第35話悪あがき

リスティヒは覚悟を決めて振り返ると二人を見た。すると彼女は娘達の反応など待たずに、


「私、そんなお嬢様方など存じ上げません。

多分ですが、どなたか別のお方とわたくしを見間違えているんだと思います。グスッ…」


エリーとソフィアはリスティヒを見て驚愕した。

薄暗かったが昨日の遭難時、誘拐犯達と一緒にいた女性と見た目も先程から呼ばれている名前も同じなのに性格と声色、喋り方までもがまるで違う。


昨晩初めて見た印象は豪快な姉御肌と言った感じだったが…まぁ、今は状況が状況なだけに仕方がないのかもしれないが…


だからっと言って、あの人物がこんなにもしおらしくなるものなのだろうか?っと困惑したエリーとソフィアだが…


二人は顔を見合わせると意を決し、ソフィアがリスティヒに訪ねる。


「あの…もしかして双子の姉妹とかいますか?」


リスティヒにとって予想外な尋問だった。


なんだその質問は?どういう意味だコラァ⁉︎と逆に問い詰めたかったが、

この質問に嘘はまずい。彼女の家族構成は教会には既に知られているからだ。


「いえ…おりません。」


「じゃあ、この人で合っていると思います。」


「‼︎じゃ…じゃあや思いますで私を犯人扱いするなんて、酷すぎます!グスッ。

だって私、濡れ衣なのに犯人に確定されたら拷問されて殺されるんですよ…グスッ。」


「でも、犯人達が呼んでた名前とも一緒ですし、見た目も昨日の人物と同じ方です。」


「で…ですから、それは貴方様方がなにか…誤解されているんだと思います…その…」


リスティヒはここで、いつかは聞かなければいけない核心へと迫る。


「誘拐犯の方々が私を…その…お仲間とでもおしゃったのでしょうか…?」


するとメルロが、


「いえ、犯人方の口から貴方の名前は出ておりません。

なにせ、実行犯達はブロック・ストロング様によって既に討ち取られた後でしたので…」


メルロの発言を聞いてリスティヒは司祭の懐でほくそ笑む。


「…なら!やはり、お嬢様方の誤解なんです。」


「ならば、昨日はなにをなさっていましたか?」


「さっ…昨日は教会で一通り使徒職をこなした後、お嬢様方の捜索をお願いされましたので森へと…捜索に行きました…」


「どなたと一緒に捜索したのですか?」


「…一人です。」


「何故ですか?三名以上の集団を組み捜索せよとの通達だった筈ですが?」


「…その…勝手な判断でひとり…行動をしてしまったことは深く反省しております。


ですが、話を聞き…遭難されたお嬢様方の心情を考えましたら居ても立ってもおられなくなりまして…気づけば一人で捜索しておりました。」


「話を聞いてすぐさま森へと向かわれたのですか?」


「…はい。」


「おかしいですね。捜索願いが出たのは昼の13時半頃。なのに14時頃、捜索範囲の反対側の村の外れであたなを見たという住民の方々がいらしゃるのですが…」


リスティヒがエリー達を攫う為の人員を確保する為、売買屋の手先に会いに向かった最中に目撃されていたのだ。


「きっと…私を誰かしらと見間違えたのだと思います…」


「皆さん、貴方と見間違えてばかりですね。」


「そんなこと…私に言われましても…グスッ。」


すると、ここでエリーが、


「そう言えば私達、誘拐される直前にこの人に注射を打たれて眠ってしまったんですが、もしかしたら注射器をまだ隠し持っているんじゃないんですかね?」


「!!」


リスティヒは焦った。

注射器は自腹で購入した物であり、ましてや使い捨ての道具じゃない。

こんなことになるとは思ってもいなかったから処分などしていない。

部屋に隠してはあるが捜索されればすぐでも発見されることだろう。


睡眠薬が入った瓶と共に…


急に口数が少なくなったリスティヒを更に追い詰めるように、この教会のシスターの一人が何処かしらからか現れるとメルロに近づき、なにかしらを耳打ちした。


それが終わるとリスティヒに軽蔑するかのような視線を向け一瞥し、この場から去っていった。


するとメルロは司祭に抱き抱えられているリスティヒに視線を戻し、


「今、捕まっていた犯人の一人が貴方が主犯だと口を割ったそうです。」


「ちょ、ちょ、ちょっと待てよ‼︎奴等は全員討ち取られたんじゃねーのかよ!?」


リスティヒは共犯者達は全員亡くなったと勘違いしていた為、驚きの余り本性が露呈してしまった。


「あっ…いえ…先程、メルロ様が全員討ち取られたとおっしゃりましたので…」


これには司祭もドン引きで、リスティヒを庇うのを諦めたかのように彼女から身を離し距離を取る。


「私は犯人達とは言いましたが、全員とは言っておりません。」


リスティヒはメルロをこの場で今すぐ殺したいという衝動に襲われたが、それを必死に抑え、


「…それだって、捕まった犯人が罪を軽くしたいが為に、私に罪を押し付けてるだけなんです…司祭様は私のことを信じてくださいますよね?」


司祭はリスティヒから顔を背け、もう彼女を庇うことはしない。


「そんな…皆んなして酷いです。」


「その口を割った人物曰く、貴方が誘拐に関与していただけでなく、この教会にて人身売買にも関与していることを白状なされたようですよ。」


「そっ…それも…全部出鱈目なんですー‼︎シクシク」


もう言い訳は無理だと観念したリスティヒは泣き芸を披露しながら、この場で一番弱そうな人物は誰かを物色していた。


シスター服のスカートの下。右太ももに巻いてあるベルトにカミソリを隠し持っている。


彼女はその剃刀にそっと手を伸ばし、狙った獲物に向かって低い体勢から突如突進する。

彼女の視線の先にいたのはこの場で最も幼く弱そうな人物…


エリーだ。


彼女は折り畳まれた剃刀を開き、人質にする為に彼女を掴もうとした…


っが、その手はヒラリとかわされた。


氣を扱えるエリーにとってリスティヒの突進を避けるのなど訳がない。

避けられたリスティヒは慌てて体制を整えると、次にソフィアを捕まえようと彼女に視線を向けたが、


リスティヒの目の前にはいつの間にかソシエが立っており、鞘から剣を抜くと上段から刃を振り落とした。

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