第27話奇跡

私は自身を許せないでいるソフィアへ伝えなければいけない。

それが彼女の心に勝手に入り込んだ私の責任だから。


「ソフィアの両親は貴方の幸せを一番に願っているわ。

なにより自分達の死で貴方を苦しめてしまったことをなによりも悔やんでいる。」


「…‼︎」


「自分達の死を悲しんでくれるのは確かに嬉しいかもしれない。

でも、あなたが悲しんでくれるのなんて知っているから、このまま悲しみに押し潰されてしまわないか心配しているわ。


それはね、天にいるはずのご両親に一時的な喜びなんかよりも、もっと辛い後悔の念を与えてしまう。

だから、今は一刻でも早くソフィアに自分達の死を乗り越えて欲しいと願っている。」


私が彼女の目を見て伝えると、ソフィアの瞳には怒りよりも動揺が滲み出ていた。


「なっ…なんですか…あなた、」


でも、まだソフィアの両親の気持ちは伝えきれていないから、


「だからね、ソフィア。


あなたのご両親はあなたを薄情な娘だなんて思ってないよ。

もう充分だから、たくさん悲しんでくれてありがとうって言ってるよ。」


先程まで見ず知らずの相手だったはずなのに自分よりも亡くなった両親の気持ちを遥かに理解しているだろう少女を目の前にして、ソフィアは動揺が隠せなくなっていた。


「なん…なんですか、あなたは…よく…そんな嘘が言えますね…」


それは悔しさであり、自分は両親をあんなに愛していたのに…

だからか、ソフィアはエリーの顔さえもう見るコトができなくなっていた。


「私のお父様にも、お母様にも会ったことも無いのに…よくそんな嘘が言えますね…」


本当はわかっている。

この目の前にいる少女の言っていることの方が余程、私の大好きなお父様とお母様の気持ちを理解していることに。


大好きな両親を侮辱していたのは私の方だったと言うことに…


「嘘じゃないよ。会ったことはないけど、私には分かるの。」


その言葉を聞いてソフィアはエリーの顔を再び覗き見た。


「だって、ソフィアがそんなに大切だと想っている人達だもん。あなたの不幸を願っている訳ないよ。

ソフィアには誰よりも幸せになって欲しいと想っているよ。」


これはエリーが能力を無意識に使用して、ソフィアに幻影を見せたのか、

それとも亡くなってもなお、娘を心配している彼女の両親が起こした奇跡なのかは分からない。


ただ、ソフィアの瞳には目の前に座るエリーの背後に亡くなったはずの大好きな二人が立たずみ、彼女に向かって優しく微笑みかけている。


-もういいんだよ。ソフィア。-


-幸せになってね。-


二人はその言葉を愛娘に伝えるとその場から消え去った。それは、一瞬の出来事で都合の良い幻を見ていただけなのかもしれない。


だが、ソフィアは確かに聞いた。


あの声は確かにお父様とお母様の声だった…


だからこそ、エリーの言うことは正しかったと悟ることができ、間違っていたのは私の方だった。


そう彼女は理解すると悔しさ、嬉しさ、悲しさ、寂しさ、愛しさ、色々な感情が混ざり合い、脳はこの感情を処理しきれず、


ソフィアは泣いた。その場で大声で泣きながら謝った。


「こ゛め゛ん゛な しゃ い゛!!!」


エリーには酷いことを言った。エリザベスやソシエ、教会の人達には色々迷惑をかけた。

そして、なにより亡くなってもなお、心配をかけてしまっている両親に…


こうして彼女の人生は次へと進むコトができるようになった。


それから時刻は過ぎ、


彼女は泣き疲れてしまい、気づけばエリーの膝の上で眠ってしまっていた。




ソフィアは不意に目が覚めると私の膝の上から起き上がり、状況を理解したのか大慌てで冷静を取り繕う。


「すっ、すみません。私、気づいたら寝むちゃってたみたいで…」


「いいんだよ。今日は色々あって大変だった訳だし、なにより辛いことがあったんだから、多少、私に寄りかかってくれても大丈夫なんだから。

それにソフィアはまだ子供なんだから、誰かに甘えたい時には素直に甘えても良いんだよ。」


「な…なんなんですかソレ‼︎私を子供扱いしないで下さい!それにエリーだってまだ子供じゃないですか…

じゃあ、あなたは今いくつなんですか!」


「この間、七歳になったわ。」


「…私より一つ年下じゃないですか⁉︎

それでよく私のことを子供だなんて言えましたね…」


「フッフフ。」


無邪気に笑うエリーの笑顔を見て、ソフィアは誰にも聞き取れないような小声で、


「なんなんですか…


時間が経っても能力が解除されてないじゃないですか…」


「えっ?ソフィ、なんか言った?」


「べっ、別になにも言ってませんよ。さぁ、日も落ちて来ましたし、早く教会へと帰りましょう。」


「そうだね。でも、私、帰り道がわからないからソフィが起きるのを待っていたの。」


その発言を聞くなり、ソフィの顔は血の気が引いたかのように真っ青になり、


「あの…ですね。非常に言い出しにくいのですが…その…私も帰り道…わかりません。」


この場にこれだけ長く滞在していたのに、ソシエがやってこない時点で薄々は覚悟していたが、どうやら私達は遭難したようだ。

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