第29話ツイてる。
時は遡り約三ヶ月ほど前。
マザーメルロが弟子のソシエと共にこの村に巡礼しに来るようだ。
巡礼なんて名ばかりで各地を巡り情報を収集しているのだろう。
なんにせよ、こいつ等が居ると私の裏家業がやりにくくなる。
だが、最近はこれと言った買い付けの話も来てないから、別に構いやしないが…
なんて思ったのは束の間だった。
メルロ達が連れてきた娘がなかなかの上玉でソフィアとか言ったか?
アレなら変態貴族様が高値で買い取ってくれそうだ。
ただ、教会内で仕入れた噂話ではあの娘はなかなかの訳ありらしい。
娘は両親を目の前でアークデーモンに虐殺されたらしく、どうゆう経緯かは知らないがメルロとソシエによって救出されたらしいが、
よりにもよってアークデーモンなんて怪物と遭遇しちまうなんてよくよく運のない娘だ。
なにせ、生き延びた先にこの私が居るくらいだからね。
私は孤児院の子供達の情報を売買屋に流し、奴等のお得意様から指名が入ったら、
その子を奴等の息のかかった偽の里親に引き渡すことで上がりの幾らかを頂いている。
孤児院なんていい加減なもんで、里親に引き渡しちまえばその後の追跡調査なんてまともにやらないからね。
誤算があったとしたら、あのソフィアって娘をメルロ達がやたらと気にかけてることだ。
奴等はあの娘を特別な一室に住まわせていて自分達以外近づけないようにしている。
両親の死によって引き篭もってるらしいが、あれじゃあ、私が近づき信頼関係を築くこともできやしない。
ましてや奴等がいない間は別の誰かを部屋の前に立たせて警護している程の徹底ぷりで、
流石はかつての【人魔大戦】を生き延び人間種に多大な貢献をした英雄の一人、
教会内でもいまだ強大な権力を保有しているようだ。
にしても厄介なことに私の上級スキル【千里眼】でもあの部屋の内部が覗けない。
遠く離れた場所でも見渡せる能力だが好き放題できる訳じゃない。
使い過ぎれば当然、痛みや疲労など視力に問題が起きるし、とにかく集中力の消耗が激しい。
それに今回のように一定の場所が見渡せないのは、多分、あの部屋に結界が張られているからだ。
今、派手に動いて私の正体がバレる訳にはいかない。私はこの教会内でも上手く立ち回っている。
司祭のジジイが私にしょっちゅう色目を使って来るのが唯一の懸念すべき事態だが、
同時にあのジジイの使える点は私の気を引く為、なかなか興味深い噂話を教えてくれる所だ。
本来ならソフィアの件で私に流れが来るのをひたすら待つだけの筈だったが、
メルロがこの村の何処ぞの娘を弟子として向かい入れたという噂を教えてもらえた。
あのメルロがソシエ以外に弟子を取るなんて…しかも、メルロ自身からその娘を弟子へと向かい入れたそうだ。
多分、その娘、相当ななにかしらの才能を持ち合わせているに違いない。
私は興味を引かれて千里眼でその娘を覗き見た。
正直、驚愕したね。
あんな上玉がこの村に居たことを見落としてたなんて、斡旋屋の名折れさね。
アレならかなりの高値が付きそうだ。
だが、問題はこの娘が村の住人と言うこと。
そうなると売買屋に情報を提供し誘拐への手助けをしなければいけなくなる。
その為には娘の行動パターンを把握しなければいけず、
私はシスターとして使徒職をこなしながら、あの娘の行動を千里眼にて観察しなければならない。
ただ…誤算だったのはこの娘の周りに居る連中が厄介この上ないっと言うことだった。
メルロ達は午前中は必ず教会から離れた場所にある林の中の小屋で娘と密会している。
千里眼で中を覗こうにも、外に居るソシエの野郎が随時結界を張っているようで中でなにをしているのかさえ分からない。
あの小屋は教会地下から隠し通路が繋がっている。
隠し通路から近づいて中の様子を伺うかを考えはしたがリスクが高すぎる。
しょうがなく、メルロ達と別れるまで観察を待つことにした。
そして、待ちに待った娘が帰宅する時刻。
すると、娘の父親らしき人物が行きと帰りを送り迎えしにやってくるのだが…
コイツが厄介だった。
私が娘を覗き見しようと千里眼を使用するとこいつ…視線を察知し此方に振り向くんだ。
それは決して偶然ではなく透視した度、必ず奴と視線が合う。
それもただ視線が合うなんて生優しい話じゃない。間違いなく目で威嚇されている。
まるで私が逆に見透かされている印象さえ覚え、このまま透視を続ければ視線を辿られ私の元まで辿り着くかもしれない。
私もこんなヤツは初めて見たし、なによりもあの目。
こんな裏家業をしてればヤバい奴は山ほど見てきたが、こいつほど恐怖を覚えた奴は他にはいない。
私は娘なんかよりこの父親の正体が気になりだし、少しだけ調べてみたが村ではしがない整体鍼師でしかないようだ。
ついでに娘の母親の方も調べてみたが村では薬草やポーションを栽培製造し、それらを販売しているらしい。
余り探りを入れすぎるのは得策ではないので、私は娘の両親を調べるのはここら辺で切り上げた。
正直、あの父親のせいで私は恐怖心からヤツの娘に千里眼が使えなくなっていたからだ…
やはり、次なる獲物はソフィアに決め、ただひたすら機会を待った。
そして、その機会はようやくやって来た。
それはどうやらあの娘同士が接触し、なにかしらの経緯を経てソフィアが部屋から飛び出し、それを追ったもう一人の娘が、
どうゆう訳かあの厄介な連中の手から離れて娘達のみが行方不明になってくれたらしい。
村人や教会の連中が捜索を始めたが、私の千里眼に勝る捜索手段などない。
私はすぐさま千里眼で娘達を発見すると、この村の外れにいる待機させていた売買屋の手先共と話を付け、人手を借りて娘達を攫いに森へと向かうことにした。
正直、どちらも諦めかけていたがこんな機会が巡って来るなんて、
私…ツイてんじゃん。
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