第22話 真珠湾に向かう『もう一つの牙』

ー 空母『翔鶴』艦橋内 ー


アメリカの空母『エンタープライズ』と空母『レキシントン』を撃沈したことで空母『翔鶴』の艦橋内だけでなく艦全体が歓喜に包まれていた。


そんな歓喜の中で、第五航空戦隊司令官の原忠一(はら ちゅういち)少将は考え事をしていた。

『キングコング』の渾名がある原も、遠藤が久我や淵田を通して第五航空戦隊と第六航空戦隊のパイロット達に教えた『新たな航空戦術』には、驚きを隠せなかった・・・。

模擬戦でお披露目されても、まだ半信半疑だった。

だが、今回の『エンタープライズ』と『レキシントン』の撃沈の報せを受けて、原も考えを改める事にした。

(今回の新たな戦術で、いきなり今回の成果とは・・・・。改めて、若大将には脱帽だな。恐らく、俺以上にあいつも同じ気持ちだろうな・・・・。)


ー 空母『舞鶴』艦橋内 ー


その頃、原が言っていた『あいつ』こと第六航空戦隊司令官の角田覚治(かくた かくじ)少将もまた、空母『舞鶴』の艦橋内で歓喜に沸き立つ幕僚たちを余所に彼も原と同じく考え事をしてた・・・・。

(今回、空母『エンタープライズ』と空母『レキシントン』を撃沈出来た・・・。山口さんの言う通り、遠藤・・・いや若大将がどれだけ凄いか、痛感したな・・・。)

実は、角田は遠藤よりも山口を高く評価していた。

山口より一期上の先輩である角田だが、「山口の下でならば、喜んで戦いたい」と言う程だった。

実際に、第二航空艦隊の設立が決まった時、司令長官は山口が選ばれると角田は思っていた。

だが蓋を開けてみれば、山口は第二航空戦隊の司令官のままで、第二航空艦隊の司令長官には遠藤が抜擢された。

角田は何度も山本に抗議したが受け入れて貰えず、山口少将にも同意を求めた。

しかし、山口は角田に言った。

「角田さんは、若大将の事を知らないからそんな風に言えるんだよ。実際に、山本長官の真珠湾奇襲計画の指摘や手直し、更に図上演習は凄かったからな・・・。」

そして、角田は山口達の言う通りの展開になった今回の結果から遠藤の事を改めて、評価し直さなければと思っていた・・・・。


ー 空母『蒼龍』艦橋内 ー


その頃、『蒼龍』でも『エンタープライズ』と『レキシントン』の撃沈で歓喜が湧き上がっていた。

「これで『赤城』と『加賀』だけでなく、乗組員たちやパイロットたちの無念を晴らせたな・・・・。」

「はい・・・・、ですがまだ真珠湾内の工場施設や燃料タンク施設が、残っています。」

「その辺りは、若大将自らがケリを付けるだろう。その為の『蒼天の艦隊』が持つ『もう一つの牙』だ。」

そう言って、山口と柳本は遠藤たちが向かった北方にあるであろう真珠湾の方向に視線を向けた・・・・。


ー 戦艦『土佐』防空指揮所 ー


現在、戦艦『土佐』は一部の艦隊を率いて真珠湾に向かっていた。


本来ならば、ハルゼー艦隊を叩いた後で真珠湾内の工場施設や燃料タンク施設を航空戦力で叩く予定だった。

だが、時間的にハルゼー艦隊の後で真珠湾を叩くとなると、時間は夜になってしまう。

流石にこれ以上は厳しいと判断した遠藤は、一部の艦船を率いて直接、真珠湾内の工場施設や燃料タンク施設をを叩くことにした。


ハルゼー艦隊へ第三次攻撃隊が放たれた直後に、給油艦から燃料の補給を受けた後に第二航空艦隊から離脱して真珠湾に向かう遠藤が率いた艦船は以下であった。

第二航空(機動)艦隊 旗艦:土佐型戦艦『土佐』

第一戦隊:長門型戦艦『長門』、長門型戦艦『陸奥』

第一巡洋戦隊:高雄型重巡洋艦『鳥海』、高雄型重巡洋艦『摩耶』

第四駆逐隊:陽炎型駆逐艦『野分』、『嵐』、『萩風』、『舞風』、『秋雲』

以上が遠藤が率いる真珠湾の工場施設や燃料タンク施設を攻撃するために編成された山口が言っていた『もう一つの牙』だった。


他の艦船は空母などを守る為に留まり、第三次攻撃隊を回収したら日本本土に帰航する手筈になっていた。

また、同じく給油艦から燃料を補給を受けた清水が率いる第19潜水隊:巡潜乙型潜水艦『伊号第五十五潜水艦』、『伊号第五十六潜水艦』、『伊号第五十七潜水艦』、『伊号第五十八潜水艦』の4隻の潜水艦も『ある目的』のために『もう一つの戦場』に向かった。

なお、空母部隊は山口に臨時の指揮を任せることになっていた。


遠藤は、うっすらと見えてきた真珠湾のシルエットを見ながら、小さく呟いた・・・・。

「さて、いよいよ仕上げだな・・・・。」



____________________


今回、少し短くなりました<(_ _)>


さて、いよいよ真珠湾作戦も終わりが迫っています。


若大将が率いる『もう一つの牙』による打撃は、どれくらいの破壊を真珠湾に齎すのでしょうか・・・・。

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