第9話 『真珠湾攻撃サレル演習ニアラズ』

ー 1941年12月8日 真珠湾 ー


時間は、南雲が率いる第一航空艦隊から放たれた第一次攻撃隊が真珠湾に突入する直前まで遡る。


南雲と遠藤の攻撃目標であるアメリカ合衆国ハワイ州オアフ島パールハーバー(真珠湾)のアメリカ軍太平洋艦隊基地では、アメリカ太平洋艦隊司令長官ハズバンド・E・キンメル大将が幕僚達を緊急招集して対日対策を進めていた。

キンメル達の元にも、日本の宣戦布告や一部の日本艦隊の行方が摑めない事も知らされていたからだ・・・。


「ウィリアム、日本艦隊の行方は摑めないのか?」

キンメルは参謀長のウィリアム・スミス少将に日本艦隊に関する続報がないかと尋ねた。

「実は長官・・・、1時間程前にミッドウェー近辺から宣戦布告を宣言したモールス信号を受信しました・・・。」

この報告に、キンメルだけでなく幕僚達も愕然とした・・・。


キンメル長官は、

「なんて事だっ!!しかし、日本艦隊の狙いは、この真珠湾か・・・!?」

と推測をした。

主席参謀チャールズ・マクモリス大佐も、キンメルと同意見だった。

「可能性は高いですね。『日本人に出来るわけが無い』と偏見を持っていましたが、日本艦隊がこの真珠湾を叩く可能性は大いにあります。」

また、航空参謀ドナルド・ハガティ中佐も最悪の予想を述べた。

「基地だけで見ても、基地施設、ホイラー飛行場とヒッカム飛行場、特に燃料タンク施設を破壊されたら、少なくとも我々太平洋艦隊は6か月~1年間は行動不能になりますっ!!」


幕僚達の意見を聞き終えたキンメルの決断は速かった。

「すぐに陸軍にも協力を依頼して、カタリナ飛行艇部隊だけでなく他の航空戦力もフル稼働させて日本艦隊を見つけるんだっ!!」

スミス達幕僚一同は、一斉に動き出した。

(チャールズの言う通りだな・・・。日本艦隊を先に発見して叩けば、敵の真珠湾攻撃を阻止する事は出来るっ!!)


だが、キンメル達は、この時点で気付いていなかった。

真珠湾とアメリカ太平洋艦隊を狙っている日本艦隊が二ついる事を・・・・。

そして、既に南雲の第一航空艦隊から第一次攻撃隊が放たれて真珠湾に迫っている事を・・・・。


キンメル達が日本艦隊の索敵を始めようとしていた頃、湾内に停泊しているアメリカ太平洋艦隊の主力艦の甲板では水兵達が日課にしているモップでの掃除が始まっていた。

また、真珠湾の浜辺で日光浴をしている民間人達が何事も無く過ごしている。


一方、南雲の第一航空艦隊から放たれた第一次攻撃隊は、低空飛行で真珠湾に近付きつつあった。

ハワイ・オアフ島北端のカフク岬に展開するアメリカ陸軍第五一五対空警戒信号隊のレーダーに一瞬だけど反応があった事から、士官が、外にいた部下に確認させた。

だけど、異常は見当たらなかったので、彼等は上への報告をしなかった。

実際は、レーダーに反応したのは、間違いなく日本の攻撃隊だった。

しかし、キンメル達が陸軍の監視所に些細な事でも直ぐに報告させる旨の連絡を徹底していなかった為に、結果、報告がされない失態を作り出してしまった。


そんな中、真珠湾上空に近付きつつあった第一航空艦隊から放たれた第一次攻撃隊は、いよいよ作戦を実行しようとしていた。

そして7時49分、第一次攻撃隊は真珠湾上空に到達し、攻撃隊総指揮官の村田が各機に対して「ト」連送『ト・ト・ト』で『全軍突撃』を下命した。

更に7時52分、村田は旗艦である空母『赤城』に対して「トラ」連送『トラ・トラ・トラ(ワレ奇襲ニ成功セリ)』を打電した。

この電波は空母『赤城』で中継したが、中継を待つまでもなく広島の呉でも、東京の大本営でも指揮官機の電波を直接受信した。

勿論、遠藤が率いる『蒼天の艦隊』でも受信した。


そして8時00分、村田が率いる第一次攻撃隊が真珠湾内のアメリカ太平洋艦隊に襲いかかった。

結果、九九式艦爆隊による急降下爆撃や九七式艦攻隊による雷撃によってアメリカ太平洋艦隊の主力である戦艦隊だけ見ても、戦艦『アリゾナ』、『オクラホマ』、『ウェストバージニア』、『カリフォルニア』が撃沈された。

また、戦艦『ネバダ』は座礁。

他の戦艦『テネシー』、『メリーランド』、『ペンシルベニア』も損傷していた。

他にも駆逐艦数隻にも損害が出ていた。

正に、真珠湾内は『阿鼻叫喚な地獄絵図』な光景となっていた・・・。


辛うじて、爆撃を逃れていた基地施設の建物から飛び出したキンメル達は、目の前の惨状に言葉を失った。

そんな彼等の上空を数機の零戦が通過していった。

翼に印された日の丸マークを見て、キンメル達は真珠湾が日本の航空攻撃を受けていると実感した。

やがて、第一航空艦隊が送り込んだ第一次攻撃隊は、母艦への帰途についていった。

そんな中、キンメルは近くにいた兵士に命じた。

「今すぐに、平文で良いから本国に打電してくれ、『真珠湾攻撃サレル演習ニアラズ』とな・・・。」

慌てて通信室に兵士が向かった後、キンメルはスミス参謀長に言った。

「すぐに陸軍にも協力を依頼して、カタリナ飛行艇部隊だけでなく他の航空戦力もフル稼働させて日本艦隊を見つけるんだっ!!」

スミス参謀長達は、一斉に動き出した。


(日本を見下した結果が、目の前の惨状だ・・・・。だが、日本艦隊を発見して叩けば、我々にも逆転の可能性はあるっ!!)

キンメルの心は、未だに折れてはいなかった・・・・。


また、南雲は大きなミスをしてしまっていた・・・・。

南雲は戦艦ばかりに集中してしまった為に、ホイラー飛行場やヒッカム飛行場への攻撃がおざなりになってしまった。

更に、数機のカタリナ飛行艇が引き上げていく日本の攻撃隊を追跡していた。


結果、第一航空艦隊の居場所を特定されてホイラー飛行場やヒッカム飛行場などの航空戦力が、第一航空艦隊に襲いかかる兵力になってしまう事を南雲達は知る由も無かった・・・・。



____________________


遂に始まった真珠湾攻撃。


キンメル達も勿論、黙っている訳はありません。


しかも、南雲は戦艦ばかりに集中して、飛行場への攻撃をしなかった。


どうなる事やら・・・・😓

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