アイオワ』、『ニュージャージー』の3隻を捉えて、次々と800kg魚雷を投下していった。
捉えられた『ハーミズ』、『アイオワ』、『ニュージャージー』の3隻は、回避する間もなく次々と魚雷が命中した。
そして、『ハーミズ』は3本の魚雷が命中して30分後には沈んでいった。
『ニュージャージー』は5本の魚雷が命中してしまい、乗組員たちの必死のダメージコントロールで船体の傾斜回復を目指したが、命中した側から船体が傾いていき海中に沈んだ。
そして、『アイオワ』は4本の魚雷が命中しただけでなく、その内の2本が船体後部に命中しただけでなくスクリュー及び舵が破壊されてしまい航行不能になってしまい、最後は自沈処理となった。
攻撃を逃れた2隻の空母『ヴィクトリアス』と『インドミタブル』は、これ以上今いる海域に留まるのは危険と判断したフィリップス長官によりD級軽巡洋艦『ダナイー』、『ドラゴン』と4隻のS級駆逐艦と共に離脱していった。
一方で攻撃を終えた第一航空部隊と第六航空戦隊の残存機は帰途に就いた。
犠牲は出たが、第一航空部隊と第六航空戦隊による協同攻撃によって、イギリス東洋艦隊の航空戦力を削っただけでなく残存艦空母を撤退させることに成功したのだった・・・・。
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第一航空部隊と第六航空戦隊の協同攻撃により、イギリス東洋艦隊の5隻の空母の内3隻を撃沈または撃破して、残りの2隻の空母を撤退させることに成功した日本海軍。
しかし、未だにイギリス東洋艦隊には戦艦部隊が健在している。
いよいよ、戦艦同士の戦いに移りつつあります・・・・。
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