アイドル修行編
第17話エリザベス・メルロ
創さんとの出会いから明くる朝。
今日は天候も良く日差しも強いので日焼け防止の為、つばの広い日よけ帽と素肌を隠せる長袖の衣服を着て、創さんに言われた通り、指定された場所へと向うこととした。
その場所には心当たりがある。
なにせ、この村には教会は一つしかなく、それでいて大海原が見渡せる所なんてそう幾つもない。
実の所、昨日の出来事から胸がおどり期待が高まっている。
なにせ地球の創造者たる人物の助言とご利益を頂いたのだ。
一体その場所で練習したらなにが起こるのか楽しみでしょうがない。
足取りは軽やかになると指定された場所に着くまでそうは時間はかからなかった。
なにせ同じ村の中だしね。
私は創さんが言っていたであろう教会と大海原を一望出来る場所に居るのだが、よく考えたら細かい座標は指定されていないので、大まかな位置でその場所にて待機してみたがなにも起こらない。
そういえば見晴らしのいい場所で歌ってみてはどうかと提案されたのだった。
私は人の迷惑にはならないように通りから距離を離し、大海原が見渡せるよう崖の間際まで近づき海原に向かって歌ってみた。
するとどうだろう?特に変わった所はないような気がする。
気を取り直してもう一度歌ってみたがやはりなにも変わっていない気がする。
私は首を捻る。
そもそもの話、この場所に来て歌ってそれでなにが変わるのだというのだろうか?
一体、裏庭で歌っているのとはなにが違うのだろうか?
確かに、創さんは私の音痴を直したとは一言も言ってない。
ならなぜこの場所を指名したのだろうか?
もしかして場所を間違えてるのかも…
そもそもあの人物は本当に地球の創造者なのだろうか?
いえ…そんな話じゃなく、確かに私は指摘された通り音程がズレているのかも知れない。
崖に向かって打ち上げる波しぶきを見下ろしながら心を整理する。
海を見ているのは精神的に良いかもしれない。なんだか力を貰える気がするし、何かが閃きそうだわ。
するとその予感は的中したかのように、そうだ!音程がズレてるなら発声練習してみたら良いのかも。
そう思い、私は空に向かって大声で声を上げた。
「あー、ァー、アーーァーア゛ー!」
そしたら、カモメに似た空を飛んでいた鳥達が地面に落下してきた。
鳥達はバタバタと羽を羽ばたかせるが飛ぶことが出来ず、次の瞬間ピタリと動くのをやめた。
まるで生命活動が停止したかのようなその姿を見て、私は慌てて落ちて来た鳥の中の一羽を手で拾い腕に抱きしめ、
「ごめんなさい!大丈夫⁉︎」
すると、抱き抱えていた鳥は驚いたかのように羽をはばたかせ、再び空に飛んで行くと、他の鳥達もすぐさま目を覚まし連なるように大空へ帰っていった。
まさか、歌声だけじゃなく発声しただけでも生き物を気絶させるだなんて…
もしかしたら、大声で奇声を上げただけでもアウトかも知れない。
そう考えると自分が怖くなる。
そんな時だった。
どうやら遠目から一部始終を見ていたであろう、教会の関係者であろうシスター服を着た老婦がこちらに向かって歩いて来る。
歳を召しているようだが背筋は伸びていて立ち姿が綺麗だ。
身長も女性にしては高く、スタイルはモデルのよう。
その後方にシスターの方がもう一人いるが、近づいて来るのは老婦だけのようだ。
「こんちにわ。お嬢さん。」
私に近づいて来た女性は挨拶をしてきたので、私も「こんにちわ。」と挨拶をかえすと、その女性は私の背の高さまでしゃがみ込んだ。
「まぁ、かわいいらしいお嬢さんね。ところで、こんな場所でなにをしていらっしゃったのかしらね?」
「…歌の練習です。」
「そう。歌を練習していらしゃったのね。
でも、こんな所で練習するのは危険だわ。
誰か付き添いの方はいらっしゃらないのかしらね?」
私は先程の出来事でショックを隠しきれなく、もうヤケになっていたのかも知れない。
自分ではどうしようも出来ないので、誰か私の歌声をどうにかしてくれと藁にも縋る思いで正直に話した。
「私の歌声を聞くとみんな具合が悪くなっちゃうから一人で練習していたんです。」
「まぁ!それはなんとも辛い話ね。
あらっ…そう言えば自己紹介がまだだったわね。わたくしはエリザベス・メルロと言うのよ。
お嬢さん。私は貴方をなんと呼んだら良いのかしらね?」
「私はエリー・ガーランドです。エリーと呼んでください。」
「まぁ、エリー!素敵なお名前ね。ちなみにおいくつかしら?」
「今年で六歳です。エリザベスさん。貴方も素敵な名前ですね。」
名前を褒めてもらえたので私も老婦の名前を褒め返し、ニコリと微笑んだ。
するとエリザベスは、
「まぁ‼︎これは⁉︎」
なにかに驚いたかのように胸元を抑えているので、まさか心臓発作じゃないかと心配になり、私は老婦に近づいた。
「だっ…大丈夫ですか⁉︎」
するとエリザベスは私の表情と言動から心配を掛けてしまったと察したのか、申し訳なさそうに微笑み、
「おほほっ。ごめんなさいね。別に胸が痛かったとかじゃないのよ。
ただ…少し驚いただけよ。おほほっ。
ところでエリーさん。今のでわかったのだけど貴方には凄い力があるわ。」
「えっ?ちからですか?」
私はいつ力持ちと思われたのだろう?
そんな怪力の持ち主に見えるのだろうか?
そう思い、首を傾けると、
「そう。魔法の力ね。」
あっ、そっちか!って私、魔法なんて使ってないけど?っと又しても首を傾けてしまう。
そんな私の一連の動きを見てエリザベスはこう言った。
「そう…まだ無自覚なのね。エリーさん。
貴方には選ばれた力があるの。
それはとても素晴らしい力であると同時に、
使い方を知らず扱い方を間違えてしまえば恐ろしい力となってしまうのよ。」
エリザベスの話を聞いて私には思い当たる節があり、
「私の歌声を聞くとみんなが具合を悪くするのって、もしかして…それが原因ですか?」
エリザベスは笑顔で頷くと、
「じゃ…じゃあ、どうやって治せばいいんですか?」
「エリーさん。私たちはまだ出逢ったばかりですが、私のことを信じてくださいますか?」
私はその質問に対して食い気味に何度も頷くと、
「私ならきっと貴方の力になれるかも知れません。
エリーさんが良ければですが、明日からにでも私の元で一緒に貴方の能力について学んでみませんか?」
「は、ハイ!よろしくお願いします‼︎エリザベス先生‼︎」
「おほほ。エリーさん。私の親しい人達は私のことをリリィと呼んでくださるのよ。
エリーさんもそう呼んでくれるかしらね?」
「はい!リリィ先生‼︎」
こうして、私は転生先の世界で新たなる講師に出会たのだった。
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