第30話ヒーロー再び
エリー達を騙した女こと、リスティヒは目的の獲物を捕まえたことにより、自身の役割を終えたことを理解すると、
「あたしはそろそろ教会の連中に顔見せとかないと不審に思われかねないからね、もう戻るから後は頼んだよ。」
「ああ、そうした方が良いなぁ。ここはもうオイラ達だけで十分だ…ひっひっひ。
ところでリスティヒぃ。」
「んっ?なんだい?」
「今日はお手柄だったなぁ。コイツ等はかなりの高値で売れそうだからなぁ、今回の取り分は期待しても良いぞぉ。ひっひっひ。」
リスティヒに不気味な笑顔で微笑みかける誘拐犯のリーダー格の男、キドナップはCクラス冒険者まで昇り詰めた実力のある男だ。
痩せ型で顔色は悪く、まだ四十代だと言うのに猫背の影響か腰は曲がって見え、
その外見のせいで周りには薄気味の悪い印象をあたえている。
そして、なによりもその性格が卑劣で残忍であり、
冒険者時代、ダンジョン内で新人冒険者狩りを生業とし、カネ目の物を略奪していたことがギルドにバレてしまい、賞金首となってしまった男だ。
「そうかい。期待してるよ。じゃあ、またな。」
何度も顔を合わせてはいるが、リスティヒはキドナップの不気味な笑みを向けられる度に背筋に寒けが走る。
仕事も終わり、これ以上この場に長居はしたくないと、リスティヒは暗い闇の中に踵を返し消えていった。
そんな彼女の背中を見送り、
「ひっひっひ。リスティヒぃ。良い女だな。
いつか無理やりにでも抱きてえわなぁ…
っといけね。さっさとこのガキども縛って撤退するぞぃ。」
「了解。」
そう返事を返すと、男達は気を失っているエリーとソフィアの手足を縄で縛り、
口の中に丸めた布の塊を押し込むと口元を布で縛った。
その時だった。
エリーが睡眠薬の効果から目を覚ますと、
「うわぁ!このガキ。もう目を覚ましやがった!」
キドナップの部下の一人が驚くように大声を上げた。
意識を取り戻すと体の自由がきかない。
声が出せない。口の中になにかを詰められていて不快だ。
私は何が起きたのか分からず、必死に体を動かすが完全に動きを封じられてしまっている。
陸に上げられた魚のように暴れる私に誰かも分からない男が、
「おゃ、もうお目覚めかい?お嬢ちゃん。
こんなに早く意識を取り戻すなんて驚いたなぁ。
リスティヒの奴、クスリを希釈でもしてん
のかぁ?おおっと…そう暴れなさんなってぇ、別に取って食ったりやしないよなぁ。
俺達はなぁ。ひっひっひ。」
男は下卑た笑い声をあげる。
私は隣に同じように縛られたソフィの存在に気づき、彼女に向かって必死に声をかけようとしたが、
「んーッ!んーッッ‼︎」
「ひっひっひ。無駄無駄ぁ。その娘はまだ眠ってるからなぁ。ひっひ…
んっ?じゃあ、なんでお前さんは目を覚ましたんだろうねぇ?
たまたま古いクスリと新しいクスリってことだったのかぁ?」
男はなにかを不思議がり頭を捻る素振りをしたが、
「まぁ、どうでもいいかぁ。お前さん達は捕まえたんだしなぁ。
よぉし。じゃあ、コイツ等を運べぇ。」
「了解。」
まずい。流石の私もこの状況がいかに危険なのかを理解している。
私とソフィを攫う為、担ぎ上げようと男達が近づいてくる。なのにどうしようも出来ない。
口元さえ自由になればジャパニーズアイドルを使えるのに…
誰か…誰か私とソフィを助けてと心から願うと、それを聞き入れてくれたかのように、
「わっーはっはっはっ。ハァ…ハァ、」
夜空に聞き覚えのある大きな笑い声が響く。
いや、それよりもなぜ彼がこの場所に?
「待たせたね。ハァ、ハァ…お嬢さん‼︎」
ただ、その声にはどこか疲れが反映されている。だが、そんなことなど気にならないとでも言うかのように誘拐犯達は辺りを見渡し、
「誰だい?一体何処にいるのさぁ?」
まるで、前世でカズマが見ていた戦隊モノの流れのような展開になってきている。
「わっはっはっ‼︎ハァ……私はここだぁ‼︎」
すると、誘拐犯達は頭上から声がすると気付き夜空を見上げ、
「あっ、兄貴!あそこです。木の上に‼︎」
「あー?お前さんは一体誰なんなんだぁ?」
「私が来たからにはもう安心だ‼︎困っている人は見捨てない‼︎
私は正義の味方。勇者の仲間。私の名は…」
ジャスティスはようやく息が整うと自身の名を名乗る。
「我が名はジャスティス‼︎」
「…じゃ、ジャスティスだあぁ⁉︎って誰だそりゃあ?」
名乗り終えたジャスティスは某ライダーのようなポーズを決めると「トォ‼︎」っと声を上げ、前屈みとなり木の上から飛び降りると空中で体を丸め、前周りをしながら地面へと無事に着地した。
薄暗く視界の悪さもあるなか、突如、自分達の目の前に落ちて来たダンに犯人達は、
「うおぉぉい!⁉︎って、驚ろかすんじゃねぇよぉ‼︎」
「えぇぇい‼︎黙れ!魔神の手下達め!!
か弱い女性達を狙うとはなんとも卑劣な奴等だ‼︎」
「チッ、誰が魔神の手下だってぇ?
なんだぁ?こいつァまだガキじゃねぇか。変な仮面つけやがってぇ。」
「えぇぇい!私はガキなどではない!!
それよりもお前達‼︎
今すぐ女性達の縄をほどき解放するんだ!
さもないと…」
「さもないとぉ?…嫌だって言ったらどうなんだぁ?」
「少々痛い目を見てもらおう‼︎」
ジャスティスは戦闘態勢に入ると天拳無手勝流の型を構えた。
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