第6話ブロック・ストロング
そんな不安を断ち切るかの様に、ブォン…ブォン。っとなにか大きなモノが振り下ろされ、空気との摩擦で風を斬る様な音が聞こえて来る。
この音はなにかと思い、音がする方向を見てみると二階建ての屋敷がある。
外観から見ただけでも部屋の数は10を超えていそうだ。
この村で見た中では、今の所一番大きく立派な家だ。
約80cm程の決して高くない垣根が屋敷の周りを取り囲み、おもてから丸見えの庭園の中で、上半身裸の大柄な男性が自身の身の丈をも越えるであろう大きな剣を素振りしている。
いえ…語弊がある。あれは剣じゃないわ。剣なんて可愛い表現じゃ表せない。
大剣?特大剣?っと言うか、よく分かんないけどバスターソードとか呼ばれてそうだわ。
前世で弟カズマのやってたゲームでも、そんな名前の大きな剣があってそうゆうのに似てる気がする。
丸坊主頭のちょび髭を生やした中年らしき男性はただでさえ大柄な体格でありながら、全身に肥大化した筋肉を身に纏い、自身の身の丈をも越えそうな大剣を体中に汗を浮かべながら素振りしている。
「98、99、100…」
おおよそ人間が扱える代物ではなさそうだが、素振りはどうやら100回ワンセットだったのか、男は訓練を終えると額の汗を手で拭い、休憩しようと庭に置かれている椅子に座る為、その場から移動しようとした時、私達の視線に気づいたのか、
「おー、先生じゃないですか!」
大きな手を上げながらこちらに近寄って来た。
「こんにちは。ブロックさん。今日も精が出ますね。」
「ワッハッハ。見られていましたか、お恥ずかしい。
私は毎朝、この庭でこの愛剣『バスターソード』で素振りをするのが日課でしてね。
いいモノですよ。いくつになっても汗をかくというものは…」
やはり、あの大剣はバスターソードで合っていたようだ。
それとこの人、お恥ずかしいっとか言いながら、絶対あの筋肉を見せびらかしたくって、外から丸見えの庭で半裸で素振りをしているんだと思う。
そんなエリーの洞察力は正しいとでも言うかのように、ブロックの大胸筋は視線を引こうとピクピクと小刻みに動いている。
「それに最近は魔物も活発化してきてますからな。この村を守る為にも日々鍛錬ですよ。ワッハハハ!」
この人物の初見の強烈さで忘れていたが、そうだった…
私は中世の時代に転生したのかと推測し、頭を悩ましていたのに、この人、今、魔物って言ったの?
あぁ…ただでさえ情報が錯乱しているのに…
いえ、今のはきっと私の聞き間違えのはず。
だって、魔物なんて生き物が存在する訳がない。
混乱している私の脳が熊かなにかを魔物と聞き間違えただけ。
えぇ、きっとそう…
「魔神が倒されてから六十年余りの歳月が過ぎ去ったのに、世界は一向に平和になりませんからな…」
全然聞き間違いじゃなかった‼︎なんならもっと物騒な存在が出て来たし…って魔神?
じゃあ、この世界は中世ヨーロッパでさえなく、そもそも話を聞いてる限り地球じゃないのかも知れない…
「現勇者様も未だ消息不明のようですしね…」
アヴェントは私の頭の中の整理が追いつかない中、【勇者】と言う新たな存在を教えてくれた。
って…えっ?勇者?
もしかしてこの世界…俄には信じられないけど本や映画で題材になるようなファンタジー異世界なんじゃ?
うそ…駄目だ…頭がパンクしそう。
しかも、現役勇者は消息不明で魔神は死んでいるって、もしこれが本や映画などの物語ならもう見せ場が終わってない?
いえ、むしろこの世界でこれから生きていくなら、魔神などと言う存在は亡くなっていた方が絶対良いはず。
一同空気が重くなったのを察したのか、ブロックはアヴェントに抱き抱えられている私へと視線が向くとお互いの目が合い、私はこの人物の眼力の凄さに驚き、体がビクッと反応する。
すると私が一瞬臆したことに気付いたのか、その目力は瞬く間に消え去ると、その強面な人相からは想像も出来ない位の笑みへと変わり、
「ほぉー、この間産まれたばかりなのにもうこんなに大きくなられたんですなぁー!
それに母親似の美人さんで、」
「まぁ、ブロックさんったら、相変わらずお上手で、エリー良かったわね。ママに似て美人さんですて!うっふふ。」
「やだなぁ、よく見てくださいよブロックさん。エリーは父親の僕にも似てますよ。アッハハ…」
アヴェントは私が母親似とだけ言われたのが気に入らないのか、抱きかかえる私を自身の顔に近づけ、見比べさせるようにブロックの元に近づくがこのおじ様、
汗臭いの…
でも、アイドル目指したる者、この程度のことでしかめ面は出来ない。
「ほぉ…言われてみれば…確かにそうですな。先生似の美人さんですな。」
アヴェントの圧に押されてか、ブロックは気を使うように返事をかえし、
それを聞いたアヴェントはにこやかな表情になったかと思えば、次の瞬間には先程の話を思い返したのか急に哀愁漂う表情となり、
「でも…そうですよね。子の成長は早いと聞いてはいましたが…
ついこの間までは、こんなに小さかったのにもう一人で歩いたり、喋ったり…日々成長していくエリーを見ているとつい考えちゃうんですよね…
あっと言う間に大人になって、どこかの馬の骨かもわからない男と結婚とかして、僕たちの元を離れていってしまうんじゃないかって…アッハハ…
小さい頃はあんなにパパと結婚するとか言ってたのにって思い返したりするんですかね…」
どこか遠くを見ながら妄想を語るアヴェントには悪いのだけどパパと結婚するだなんて、
私は一言たりとも言った覚えはない。
「アナタ。エリーはまだ一歳を過ぎたばかりなのにもうそんなことを考えているの?」
エセルの言う通りだ。だが、アヴェントを庇うかのようにブロックが余計な助言をする。
「いや…奥さん。子供の成長はアッという間ですからな。まだ手の掛かる小さいうちに我が子の可愛さを目一杯堪能すると良いですよ。
なにせ大きくなったら、子は親を甘えさせてもくれませんからな。」
アヴェントは人生でも親でも先輩であるブロックの助言を聞いて感銘を受けたのか涙ぐむ素振りを見せ、急に鼻をすすると、
「そうですね。わかります…思春期になってパパの服と一緒に私の服を洗わないでとか、いつか言われる日が来るかも知れませんね…(ズズズ)
だからこそ、エリー…
エリーの一番可愛いい時期をパパに目一杯、堪能させておくれ‼︎」
アヴェントの私を抱きしめる力が強くなると顔を近づけて頬擦りをしてきたので、私は身の危険を感じ、エセルに両手を伸ばし、
「ママ…抱っこ…」
「まぁ、エリーたら。さぁ、こっちにおいで。」
「なっ…なぜ?」
エセルはアヴェントから私を奪い取ると、
「エリーはママに一番可愛い時期を堪能してもらいたいのよね〜。」
「グワッハッハ!先生。父親は母親には勝てませんぞ!ワッハッハ‼︎」
エセルは私を両腕に抱えながら、勝ち誇ったかのようにアヴェントを横目で一瞬チラ見し、
アヴェントは娘に拒否されたショックからか地面に両膝を突き、その落胆ぶりは地獄にでも突き落とされたかのようなだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます