第31話正義の味方vs賞金首

ダンは相手に向けて身体を真横に向けると、左手は顎を守るように、右手は相手に向けて両足を少しだけ開くと膝を少し曲げ重心を安定させた。


キドナップはその構えを見るなり、余りの隙のなさ、そして、ダンの瞳の奥に宿る力強さを感じ取ると、今から戦う相手はただの子供ではないことを理解する。


そして、先程見た出来事を思い返し、あれ程の高所から飛び降りたのにも関わらず、

足が折れるどころかダメージを負った気配すらない所を見る限り、間違いなく氣の使い手であることが推測される。


氣の使い手は滅多にいない。

普通の人間ではまず勝てる相手ではないのだ。即ち、これはキドナップ自身の話だ。


氣や魔力に恵まれなかった冒険者にはBランクと言う越えられない壁にいつかはぶつかることとなる。

剣を振り回すしか能のない冒険者はCランクとBランクの間を隔てるモノがなにかを知っている。


それは氣を扱えるか扱えないかだ。


氣を扱え戦闘におけるセンスがあり、そしてスキルにまで恵まれれば氣の使い手はBランクどころかAランク、ましてやSランクも夢ではないことだろう。

まぁ、Aランク冒険者でさえ滅多にお目にかかれないのにSランク冒険者なんて伝説級の存在だ。


キドナップは考えた。

目の前にいる相手は一体冒険者ランクで言えばどの位の強さに位置しているのか、

氣の使い手でも老いて訓練もなにもしていなければ勝てるかもしれない。

だが、相手のいで立ちを見ていれば分かる。

コイツは日々修練に明け暮れていることだろう。


受け入れがたいが目の前にいる相手はまだ十歳にも満たなそうな外見だが、既に自分達よりも格上の存在だとキドナップは推測する。


その上で戦術を組み立て勝つ為には…


「おい、お前等ぁ、このガキをやれ。」


「了解。」


これ程の存在だ。生捕りにできれば、自国の国力を上げたい連中が大金を叩いてでも奴隷として買い入れてくれる。

そう…あくまで出来ればの話で無理なら殺すしかない。


自分がやられたら意味がないし、将来の脅威を潰せるのならと自身を納得させ、

キドナップは腰に掛けていた湾曲した刀剣シャムシャールのグリップを握りしめながら、


いの一番に飛びかかった部下とダンとの戦闘を観察した。


部下はダンの真上から剣を振り下ろしたが、刀身が相手の間合いに入った途端、

ダンは片腕を伸ばし刀身の中心辺りに触れると剣の軌道は優しくズラされ、部下は地面を盛大に叩きつけた。


「えっ?えっ?アレッっ⁉︎」


部下は自分の剣がいなされたコトに気がつかず混乱していたが、当然、相手がこの隙を見逃すことなどなく、

ダンは部下の右脇腹に握り拳による一撃を放つと、拳の部分が脇腹にめり込み、ベキベキと肋骨を砕く音が聞こえて来る。


部下の男はその衝撃に耐えられず体ごと吹き飛ばされると後方に生えている木の幹にぶつかり、そのまま気絶した。


一連の出来事を目撃した他の部下達もこんな化け物に飛びかかる勇気などなく、そのまま

戦意を喪失してしまう。


当然、キドナップも今の一連のやり取りを見て、ダンが自身よりも遥か武の高みに立つ存在であることを痛感し、

握りしめていた愛刀を地面に落とすとダンに向かって、


「ひぃぃーっ⁉︎すっ、すまねぇジャスティスぅ‼︎」


大慌てで地面に頭をつけて土下座し、命乞いをした。


「おりゃあ、こんなこと最初からしたくなかったんだよぉ‼︎

でもよぉ、やらなきゃ殺すってオイラもコイツ等も上の連中に脅されて仕方なかったんだよぉ‼︎

だから、頼むよぉ、ジャスティスぅ。

娘達は解放するからぁ、オイラ達を見逃してくれぇ‼︎

こんなことはもう二度としねぇ。

明日からは真っ当な職についてまともに生きていきますからぁ‼︎お願いだぁ‼︎」


するとリーダーでもあるキドナップの姿を見るなり、残りの部下二名も慌てて土下座し命乞いをした。


するとジャスティスは、


「わぁーはっはっは!そうか。そうか。そうであろう!

この正義の味方ジャスティスには誰も勝てないのだ。

なぜなら私は義によって動いているからな。

ふむ。良いだろう。改心するのならこの場から見逃してやろう。

今すぐ立ち去るがいい!!」


「へへーぇ。ジャスティス様ぁ。ありがとうございますぅ。」


キドナップは頭を深く沈め、ジャスティスに感謝の気持ちを示した。


そんなキドナップの改心した姿を見たダンは戦闘態勢を解き、彼等に背を向け振りかえるとエリーのもとへと向かい、彼女を縛り付けていた両腕の縄を素手で引きちぎる。


すると突如、エリーが、


「ん゛ーーー!⁉︎」


慌てたように声を出すと、ダンは背中を深く切り裂かれたであろう鋭い痛みと熱が一線走ると、エリーに被さるようにその場へと倒れ込んでしまう。


「ありがとうよぉ、ジャスティスぅ。

でも、オイラやっぱり改心するのはやめるわぁ。

なんだかんだでこの生き方が気に入ってるんだわなぁ。」


そう言うとキドナップは地面に倒れたダンの頭を何度も踏みつけ、


「どうしたんだよぉ?ジャスティスぅ?

正義の味方なんだろぉ?

お前さんには誰も勝てねぇんだろぉ?」


既に気絶し、動けないでいるダンをキドナップは必要以上に攻撃し続け、


「ひっひっひ。なにが正義の味方だぁ?

なにが勇者の仲間だぁ?馬鹿なガキが。

戦いっていうのは力だけじゃ決まらねぇ〜んだよぉ!頭使ってどんな手を使おうとも勝ってこそなんぼなんだよぉ!


なのにオメェ、自分より弱い奴を舐めてんだろぉ‼︎だから隙なんてできんだよぉ!!

オラぁ、立てよジャスティスぅ!?おめぇはこんなもんかぁ!!?」


私は自由に動かせるようになった両手で口元を縛る布を外した。

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