アイドルの卵、異世界に転生する。

みとしょ

第1話プロローグ

あれは五歳の頃、私はテレビでたまたま観た女性アイドルに心を奪われた。


フリルの付いた可愛らしい衣装に聞き心地の良い歌声。照明にまばゆく照らされ、余りの綺麗さにテレビの画面に釘付けになったの。


その時、幼いながらも本能的に悟ったわ。

私もアイドルになるんだって…


そんな娘の人生の目標を知った母親は、私にタブレットなどの使い方を教えてくれるとネットに落ちているアイドルのミュージックビデオやプロモーションビデオの観かたなども教えてくれた。


お陰でアイドルについて詳しく知れて日々充実していたんだけど、タブレットは母親の所有物だったから頻繁に足元を見られ、交換条件として家事手伝いをさせられたり、弟と妹の世話も押し付けられたりもした…


全てはアイドルになる為だったから甘んじて受け入れたわ。


私は弟妹の三姉弟で、有難いことに家庭の環境はそこそこ恵まれていたの。各自に自身の部屋が割り振られていたし、なにより不自由も感じなかった。

だからこそ色んなアイドルの動画を観て研究できたし、没頭し、振り付けを真似てダンスの練習も出来た。


歌だって上手くなれるようにと発声トレーニングもしたりもしんだけど…

流石に防音室って訳じゃなかったから年を重ねたある日から隣の部屋の弟にはよく怒られるようになった…


それだけならまだしも、私の部屋はニ階の奥、壁際に位置している部屋なんだけど両親からも近所迷惑になるからとよく止められたりもして、ちょっと心が折れかけてきたから、方向性を少し変えて歌に関しては聴くことを重視し、軽く口ずさんだり歌詞を覚えることに専念していたの。


七歳になる頃には一端に美容にだって気を使い始めるようになる。

アイドルは歌や踊りが上手いだけじゃ駄目。

世の中はそんなに甘くはない。ひと目を引くのに一番重要なのはやっぱり見た目の良さ。


自分で言うのもなんだけど私は容姿もそこそこ良かったの。産んでくれた両親には感謝の気持ちしかないわ。


だからと言って原石の良さに甘え自身を磨くコトを怠るなどという愚行はしなかった。

成長を怠る人間はアイドルにはなれないと知っていたから徹底的に磨いたわ。

いかに自分をよく見せれるかを研究したの。


それだけじゃない。


見た目に引けをとらないくらい重要なモノ。

それは男は度胸。女は愛嬌。

先人達の残した知識を信じて鏡に向かって笑顔の練習をよくしていた。


時折り、弟や妹が勝手に部屋に入ってきて「お姉ちゃん気持ち悪い。」と言われたりもして、またもや心が折れそうになったけど、


私の努力は間違ってなどいなかった。っとでも言うかのように結果は学校にてよく出ていたの。


「なぎさー!好きだ〜!!」


「ごめんなさい!!」


有難いコトに、私は学校ではよく告白してもらえたんだげど、誰かと付き合いたいから自分磨きを頑張ってた訳じゃないので告白は全てお断りさせてもらっていた。


どうやら私は色恋沙汰に余り興味が湧かないようで、同級生の女の子達が誰々くんをかっこいいなど惚れた腫れただのよく話していたが、私は好きな人も気になる人も特に出来なく…


まぁ、学校での思い出話はほどぼどにして、


そうこうしている内に芸能事務所に所属し、十二歳になる頃にはアイドルオーディションにも通り、なんとかアイドル研究生になることができた。


そう。ここまでは全てが順調だったの。自分でも驚くほど。


ただ人生は一筋縄ではいかなく、いつまでもダンスや歌の練習だけをしていても許される年齢じゃなくなって…

小学校から中学校に上がると勉強も難しくなってきて、勉学に励む時間も次第に増え、その合間に場所を替えダンスや歌のレッスン。


ただでさえ時間が足りていない中、家、学校、自宅から遠く離れた事務所やレッスンスタジオの往復。


まだ中学生とはいえ、疲労は蓄積していく。


そんな日常を繰り返していたある日、あの出来事は起きた。


日が沈み辺りが暗くなる頃、この日の訓練も終わり自宅へ帰宅しようと、レッスンスタジオの正面玄関を出てすぐの大通りで信号機の色が変わるのを待っていた時、


日頃の疲れも蓄積していた為、急な睡魔に襲われるとウトウトとしてしまい、そのまま私は前方に体勢を崩しかけた時…


目の前を勢いよくトラックが通過したので、私は驚きと共に慌てて目を覚まし、その場に足を踏みとどめた。


「危なかった…」


そう独り言を呟き、しっかりしなきゃっと睡魔を払うかのように頭を左右に振ると、


次の瞬間…


突如、背後から誰かが私の腰の辺りに抱きつくように勢いよく飛び掛かってきたのだ。


その衝撃で二人とも交通量の多い車道へと倒れ込んでしまい、私は地面に倒された際、頭を強く打ちつけ痛みと衝撃で意識が朦朧としてしまう。


なにが起きたのかもわからず呆然とする中、


頭を強打した影響か、震える手で地面に手をつき上半身を起き上がらせると、視界の端から目を眩ます程の光が映り込んでくる。

それと同じくして警告を知らせているだろうクラクションの音が、脳内で鈍く何重にも重なり響いていた…


私は時間の流れをやけにゆっくりと感じていて、この時、すでに悟っていたのかも知れない。


この先、自身がどうなってしまうのかを…


するとその予感が正しいとでも言うかのように、何処からか私に語りかけてくる声が聞こえる。


ーごめんなさい。こうするしかなかったのー


それは女性の声で、私はその声のする方へと視線を向ける。


いつの間にかその声の主であろう人物は私の顔の近くまで迫っていて、嫌でも釘付けにされるその暗く沈んだ瞳からは何故か涙を流しつつ、そのまま私を優しく抱きしめるかのようにして、逃げられないよう包み込むと耳元でこう呟いた。


ー私も一緒に死ぬから許してー


恐怖で体は震え、その人物に抵抗する暇もなく、この人物が誰かもわからず、

次の瞬間には横からもの凄い衝撃に襲われると、深い眠りに落ちたかのように全てが暗闇と静寂に包まれてゆく。


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