第11話ヒーローは遅れてやって来る

全員が笑い声のする方向に自ずと視線が向くと、そこには草原の中に高さ十数mはあるであろう大きな木が一本だけそびえ立っており、


私達からその木までの距離はそう離れてなどいなかったが、その木の頂上で腕を組みコチラを見ている人影が小さくそびえ立つ。


その人物は白く飾り気の無い仮面で素顔を隠し、見たことのある道場着を来た小さな男の子で、


「わーはっはっはっは‼︎私が来たからにはもう安心だ‼︎」


聞き覚えのある声。まだ声変わりもしていない可愛らしい声で、


「困っている人は見捨てない‼︎私は正義の味方。勇者の仲間。私の名は…」


でも、どうやってあんなに高い場所に登ったのか?それに彼はまだ八歳。いくらなんでもあんな所にいるのは危険すぎる。


だから私は彼が台詞を言い終えるのを待ってなどいられず、遮るように、


「ダン!そこは危険だから早く降りて来て‼︎」


「ちがーーう‼︎私は決してダンなどと言う少年などではなーい‼︎」


決め台詞を遮られ、正体も見抜かれ、ダンは多少バツが悪かったのか、今までよりも大きな声で私の発言を否定すると軽く咳払いを挟んだのち、先程の台詞を言い直した。


「ゴホンッ…えぇ…私は正義の味方。勇者の仲間。私の名は…ジャスティスだ‼︎」


そう言い終えるとジャスティスは両腕を揃え斜め上へ、肩よりも上へと指の先までピンと伸ばし、それはあたかもどこぞのライダーが変身するポーズにも見えたが、


私はそんなことよりもダンの身を案じ、気が気ではない。だからこそ、


「わかったからジャスティス。そこは危ないから早く降りて来て‼︎」


私は催促するようにダンに頼んだのだが…

するとダンはその場から早く降りる為か「トウ‼︎」っと言い放ち、まるでプールに飛び込むかの様に前傾姿勢で頭から私達がいる場所に向かって飛び降りた。


降りて来てとは頼んだが、飛び降りろとは頼んでいない。


高さは十数mはあろう、あんな所から飛び降りたら地面に叩きつけられ最悪の場合、転落死してしまうかも知れない。


私はそんな恐怖心からか両手で自身の目を塞ぎ、ダンから視線を逸らしてしまうと小さな悲鳴を上げていた。


「ひッ…」


だが、ダンは木の頂上から飛び降りた瞬間に体を丸め、空中で前周りをしながら、何ごともなかったように地面へと着地した。


そんなこととはつい知らず、私は地面に落下して横たわるだろう彼の姿を確認する為、目を覆い隠す両手の指を開き、その隙間から恐る恐る目を開くと…

そこには平然と地面に立っているダンの姿があり、私はまたしても驚愕してしまう。


「ひゃあ⁉︎うそ…なんで⁉︎」


もしかして体に命綱でも巻いていたんじゃとも考えてしまったが、この後、その発想自体が間違いだったんだとすぐさま気づかされる。


ダンは私達のすぐ近くに着地していて10m程の距離を飛び越えていた。

近くで見る限り命綱をつけてもいなければ、

着地した衝撃で足を痛めてる素振りもない。


私はなにがどうなっているのか訳が分からず、軽くパニックになりそうだったが、そんな私を尻目にダンはこちらに向かって話しかけてきた。


「お嬢さん。私が来たからにはもう安心だ!暴力は振るわれてないかい?怪我はしてないかい?」


いや…むしろ貴方の方が怪我とかしてないの?っと聞き返したかったが、私は驚きの連続で疲れてしまい、


「…大丈夫です。」っとだけ返事を返した。


するとダンはすぐさま三人組を指差し、


「魔神の手下共め!女性を集団で狙うとは…なんとも卑劣な奴らだ‼︎」


「誰が魔神の手下だ!」


悪ガキリーダーがつっこむ。


「二度とこのお嬢さんを虐めるんじゃない‼︎でなければ、この正義のヒーロー、ジャスティスが相手になろう‼︎」


「ぐっ…」


悪ガキリーダーは突然の出来事に苦虫を噛み潰したかのような表情をする。

なにせ先程の出来事を見ていただけに、ダンの信じられない程の身体能力の高さを前にばつの悪さを感じ取っていた。


でも、ただこのまま臆して終わることは出来ないと、手に握っていた石をダンに向かって投げようとした。


「五月蝿え、この野郎‼︎これでもくらえ!」


すると石を投げようと振り上げられた右腕は振り下ろされることもなく、目にも止まらぬスピードで間合いを詰めたダンによって腕を掴まられると行動は抑止された。


「やめたまえ。」


悪ガキリーダーは捕まれた腕に走るダンの握力による痛み、そして、自身より少しばかり小さいながらも、見上げてくる飾り気のない仮面の奥に潜む瞳の暗さに畏怖し、


「わかった!わかったから離せよ‼︎」


そう言い終わると乱暴に腕を振り払い、彼等はこの場から去っていった。


三人組に付き纏われて困っていた私はダンのもとまで駆け寄ると、助けてもらったことへの感謝の気持ちを彼に伝えた。


「助けてくれてありがとう。ダン。」


「ちがーーう‼︎私は決してダンなどと言う少年などではない!私は正義のヒーロー、ジャスティスだ‼︎」


近くで見るとジャスティスの着ている道着にはダンと名前が刺繍されていたが、私はそこには触れず、


「助けてくれてありがとう。ジャスティス!」


「わぁーはっはっは!気にすることはない‼︎

私は当然のことをしたまでだ‼︎」


正義のヒーロー、ジャスティスは両手を腰に当て踏ん反り返ると高笑いをしていた。

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