第2話ようこそ異世界へ

暗闇の中、意識が薄らっと戻ってくる。


だが、思考が正常に動き出すよりも早く、全身に違和感を感じた。


私は狭くて窮屈な所に押し込まれているかのようだ。それでいて、ここは柔らかいながらも温かく、時折、私を押し出すかのように締め付けてくる。


なんだろう…意識が朦朧てしていて脳が麻痺しているかのような、半ば夢見心地のよう…


一体なにが起こっているのだろう…


状況を知ろうにも体は意に反して動かない。瞼さえ開こうとしない。

ただ、誰かのうめき声みたいなものが聞こえてくる気がするが、なんだか上手く聞き取れない。


先程の出来事を考えるに体の自由が利かないのは事故のせいだろう…


きっと、私は車に轢かれたんだ…


だとしたら奇跡的に生き延びたのだろうか?

でも、体の自由も利かなくなってるし…

ましてや顔や体に傷が残っていたらどうしよう…


アイドルになることも出来なくなるし、家族にだって負担をかけてしまう。ヤバい…


それって死ぬことより辛いんじゃ…


なんで…なんで私がこんな目に…そうだ。

あの女のせいだ!あの女、絶対許せない‼︎

私がなにをしたんだ!なんで自殺の道連れにされなきゃいけないのよ‼︎


大きな怒りが込み上げてきたが、それは長くは持続しない。なにせ、今の私の絶望的な現状を考えると怒りなんてすぐに掻き消されてしまう…


そんな弱った心は家族に会いたいと願わせる。お父さんやお母さん。カエデやカズマにだって会いたい。会いたい。会いたいよ…


そう強く願うとなんとも言えない気持ちになり、大声で泣き出しそうになった時、突如、誰かに体を掴まれたのを感じ驚いたのは束の間、次はその窮屈な場所から引き抜かれ宙に持ち上げられたかのような感覚に襲われた。


でも、私はその体感に驚く暇もない。


なぜなら数秒の間、急に息の出来ない苦しさに襲われたからだ。


先程まではこんな苦しみなど感じなかったのに、不意に訪れた苦しみに恐怖が生じパニックに落ち入りそうになった時、誰かに臀部の辺りをいきなり叩かれたようで、


それも一度では済まなく、二度三度っと叩かれ、その痛みと仕打ちに驚く余り息の出来ない苦しさを忘れ、


なんで重症であろう私にこんなことするんだ。っと怒りと悔しさから大声で泣いてしまう。


「おぎゃー!おぎゃー!」


すると何故か急に息が出来るようになり、そのことで私は少しだけ安堵すると心に余裕が生まれた為か、次はこの場に泣き響いている声がまるで新生児のようだと思うと、この声が自身から発せられているのだと気づくまでにそう時間は掛からなく…


それだけじゃない。周りから聞こえてくる声が複数あるのだが、聴力が支障でもきたしたのだろうか…

この声の主達がなにを言っているのか理解できない。言葉がわからないのだ。


ただ、声に反映されているトーンの高さから、この場に居る人達はみな歓喜しているようで、私はまさかとは思いつつも目をゆっくり開けようとすると、今度はちゃんと瞼が開く。


でも、暗闇に慣れていた目に急に光が入ってきたから目は眩み、痛みが少しばかり走りはしたがソレはすぐさま引いた。

視力は悪く、視界はぼやけて霞み、余り見えてはいないが辛うじて自身の体は見える。


私は裸であり、なにより血だらけだ。


驚くと同時に事故のせいかとも思ったが、その考えは間違いだとすぐに理解させられた。

なにせ私の手足が非常に短く小さいのだ。まるで赤子の手足のように…


そのまま胴体が視野に入ると、へその緒は既に切られた後なのか、根元に糸ようなモノが巻かれ止血でもされているかのよう。


私がそれを見て呆然としていると、次は誰かに体を布かなにかで拭かれ始める。

私は驚きの連続で理解が何一つ追いつかずされるがままだ。


すると私を拭いていた誰かは、私を他の誰かに手渡すかのようにそのシワシワの荒い肌触りの手から、柔らかく張りのある手の平に優しく掴まれるとそのまま抱きかかえられ、


その人物の柔肌に密着させられると人肌の触れ合いにより温もりが伝わってくると、密着しているからか、その人物の命が鼓動する音が肌から肌へと伝わり、何故かその心音を聞いて心が落ち着いてしまう。


そんな中、私は嫌々気づいてしまった。赤子になってしまっただろう現実に…


それは生まれ変わったからなのか、はたまた時間が巻き戻り赤子に戻されてしまったからなのか、まだどちらかかはわからない。


もしかしたら、私は先程から悪い夢でも見ているのかもしれない…

だって、こんなことが現実だとは到底思えないし、私にはもうわからない。


これが現実の出来事なのか、それとも悪夢をみているからなのか、叶うものならあの事故も悪夢であって欲しいと願いながら、私はあり得ない出来事の連続で考えることに疲れてしまった。


だから今はこの温かさに甘えようと思う。


そう思った瞬間、私は急な睡魔に襲われ、深い眠りに落ちていくと意識はまた途絶えた。
















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