第38話 強化されたイギリス東洋艦隊

ー 戦艦『土佐』会議室 ー


イギリス東洋艦隊の発見により、日本軍側は慌ただしくなっていた。

遠藤は、艦隊を合流させた後に『土佐』の会議室には第二航空艦隊の幕僚たちだけでなく、各艦船隊の司令官にも集まってもらっていた。

そして、会議室には陸軍を代表して山下も出席していた。


全員が集まった中で遠藤が話し始めた。

「皆に集まってもらったところで、話そう。潜水艦『伊65』がイギリス東洋艦隊を発見した。詳しいことは鼓舞に説明してもらう。」

遠藤から引き継がれる形で鼓舞が説明を始めた。

鼓舞の説明を聞いた皆が驚いたのは、イギリス東洋艦隊の艦隊規模だった。

マレーシア及びシンガポールへの侵攻作戦前に入手したイギリス東洋艦隊の規模は、戦艦1隻、巡洋戦艦1隻、空母3隻、重巡洋艦3隻、軽巡洋艦4隻、駆逐艦12隻の規模だった。

しかし、潜水艦『伊65』が発見したイギリス東洋艦隊は、戦艦9隻、巡洋戦艦1隻、空母5隻、巡洋艦12隻、駆逐艦22隻と増えていて、まるでイギリス海軍の全戦力を集結させたような大規模な艦隊となっていた。


説明が終わった中で、原が感想を述べた。

「この艦隊規模、開戦前のアメリカ太平洋艦隊を凌駕するな。」

「だが、イギリス海軍の台所事情は我々の日本と変わらないし、新たな空母2隻も気になりますね。イギリス海軍の正規空母は少なかった筈では・・・・。」

原の疑問はもっともだが、その疑問に遠藤が答えた。

「以前に山本さんたちとの会議でも話したけど、イギリス海軍も一部の艦船を前倒しで竣工させているし、アメリカが自国のドックで戦時急造で竣工させた空母、巡洋艦、駆逐艦をイギリスに売却しているからな・・・・。」


原の疑問に遠藤が答えたが、更に遠藤が驚きの情報を話した。

「空母2隻は、アメリカのドックで竣工した戦時急造空母だが、この2隻はアメリカの新造戦艦になる筈だったアイオワ級戦艦の船体を利用して空母として竣工させたようだ。」

この情報には、鼓舞たちも驚愕した。

アイオワ級戦艦は、日本の新造戦艦に対抗するために建造が始まっていたアメリカ海軍の新造戦艦だ。

遠藤が独自の情報網で新たに得た情報では、初戦で失った空母『エンタープライズ』と空母『レキシントン』の穴埋めとして急遽、方針転換されたとのことだった。


更に遠藤は話を続けた。

「アメリカがイギリスに対して支援をしているのは、今に始まったわけではない。だけど、イギリスからしたら対ドイツ戦で踏ん張っているけど、限界がある。」

「そして、アメリカは我々の日本との戦いに早く決着してから、イギリスと共にドイツを叩きたい。だから、空母、巡洋艦、駆逐艦をイギリスに安値で売却したんだろう。ここまでくると大盤振る舞いだな。」


遠藤が話を終えると会議室内が静まり返ったが、すぐに源田が遠藤に尋ねた。

「しかし、若大将。アメリカだって慈善事業をしているわけではありません。違う思惑があるのでは?」

「源田の言う通り、アメリカは慈善事業をしているわけではない。恐らくアメリカと言うよりルーズベルト大統領は、イギリスに貸しを作ると同時にイギリスに時間を稼いでもらう算段だろう。」

「算段ですか?」

「そうだ。アメリカはイギリスに時間稼ぎをしてもらうだけでなく、我々の日本海軍にも時間稼ぎをして戦時大量生産で日本海軍に対抗する戦艦、空母、巡洋艦、駆逐艦を大量生産して圧倒的な物量で我々を叩くつもりだろう・・・・。」


遠藤が話したアメリカの思惑に、その場にいた全員が絶句した。

鼓舞たちもまた、アメリカが戦時大量生産して圧倒的な物量で攻めてきたら、自分たちの敗北は避けられないのは一致した考えだった。

しかし、そんな鼓舞たちに遠藤が続けた。

「確かに圧倒的物量になれば、俺たちに待つのは敗北しかない。だけど、こちらがアメリカの戦時大量生産が整う前にアメリカ国民の心を挫かせて、アメリカの対日戦を挫折させれば良いんだ。」

