第10話エリーvs悪ガキ三人組

この世界は娯楽が少ない。


前世のようにタブレットで動画を漁れる訳でもないし、テレビで娯楽番組が流れてる訳でもない。


いくらアイドルになれるよう訓練の日々に明け暮れてるとは言え、息抜きは必要だ。

だからか数少ない娯楽のうちの一つ、私は気分転換にこの大自然を眺めようと一人散歩に出ていた。


すると家からそう遠くない、ひと気の少ない草原の広がる道を歩いていた時、前方から戯れ合うように歩いて来る三人組の子供達がいた。


彼等はワイワイと大声ではしゃぎ、前方など見てなさそうに歩いていたが、すれ違いざまにその中の一人が私に気づき、「あっ!」っと声を上げた。


その声で私も彼等が誰かを思い出し、「こんにちは」っと挨拶をしたのだが、彼等が返した返事は挨拶ではなく、


「ガーランドさん家の狂音音痴女‼︎」


暴言だった。


よく知りもしない人物にいきなりこんなことを言われ多少イラッとはしたが、私は見た目はまだ幼女だが中身はハタチに近い大人の女。


子供の戯言に付き合う訳もなく、そのまま素通りしようとしたが、この歳の男の子は一度絡んだらしつこいのなんの…


「どこ行くんだよ。音痴女。」


「音痴女!」「音痴女!」


リーダー格のガキんちょ、(前回会った時、一番最初に目を覚ました子)に連なるようにして、取り巻き二人も私を音痴呼ばわりし始め、こぞって後を着いてくる。


こうゆうのは無視が一番効果的なのだろうが、いつまでも着いてくるし、音痴を連呼してくるので、「いつ私が貴方達に歌声を聞かせましたか?」っと質問を投げかけると彼等は、


「こないだお前ん家の裏庭に入った時に聞いたぞ‼︎」


「そうだそうだ!」「聞いた!聞いた!」


「俺達はお前の下手くそな歌声を聞いたら急に頭が痛くなって倒れたんだからな‼︎」


私な彼等の返事を聞いて怒りを覚え始めていたが、私の方が大人なんだと自身を落ち着かせる。


「歌声で気絶なんて…フッ…ご冗談を、」


「ご冗談じゃねーよ。この音痴女。」


…にしてもなんて失礼な連中なんだと驚きを隠せない。


私の歌声を聞いて気絶だなんてそんな訳がないと思いながらも、心の片隅では…

時を遡ればアヴェントとエセルは私の歌声を聞くたびに具合が悪そうだった…


だから家の中ではなく、裏庭で歌っていたんだっけっと心当たりがある一方で、いやいや、いくらなんでも具合を悪くすると気絶するとでは意味合いが違ってくる。


ここでふと、あれ?もしかして成長したと同時に歌声の殺傷能力が上がってたりするのかな?


この仮説を立てた途端、私の表情から血の気が引いていく。

もし、ソレが本当ならアイドルになる所の話ではない。


どうしよう…私の歌声で人を殺めてしまったら…


必死になって考え抜いた結果、この話はここで一旦置いといて、私は話の論点をズラすという方法を思い着いた。


「っと…っと言うか…なんで私の家の裏庭に勝手に入って来たんですか⁉︎」


この質問は意外と効果覿面だったのか、彼等は急に動揺しだし、


その言い分は、


「なっ!べ…別にいいだろ!遊びに夢中になってたら、よりにもよってお前んちの裏庭にたまたま入っちゃったんだよ⁉︎」


「そうだ!そうだ!別にリーダーがお前を気になってる訳じゃないぞ‼︎」


「そうだぞ!リーダーがお前とお近づきになる為、侵入したとかじゃないんだからな‼︎変な勘ぐりはするなよ!」


「お前ら黙っとけ‼︎」


子分1号と2号の発言に本音が隠れていたのか、悪ガキリーダーは1号と2号に顔を真っ赤にして怒鳴った。


どんな理由にせよ、素行が悪質なだけに子供だからと許す訳にはいかなく、


「いくら遊びに夢中になってたからって、人の家の敷地内に勝手に入ってはいけないんですよ‼︎犯罪です。二度としないで下さい‼︎」


これまでの経緯の苛立ちもあり、口調が多少きつめになってしまい、当然のことながら悪ガキ三人組は素直には聞き入れず、


「はぁ⁉︎なっ、生意気だゾ!狂音音痴女のくせに‼︎」「生意気だ‼︎」「生意気だ‼︎」


「ちょっと‼︎その呼び方やめて下さい。失礼ですし、不愉快です。」


「だって、本当のことじゃーん。」


「全く、コレだから子供は…」


「はぁ?お前の方が子供だろうが⁉︎」


「私の年齢を知ってるんですか?」


「知らなくってもお前の方がチビだし!チビチビ‼︎」


「全く…コレだから子供は…」


「あっ!また同じこと言ったな!ちょっとツラが良いからって調子に乗りやがって‼︎」


すると悪ガキリーダーは地面に落ちていた石を一つ拾うと、私に向かって投げつける素振りをしてきたので、


私は驚き「きゃあ!」っと声を上げ、その場にしゃがみ込み両手で頭を庇ったのだが、そんな私の姿を見た悪ガキリーダーは満足そうに笑い。


「バーカ‼︎投げてないよ〜。」っと自身の手の平を広げ、その上に乗っている石を私に見せつけると三人は顔を見合わし、大はしゃぎしていた。


くだらないと思いながら、私が無言で立ち上がると三人はこちらに振り向き、


「やーい。ビビってやんの〜⁉︎」


また私を侮辱してきたのでいい加減苛立ちが募り、


私は目を瞑り、軽く咳払いをしたのち、口から大きく息を吸い込む素振りをしたら、彼等はそれが歌を歌う為の一連の行動だと勘違いし、「ひぃ…」っと小さな悲鳴を各々上げ、体を強ばらせたので、


「ふぅ〜。」っと深呼吸するように息を吐き出すと、そこには彼等の恐怖に引きずった表情があり、私はそれを見て内心複雑な心境に陥りながらも口元は薄らっと笑っていた。


すると恥をかかされたと気付いた彼等は全身が小刻みに震えだし、顔を赤らめながら、


「音痴女‼︎」「音痴女‼︎」「音痴女‼︎」


三人がかりでまた私へ暴言を吐いてきた。


またソレか…っと、この終わりの来ないやり取りはいつまで続くのかと気が遠くなって来た頃、突如どこからともなく大きな笑い声が空に響いた。









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