第26話ソフィアの気持ち
森の中は変な虫などがいて気持ちが悪い。
私は極力草むらに入らないようにソフィアを追いかけてはいるが、彼女は一体何処へ向かっているのだろうか?
私の言葉の力【マスターオブコンサート】で彼女の足を止めさせようとも思ったが、
無意識に使ってしまった笑顔の力【アイドルパンチ】が原因でこんなことになってしまったのだから、私は能力に頼らず、彼女を止めなければいけない。
ソフィアは意外と足が速いようだがどうやら氣は使えないらしく、私と彼女の差は少しずつでも確実に縮まり、
「ハァ、ハァ…っ…ついて来ないでー‼︎」
ソフィアは既に息を切らしており、ようやくスタミナも限界に達したようで足が止まると膝に手をつき、必死に息を整えようとしている。
私はそんな彼女の側まで近寄ると頭を下げた。
「ごめんなさい。私、きっと貴方の嫌がるようなことしちゃったんだよね…」
ソフィアは謝罪よりも、私が息一つ切らしていないことに驚きを隠せないようで、
「ハァ、ハァ…なっ…なんでですか?
私…あんなに早く走ったのに…ハァ、巻けないどころか、息一つ切らしていないなんて…
もしかして…氣の使い手の方ですか?」
「氣のつかいて?あっ!そうみたい。
なんか先生が言うには無意識に氣って言うのを扱えてるみたい。
それに私、ダンスとか毎日練習したりしてるからスタミナもあるんだと思う。」
「そっ…そうですか。凄い…ですね…ハァ、ハァ、その若さで…氣を扱える…なんて…
じゃあ…ハァ…しょうがないですね。」
ソフィアは観念したかのように近くに倒れていた大木の上へと座った。
私も横に座ろうとしたが、元現代っ子なだけにじかに座るのには少々気が引けてしまう。
私のそんな尻込む姿を見て、彼女は気を使われていると勘違いしたのか、
「私は平気ですから、隣に座られることくらいでそんなに気を使われなくとも大丈夫ですよ。
それと先程、私に向かって謝っていたようですが、別に貴方に不快な想いはさせられていませんから気に病まないで下さい。
アレは…部屋を飛び出してしまったのは貴方に非があるとかではなく…
私が…自分自身を軽蔑してしまったのが原因ですので…」
私はソフィアに促され、なんとか大木の上へと座ったが、
彼女が言う「自分自身を軽蔑?」の意味がよく分からず、彼女の表情を覗き込むように聞いていた。
すると、ソフィアは私の顔を少しだけ横目で見ると顔を少し赤らめ、すぐさま視線を逸らし、
「貴方…私になにか魔法をかけましたか?」
「あっ!ごめんなさい。もしかしたらそうかも。私の能力の一部は私の意志とは無関係にに勝手に発動しちゃうみたいで…」
「勝手に発動…確かにあの時、詠唱を唱えている素振りはありませんでしたね…
能力と言うくらいですし、スキルによる特殊魔法と言うことですか?」
「うん。あんまりよく分からないけど、多分そんな感じだと思う。」
「ちなみに…一体どんなスキルですか?」
「なんか、私の魅力を倍増してくれるみたい。」
「なるほど。道理でこんな気持ちになる訳です…」
ソフィアはそう言い終わると自身の胸元に軽く手を添えたのち、
「それでは、私にかけた能力を解除して下さい。」
「えっーと…ごめんなさい。多分解除とかそうゆうのは出来ないとおもう。」
「えっ?どうしてですか…?じゃあ、私はずっーとこのまま…?」
「多分、時間が経つと効果が薄まっていくんだと思う。先生やソシエなんて何度もかかってるけど、すぐにいつも通りに戻ってるし、」
「そう…なんですか…なら、良かった。」
その言葉とは裏腹にソフィアの表情はどこか寂しそうに見えた気もしたが、なら解除してくれなんて言う訳がない。
どちらにせよ、そんな嫌な想いをさせていたなんて、やはり、私は彼女に謝罪することしか出来ない。
「やっぱり、嫌な想いをさせてたんだよね。ごめんなさい。」
「…別に嫌な想いじゃないです。寧ろ、あんなに辛かった想いを忘れさせてくれて嬉しいくらいです…」
「えっ?そうなの?じゃあ…なぜ…?」
「でも…私は大好きだったお父様とお母様が目の前でデーモンに殺される姿を見せつけられたのに…
なのにまだ出会ったばかりの筈なのに…
今は貴方に会えて嬉しいだなんて浮ついた気持ちが、こんなにも簡単にお父様とお母様を想う気持ちよりも強くなってしまった自分が許せないんです。
例え、それが貴方の能力のせいだとしても、こんなの二人への裏切りじゃないですか!」
あぁ…そうか…誰かを想う悲しみや苦しみが強ければ強いほど相手への想いやりなんだ。
私はそれを勝手に踏みにじった。
「きっと二人共、こんな簡単に両親の死から立ち直った娘の薄情さにがっかりしてると思います。」
でも…
「それは違うよ。」
私にはわかる。ソフィアの言ってることは間違っている。
「⁉︎…あっ…貴方に…なにがわかるって言うんですか‼︎
目の前で大切な人達が殺されたコトがあるんですか⁉︎大切な人達を奪われたコトがあるんですか‼︎」
彼女は感情的になり、大木から立ち上がると私に向かって怒りをあらわにした。
ソフィアが言うように、私には大切な人達が目の前で奪われた経験などない。
だけど…自分の命を無理やり奪われた経験はある。
それによって大切な人達を失ったソフィアの気持ちも、
大切な人を置いて来てしまった彼女の両親の気持ちも、私にはわかる。
だから…
「わかるよ。私にはわかる。」
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