「そして、今回のイギリス東洋艦隊も今作戦で一気に決着を付けるっ!!」

遠藤の言葉を聞いた鼓舞たちも、挫けそうになっていた気持ちを奮い立たせた。


そんな中で久我が提案をしてきた。

「若大将。こちらの空母の航空戦力でイギリス東洋艦隊の戦力を削ってから、艦隊戦で残りの戦力を叩くべきでは?」

だが、風間と遠山が異議を唱えた。

「それは駄目だ。現在いる第二航空艦隊の空母は山下さんが率いる陸軍を支援している。その中で、空母を支援から外すのは得策ではない。」

「そうだ。それに空母4隻の戦力だけでイギリス東洋艦隊の戦力を削るのは、厳しいぞ・・・・。」

二人の異議に久我も反論は出来なかった。


そこで、淵田が遠藤に尋ねた。

「若大将。何か策があんのやろ?」

「さすが、淵田だな。」

そう言って、遠藤は山下の方に向いて言った。

「山下さんの支援は予定通り続けます。空母は、第七航空戦隊の『大鳳』と『白鳳』を護衛の駆逐艦4隻と共に残します。」

「その上で、第六航空戦隊の『舞鶴』と『紅鶴』は第一防空戦隊と第一防空駆逐隊と共にイギリス東洋艦隊の空母艦隊を叩いてもらう。」

遠藤の意見に皆が驚愕する中で、佐野が反論した。

「若大将、駄目ですっ!!第六航空戦隊の空母2隻だけで敵空母戦力を叩くのは、逆にこちらの戦力を激しく消耗してしまいますっ!!」

「早とちりするな佐野。敵空母戦力を叩くのに必要な戦力は、空母だけでは無いぞ。忘れたのか佐野、サイゴン(現ホーチミン)に駐在する戦力を・・・・。」

それを聞いた佐野も気付いた。

「松永司令が指揮している第一航空部隊指揮下の海軍第二十二航空戦隊っ!?」


サイゴンがあるベトナムはフランスの植民地だったが、フランスがドイツに降伏すると、日本はフランスと協定を結んで1941年7月からベトナム全土に進駐していた。

ただし、日本軍はベトナムに駐留するに留まり、行政に関してはベトナム現地の人々に行政指導をしながら任せている。

そして、サイゴンには松永貞市(まつなが さだいち)少将指揮下の海軍第二十二航空戦隊が配属されていた。

そして、海軍第二十二航空戦隊の鹿屋航空隊には、最新鋭の双発爆撃機である一式陸攻改三四型が30機いた。

一式陸攻改三四型は、防弾能力が低かった一式陸攻を改良した機体で、エンジンや武装の強化だけでなく燃料タンクを防弾防漏式にして、被弾したら炭酸ガス自動噴出方式で消火する装置を備えていた。

そんな『切り札』の一つである、一式陸攻改三四型を30機で編成された鹿屋航空隊も含む第一航空部隊に出撃命令が下されようとしていた・・・・。


ー 戦艦『プリンス・オブ・ウェールズ』艦橋内 ー


戦艦『プリンス・オブ・ウェールズ』の艦橋内でフィリップス長官は、焦りを感じていた。


二時間前にマレーシア駐在のイギリス陸軍から『日本海軍ニヨル艦砲射撃ヲ受ケル』の緊急伝を受けたからだ。

フィリップス長官が率いるイギリス東洋艦隊は、パプアニューギニアのポートモレスビーでアメリカから売却された艦隊と合流していた。

これにより強化されたイギリス東洋艦隊は、以下の通りとなった。

キング・ジョージ・5世級戦艦

『プリンス・オブ・ウェールズ』(旗艦)

キング・ジョージ5世級

『デューク・オブ・ヨーク』、『アンソン』

ネルソン級戦艦

『ネルソン』、『ロドネイ』

ロイヤル・サブリン級戦艦

『ロイヤルサブリン』、『ロイヤルオーク』、『リヴェンジ』、『レゾリューション』

イラストリアス級装甲空母

『ヴィクトリアス』、『インドミタブル』

ハーミズ級空母 『ハーミズ』

アイオワ級空母

『アイオワ』、『ニュージャージー』

ヨーク級重巡洋艦

『ヨーク』、『エクセター』

ロンドン級重巡洋艦

『ロンドン』、『デヴォンシャー』、

エメラルド級軽巡洋艦

『エメラルド』、『エンタープライズ』

ブルックリン級軽巡洋艦

『ブルックリン』、『フィラデルフィア』、『サバンナ』、『ナッシュビル』

D級軽巡洋艦

『ダナイー』、『ドラゴン』

S級駆逐艦 12隻 マハン級駆逐艦10隻


その規模は、開戦前のアメリカ太平洋艦隊を凌ぐ艦隊規模になっていた。

なお、巡洋戦艦『レパルス』は増援艦隊と入れ替わりに、イギリス本国に戻されていた。

しかし、合流に遅れが生じてしまい、現在、途中で給油をしながらマレーシアの友軍救援及び日本軍撃破のために急いでいた。


そんな友軍救援及び日本軍撃破に向かうイギリス東洋艦隊を、マレーシア周辺海域から索敵範囲を拡大していた潜水艦『伊65』が捉えたのだった・・・・。



____________________


遂に捉えたイギリス東洋艦隊。


しかし、アメリカから売却された艦隊とイギリス本国から増援された艦隊で、その規模は最大規模の艦隊になっていた・・・・。


それに対して、若大将はどんな形でイギリス東洋艦隊に挑むのか・・・・?

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